あれ〜、このバス中社行きだ。最寄りのバス停から乗って席に座ったところで気がついた。神奈川からやってきた友人と、戸隠の花を見てこようと話し、前に行った時の時刻表を頼りに家を出た。友人は今日の新幹線で帰る予定だが、戸隠なら行ってくることが出来るだろうと出かけてきた。私が見ているバスの時刻表は1時間おきに戸隠のキャンプ場まで走る浅川ループ橋経由のものだが、改訂されて、今乗ったバスは途中の中社行き、しかも午前中はこれが最後。
あらら、そういえばバスの便が減って地元の人が困っているという話を聞いたが、このルートだったんだ・・・とはなんとも頼りない話。中社まで行けば、目的の森林植物園までは歩いていけるから大丈夫と話しながら、窓外の景色に目を戻す。
中社でバスを降り、運転手さんに尋ねるとシャトルバスが走っているという。ところがバスの時刻表を見ると時間がバラバラ、長野駅からやってきた路線バスとリンクしていない。これではしょうがない、やっぱり歩いていこう。
中社から歩き始めて越水が原の戸隠古道を進む。しばらく歩いていると、道の脇の法面にポコポコと丸いものが転がっている。いや、これはキノコ。土に半分隠れたようになっているが、ツチグリの真ん中だけ置いたみたいだ。近くにはもう胞子を飛ばしたツチグリが転がっているが、胞子塊の周りにはヘロヘロになった外皮もついている。たくさんあるキノコの方は、触ってみるとしっかり硬い、マッシュルームみたいだねと友人と顔を見合わせる。ツチグリではなさそうだが、何だろう。首を傾げながら歩いていると、今度は綺麗な赤いキノコ、柄は黄色だ。これはタマゴタケと言いながら土をちょっとどけると白い壺が見える、綺麗だね。
さっさと歩けば時間はかからないのだが、花やキノコを見つけるたびに立ち止まり、じっくり見ているので進まない。カラコギカエデの実がぶら下がっているのも面白いし、ツルニンジンの花はもちろん、たくさんぶら下がっている蕾は緑の提灯みたいだし、ゲンノショウコの花も綺麗だし・・・、私たちの足はなかなか進まない。ナガミノツルケマンも上品な花を開き始めている。花が黄色だからナガミノツル(キ)ケマンかと思っていたらナガミノツルキケマンは別名と図鑑にある。
歴史ある戸隠古道にはところどころ標識が立っていて、故事を説明してあるので、それもまた気にかかる。あっちに寄り、こっちで立ち止まりしながらようやく森林植物園に着いた。残念ながら戸隠山は雲に隠れている。でも、楽しみにしてきたレンゲショウマは綺麗に咲いている。友人は蕾が可愛いと嬉しそうだ。近くに揺れているソバナの青も美しい色だ。
みどりが池を回り込んで森の中に入っていく。シラタマノキがたくさん実をつけている。ハクサンフウロもまだ咲いているが、小さなアカバナに目を惹かれる。近寄ってみると、白いアカバナそっくりの花がある。繊細な、ちょっと小さめの花、花は真っ白で葉が細い。ヒメアカバナかな。小さな花を見つけるとつい近寄って挨拶したくなる。
高台に登る途中の水辺にも立ち寄るが、落ち葉がたくさん沈んでいて、ここに潜む生き物の姿は見つけられない。アメンボの仲間が水面を行ったり来たりしているばかり。
さて、湿原に向かう。今日の目的の花に会えるかドキドキしながら進む。サラシナショウマはまだ蕾、メタカラコウはすでに実になっている。今純白の花を広げているのはヒュウガセンキュウかな。この仲間の名前はいつもはっきり分からないのだけれど、ここに咲く種はヒュウガセンキュウらしいと聞いた。
ツルニンジンの蕾、サルナシの若い実、アスマレイジンソウの花など蔓性のものを見つけて喜びながら歩いていくと、あった。まだ咲き残っていた、シキンカラマツ。友人に見せてあげたかった花。友人は関東でシギンカラマツの花を見たが、シキンカラマツは知らないと言うので、ぜひ見せてあげたかった。濁音がつくかつかないかの違いだが、花の姿は全く違う。そう言う私はまだシギンカラマツを写真でしか見たことがない。
ツリフネソウ、キツリフネ、そして美しい形のノブキなどが咲く中をどんどん歩き、車道に出てからさらに中社まで歩いて蕎麦屋さんに飛び込む。
目的を達したので時計を見ると、びっくりするほど時間が経っていた。予約しなければ乗れない特急バスか、県道回りの路線バスか、さてどうしよう。せっかく戸隠に来たのだから美味しい蕎麦を食べてから県道回りのバスに乗ろうと決める。
県道回りのバスは狭くジグザグしたカーブをいくつも越えていく。深い森の中、険しい崖沿いの道をドキドキしながら楽しんで、ようやく善光寺大門に着いた。
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