今年は夏の戸隠に行きそびれた。まだ少しは花に会えるだろうと、久しぶりに森林植物園に車を停めた。野鳥観察のシーズンではないのか、車は少ない。
早く家を出たので、まだ『森のまなびや』は開館していない。レンゲショウマが咲き残っている。みどりが池の向こうには戸隠山、岩肌のギザギザがよく見える。
目的も決めずにやってきたが、やはり植物園を一回りして鏡池まで行ってこようと決めた。幸い空も青いし、鏡池に映る戸隠の山々は素敵だろう。
登り始めると苔むした倒木がある。緑濃い苔の脇にはびっしりと黒い筋がある。クモノスホコリが胞子を飛ばした跡だ。草の中にはコバノフユイチゴの赤い実がいくつも光っている。
登りつくと植物観察園、トリカブトが満開だ。植物園をぐるりと回って、湿原に降りていく。
湿原に降りて木道を進む。もう遅いかと思って来たが、サラシナショウマやヒュウガセンキュウなどの大型の白い花がたくさん咲いている。ヒョウモンチョウが何頭も花の周りを飛び交っている。花を眺めながら木道を奥へ進み、もみの木園地の跡の道から森の中へ入っていく。アケボノソウが綺麗な花びらを開いている。そしてトチバニンジンの赤い実が緑濃い森の中に点在している。真っ赤な玉に黒い化粧があって面白い。葉は手のひら状に大きく、トチの葉に似ている。そしてなぜ人参かと言えばやっぱり根っこ。朝鮮人参のようにゴツゴツしている根は昔から薬用にされたらしい。
森の中に切り開かれた新しい道をしばらくいくと道端の大きな切り株が見える。表面には苔がいっぱいだけれど、粘菌もいそうだ。
洞になっているところをのぞき込むと、小さな白い点が光っている。直径は1mm以下だ、肉眼ではただの点にしか見えない。だが、ルーペで見ると、光の玉が見える。小さな真珠を集めたような綺麗な点が散らばっている。粘菌だろうか。
夫が家に帰って調べたけれど、粘菌の図鑑には見つからないそうだ。あまりに小さいうえに暗い木の洞の奥にいるので、見えにくいし、撮影しにくい。新種だ!と喜んだり、キノコかもしれないねと呟いたり・・・、いつか正体がわかるかな。
私たちがあまりにものんびり撮影しているので、青かった空には雲が出てきた。
鏡池に注ぐ沢にはミゾソバが小さな花を咲かせている。そしてよく見ると、そっくりなアキノウナギツカミの花も混じっている。葉の形が違うから見分けがつくけれど、花だけだとどっちかわからない。アカバナ、オトギリソウ、ゲンノショウコなどの花も散らばっている。
鏡池に着いた。鏡池に映る戸隠連峰を見上げる。紅葉のシーズンには多くの人が訪れるらしいが、深緑に染まった姿もまた厳しさを感じさせて素晴らしい。
しばらく眺めてから来た道を引き返すことにした。
帰りは一つ奥の道から木道に戻ろう。真っ白な大きなキノコがいくつかあってびっくり。両手を広げたより大きい。サルノコシカケの仲間だろうか。
そして、見つけた。アケボノシュスラン、木の影にそっと咲いていた。何年か前(2019年)に戸隠でたくさん咲いていたけれど、その後なかなか姿を見つけられなかった。久しぶりに咲いていたアケボノシュスランはほのかなピンク色で、まさしく「曙の空の色」らしい、綺麗だ。
木道に出ると水芭蕉の葉がとても少ないことに気づく。いつもお化けのようになって立ち上がっているから、私たちはこの時期の水芭蕉をこっそり「お化け」と呼んでいる。ところが今日の水芭蕉の葉はあまり大きくなく、しかも数も少なく倒れている。なんだか元気がない。野生動物が食べるのだろうか。ちょっと寂しい気がする。
代わりにレイジンソウがたくさん咲いている。そして湿原を覆うようにミゾソバも咲いている。ツリフネソウもキツリフネも健在だ。中に真っ白なツリフネソウも発見。彩鮮やかな水辺の花たちに会えて嬉しい。
みどりが池に向かうとピーピーと高い声が聞こえる。水面に浮かんで鳴いているのはどうやらカイツブリの雛らしい。あっちを向き、こっちを向き、向きを変えては鳴いている。親鳥を呼んでいるのだろう。小さな体だけれど、よく通る声はかなり離れても聞こえていた。
そして最後はやっぱり戸隠の美味しい蕎麦!