ついに会えた。リンネソウが群生している。だが、木道から離れた崖のようになった斜面に。カメラを望遠にして覗くと淡い桃色が濃い緑の中にいくつも点在しているのが見える。小さな小さな三角の花がちゃんと二つずつ仲良くぶら下がっている。
私たちはしばらく動かず眺め続けた。
リンネソウに会いたいと、この季節に池の平湿原と見晴歩道に行ったのは過去2回。1度目は影も形も見つけられなかった(※1)。昨年は蕾に会えた(※2)。その後用が重なり、花が開くところを見に行けなかったので、一年越しの期待を胸にドライブだ。今年は雨が多く、しかも体調も崩してしまったので、思っていたより時期が遅くなってしまった。「咲いているだろうか。もう散ったかな」道中、思いは千々に乱れる。
昨年一緒に蕾を見た、ガイドの高木さんはお元気だろうか。時々池の平の話をすると、思い出す。今日も会えるといいねと話しながら、駐車場に着く。さすがに日曜日、駐車場はかなりいっぱいだ。第2駐車場に回された。係の人の話では、やはりずっと雨だったので、一気に人が集まった感じだという。
靴を履き替えて、インフォメーションセンターに寄る。ガイド姿の男性が3人立っていて、地図をもらった。ふと見ると、その一人は高木さんだ。挨拶をして昨年の話をする。別のガイドさんが写真を撮ってくれた。
地図を見ながら、池の平湿原に向かう。何台かバスも停まっていたが、団体の観察会らしい人たちも行く。一つ一つの花に挨拶して、写真を撮って進む私たちはかなり遅れるという自信はあるが・・・、今日は左へそれて放開口へ向かう。湿原の淵を大きく右回りに歩くコースだ。団体さんはみんなまっすぐ進んで、鏡池を見てから三方ヶ峰のコマクサに向かうようだ。ほとんど人の来ない木道を私たちはのんびり歩いていく。緑一色に見える広がりに、ピンクのハクサンフウロ、黄色のハナニガナ、白いシロバナニガナなどがこっそり揺れている。そのさらに下にオオヤマフスマの小さな白い星のような花が光っている。爽やかな風は少し肌寒いくらいだ。
放開口あたりは岩がゴツゴツしていて、下の方に町の眺望が開ける。草の中にはホソバノキソチドリ、ウスユキソウ、そしてふくらみ始めたワレモコウが咲いている。
ゆっくり回っていくと少し離れたところにリンネソウの群落。これだけ咲いていれば絶えてしまうこともないだろうと、嬉しくなる。
雨の量が多かったせいか、少し潤っているような湿原にはサギスゲが揺れている。アヤメやノハナショウブの紫が綺麗だ。だんだん陽が高くなって来て、湿原も暑い。汗を拭きながら森の中を登って、三方ヶ峰に出ると急に人が多くなる。狭い山頂がいっぱいなのは、ここがコマクサ群生地だから。最盛期は過ぎて、すでに散り始めているが、それでもまだあちらこちらにピンクの花が見えている。
私たちもコマクサの撮影をしたが、すぐに先へ進むことにした。ちょっと人混みを避けたい気持ちで見晴岳に向かう。イブキジャコウソウやマツムシソウが咲く岩肌を登り、見晴岳に到着。ここでおにぎりを食べようかと話していたが、急に雲が湧いて来たのと、山頂には少人数のグループが座って賑やかだったので、さらに先へ進むことにした。 少し降って歩き始めると、今度は小学生の団体がやってきた「こんにちは」のオンパレード。元気な声をかけてすれ違っていく子どもたちは5年生だそう。
ようやく静かになったピグミーの森をのんびり歩く。日陰が嬉しい。岩の穴をのぞくと黄緑色に光っているのはヒカリゴケ。イワカガミの葉がキラキラする森の中を頑張って登ると、雲上の丘に着く。ちょうど昼時だ、ここでおにぎりを食べよう。むくむく湧いてきた雲は東へ流されて行ったようだ。薄雲の下で風が気持ち良い。
ちょうど雲の間から頭を出した浅間山を眺めながら、最高点の村界の丘に到着。あとは花を楽しみながら降るだけだ。リンネソウは昨年数個の蕾を見つけたところにも、まだ咲き残っていた。ここでは近接撮影ができるのだが、嬉しさに手が震えてちょっとピンボケ写真になってしまった。だが、何よりたくさんの花に出会えたことが嬉しい山歩きだった。
(※2 山歩き・花の旅 386 池の平湿原と見晴歩道・村界の丘)