梅雨の晴れ間を見て池の平湿原と三方ヶ峰外輪山を歩いてきた。
高速を東部湯の丸ICで降り、地蔵峠目指して登っていく。カーブごとに観音様が立っている。
湯の丸高原のつつじ祭りはそろそろ終わりか。さらに林道を登って池の平湿原の駐車場に車を停める、9時50分。家を出たのが8時ちょっと前だったから、ここまで2時間弱、遠いなぁ。だが、空を覆っていた雲が少しずつ遠のいて青空が広がってきたから、気分は良い感じ。
インフォメーションセンターの前を通って見晴歩道を登る。数万年前の火山活動でできた三方ヶ峰火山の火口原を取り巻く外輪山だ。中央に広がる池の平湿原は活動した火山の火口原なのだそう。
一面に咲くオオヤマフスマが点々と白く散らばる草原をゆっくり登っていく。1cmに満たない小さな花だ。ちょっと大きいシロバナヘビイチゴもたくさん咲いている。草の陰にはツマトリソウも見える。みんな白だけれど、少しずつ違っている。コケモモも小さな花をぶら下げている。
カラマツが倒れているが本来なら横に伸びている枝が全てまっすぐ上に伸びて元気に育っている。倒れた根は半分土の中に残っているが、半分は空中に浮いている。「すごいね」と言いながら見ていると、後ろから来た男性が「根性松というんですよ」話しかけてきた。倒れても頑張っているからだそう。
平日だけれど、たくさんの人が歩いている。小学5年生という集団も登っていった。観察会らしい数人のグループも何組かいる。グンナイフウロを撮影していたら、女性3人のグループに「お花の観察会ですか」と声をかけられた。見回すと7、8人のグループの中に混ざっていた。「こちらは二人だけの観察会です」と、笑いながら夫が言うと、女性たちも笑いながら「いいですね」と応じる。一人は名札をつけている。彼女はガイドさん、今日はオフで新人二人を連れて勉強登山なのだそうだ。
私たちはゆっくり歩くので、どんどん追い越されていく。一人、「根性松」を教えてくれた男性は私たちと同じ速度で歩いているらしく、付かず離れず姿が見える。しかも花の趣味が同じなのか、同じ花のところで立ち止まるようだ。 「ここへはよく来るんですか」と聞くと、ここは活動エリアとのこと。湯の丸のつつじ祭りで働いていたけれど、祭りが終わったので来たそうだ。私は「今日はリンネソウを見たくて来たんですよ」と話した。昨年も来たけれど、残念ながら見られなかったことも話すと、男性は自分も今年はまだ見ていないけれど、毎年咲くと教えてくれた。男性とはその後も離れたり近づいて話したりしながら歩いた。
登るにつれゴゼンタチバナが増えてきた。グンバイヅルが小さな青い花を開いている。稜線に出るとまず村界の丘2113mへ立つ。標識の前で写真を撮ろうとしていたら、ちょうど登ってきた数人のグループの人が「二人一緒に撮ってあげますよ」と言う。ここは稜線の中での最高地点だけれど、昨年来た時には立ち寄らなかった。飛び出したようなてっぺんには一面にゴゼンタチバナが広がっている。
一度降りて稜線を進むと雷の丘2108m。そこからしばらく緩やかな稜線歩きだ。右には湯ノ丸山、烏帽子岳、左には浅間山をのぞかせて高峰山から浅間外輪山が見える。
イワカガミのキラキラした葉が一面に広がっているが、花はほぼ終わって、実になりかかった穂が立っている。カラマツソウが風に揺れると細い糸のような花が光をかき混ぜる。中腹にこんもりとした茂みはレンゲツツジ、そろそろ終わりだけれど、まだオレンジ色の花が見えている。
もう一つ濃い緑の茂みはハクサンシャクナゲ、薄いピンクの筋が入った可憐な花を開いている。歩けば歩くほどにハクサンシャクナゲが満開だ。
雲上の丘2110mに到着。空が青く、見晴らしが良い。方位盤があるので近づいていくと、時々言葉を交わしながら登ってきた男性が、「これを持ち上げたんですよ」と、ぽつり。もう20年も前になるかなぁ・・・と、懐かしそうだ。何人かの人が担ぎ上げてここに設置したのだそうだ。重かったでしょうと言うと、若かったから・・・とにこり。
ピグミーの森を通って見晴岳2095mへ。登ると3人の女性ガイドさんが休んでいた。私たちと一緒に登ってきた男性は顔見知りらしく、楽しそうに話している。ここでおにぎりを食べようか。登ってきた時は人がたくさん休んでいたけれど、見晴らしを楽しんでいるうちに私たちだけになってしまった。おにぎりを食べながら男性と話す。エベレストの近くまで行ったことがあるそうで、その時の写真を見せてもらった。空の色も山の色も違う、吸い込まれるような空気感だ。
さて、コマクサを見に行こうか。平日でも人が多いのはアクセスの良さとコマクサの人気らしい。シロバナコマクサはちょっと枯れてきて黄ばんでしまったけれど、まだ綺麗な花もあり、小さな蝶がやってきていた。
コマクサは他の花が生きられないような岩場で、深く根を食い込ませて強風に耐えながら咲く。これを盗掘していく者がいるから、柵で囲わなければいけない。この柵はさもしい人間の心を表している。残念だ。他の植物が育たないような岩場で、コマクサは綺麗なピンクの花を開いている。その独特な形が風に揺れている姿は、いつまで見ていても飽きない。
ハクサンシャクナゲが満開のオトギの森を通って池の平に出る。鏡池の周りにはヒメシャクナゲが俯いて咲いているが、そろそろ花は終わりのようだ。
池の平湿原は高層湿原だけれど、笹が広がり、レンゲツツジの株も増えてきているようだ。乾いてきているのだろう。木道脇にはネバリノギランがたくさん咲いているが、もうワレモコウも見えている。山には秋が忍び寄っているのか。
この笹原で、何を食べているのか、カモシカが悠然と歩いていた。耳を降りながら笹に頭を突っ込んで食べている。 池の平湿原で、楽しく話してきた男性と別れた。この後肩の手術をするそうだ、思わずお大事にと心の中で呟く。私たちはまっすぐ出口に向かったけれど、男性は鉢巻山の裾を奥へ行った。
目的のリンネソウはまだ蕾だった。あまりに小さい姿に思わず声援を送りたくなってしまった。この花もまた心無い人間に盗掘されてずいぶん減ってしまったのだという。