素晴らしいバラ園が見たいと、友人がやってきた。なんと言ってもここのバラが素晴らしいと手放しの褒めようだ。山梨県在住の友人は時間を見つけて周辺の花散歩に出掛けているようで、私たちも誘ってもらってクリンソウを見に行ってきた(※1)ばかりだ。
バラの花を見に行ったことももちろんあるそうだ。いくつか見た中でも、バラはやっぱりここが最高と顔を綻ばせる。
さて、友人が絶賛するバラ園とは、中野市にある一本木公園。見事に仕立てられたバラの数も素晴らしいが、園内全体のデザインがいい。桜や柏の大木もあり、イングリッシュガーデンも広々としていて気持ち良い。
今年は高く育っていたポプラの木が倒れてニュースになったが、幸い大きな怪我はなかったそうだ。これを機に大木の健康状態も見直されたようだ。
私たちが訪ねた時は「信州中野バラまつり」が開催中で、園内には食べ物ブースもできている。今年30回になるという祭り期間中、土日には様々なイベントが企画されているようだが、静かに散策を楽しみたい私たちは平日に出かけた。
会場でもらったリーフレットによると、850種3000株のバラが咲くそうだ。850種と一口に言うが、これはすごい数だ。そのバラが重なり合い、隣り合い、全体に響き合うハーモニーが素敵だ。背景に見える北信五岳の山容も趣がある。ただ、電線が花の上に何本も見えるところはちょっと興醒めだけれど。
駐車場に車を停め、バラ園の入り口に近づくと、まず芳香が出迎えてくれる。馥郁たる香りという言葉は知っているが、これがその香りだろうか。ゆっくり歩いていくと、その香りが揺れている気がする。
あまりにも様々な色の、様々な形の花の饗宴に「わぁ〜綺麗」「素敵な色だね」「いい香り」・・・私たちの口から出る言葉は彩も何もない。同じ感嘆を繰り返すだけ。バラの海に飲み込まれたよう。
こんなにたくさんの種類のバラが咲き誇っているが、知っている品種はわずか。我が家の庭にも数種類のバラが咲いている。あまり手間がかからなくて、育てやすいものを選んでいる。ナニワイバラ、バレリーナ、安曇野、オデュッセイア、ファンタジア、ブラスバンド・・・そしてノイバラも咲く。他に何種類かの小さな木があるが、名前はわからない。花束に入っていたバラを挿し木してついたものだから。名前を知っているバラはごくわずか、800種以上のバラがあるとは・・・。
そして今年は緑色のバラを発見した。おそらく毎年咲いていたのだろうけれど、端の方だったからか、今まで私たちは気がつかなかったのだ。今年は、長年憧れていた緑の桜を見て感動したのだが(※2)、緑のバラは、その色合いが緑の桜と似ていた。緑の桜に似た緑の薔薇には芳香があって、あぁやっぱりバラだと思わせられた。
イングリッシュガーデンのベンチでしばらく花の中にいる時間を楽しんでから、再びゆっくり動き始める。花を楽しんだら次は『団子』か。バラソフトを販売しているので味わってみよう。薔薇ソフトのほのずっぱい味は、ちょっと澄ましたバラのイメージによく合う。きみちゃんが花の苗に目を奪われていると、たのちゃんはブランコに走る。ふざけ合ったり、頷き合ったりしながらバラの中で過ごす時を楽しむ。
家に帰ってバラの写真を眺めながら、他にバラの花を見たのはどこだったかしらと首を傾げる。バラ園と名付けられたところを尋ねたことは何回かあるが、ずっとずっと昔に、思いがけないところでバラの花にあったことがある。しかも真夏だったから、こんなところにバラが、と驚いた。
うろ覚えの記憶を頼りに古いアルバムを開いてみたら、あった。娘との二人旅で、仙台の七夕を見てから松島に行った。船に乗って松島を巡った後、橋を渡っていくつかの島を歩き、最後に有名な瑞巌寺を訪ねた。そして瑞巌寺に隣接した円通院には魅力的な庭園があったので、入ってみた。円通院は伊達政宗公嫡孫「光宗公」の菩提寺とか。それほど広くはなかったけれど、色彩豊かなバラの花が咲いていた。
当時、私も娘もそれほどバラ好きとも思えなかったけれど、意外なところに発見したバラの思い出は案外強く心に残っていたようだ。
(※2 山歩き・花の旅468 緑の桜 臥竜山)