須坂の臥竜公園に花見に行ったのは一週間前だった。ソメイヨシノが空に広がり、賑やかに見あげる人たちが散策していた。
だが、私が見たかった御衣黄(ぎょいこう)はまだ硬い蕾だった。ほのかに緑がかった先端がいくらか柔らかさを増しているようで、もう少しで開くかな〜と思わせていた(※)。
また来ようと言ってから一週間、そろそろ咲いただろうか。ミニ乗り鉄旅もいいと思っていたが、最近歯の痛みに悩まされていた夫は、今日は車で行こうと言う。車の方が時間短縮できるからか。今日じゃなくても良いのだから、無理をしないようにと言うが、体も少し動かしたいと言う。それではゆっくり行ってみようかと遅めに家を出た。
一週間前には満車で賑わっていた臥竜公園の駐車場も今日は空いている。ソメイヨシノがほぼ終盤に入り葉桜になっているからか、黄砂が飛んでいるとかで長野盆地の周囲の山々はぼんやりとしか見えないからか。今日は屋外活動には向かない日なのかもしれない。
竜ヶ池の周りをぐるりと回って、目的の御衣黄の木に近づいていく。なんということ、まだ蕾だ。ようやくほころびかけたスカートの裾のようなひらひらが見えるが「まだよ、まだよ」と頷きあっているように下を向いている。
「また来なくちゃ」と、夫が苦笑い。さらに池の周りを歩いて、黄緑色の花が咲いている方に向かっていく。これらの花の下には名札が立っていて、「ソノサトリョクリュウ」と、「ソノサトキザクラ」という品種らしい。
そこからさらに進むと黄色っぽい色の桜が、かなりたくさん咲いている。大型のふわりとしたこの花は「ウコン」という桜。ウコンの花をよく見ようと近づいていくと、その隣に御衣黄の大きな木が何本か立っている。蕾がいっぱい膨らんでいる。そして目を凝らして数個の花が開いているのを見つけた。本当に緑色の花だった。
しばらくは御衣黄の木の周りをうろうろして、それから臥竜山へ向かうことにした。今日は緩やかな散歩道を歩いていくことにする。少し登ると、七重八重どころか十重二十重も花びらが重なっていそうな重そうな赤い模様のついた蕾をいっぱいぶら下げた木に会った。名札を見ると「スマウラフゲンゾウ」と書いてある。舌を噛みそうな名前だ。重そうな蕾は今にも開きそうだけれど、あと一息。
いろいろな桜があることに驚きながら山道を歩き始める。ソメイヨシノの花びらが吹雪になって道に舞っている。道は白い花びらの絨毯になっている。池を見下ろしたり、葉桜の梢を見上げたりしながら登っていくと、青い鳥が目の前を横切った。時々羽ばたきをするように羽を広げてからまた枝に止まる。春の芽吹きの枝の向こうにいるので写真は上手く撮れないけれど、あれはオオルリだろう。綺麗な濃いブルーの背中と真っ白な腹が綺麗な鳥だ。
鳥の鳴き声に耳を傾けながら登っていく。目的は山頂近くのミツバツツジ、この前咲き始めていたからきっとたくさん咲いているだろう。
山頂稜線にはセンボンヤリの小さな白い花がポツポツと開き始めている。コバノガマズミもミヤマガマズミもまだ蕾だけれど、丸い小さな玉を集めたような可愛い蕾を上に向けている。
ミツバツツジは満開。綺麗な赤紫色を楽しんでから山頂に立つが、目の前の黒姫山などが黄色っぽい空気の向こうでほとんど見えない。黄砂が飛ぶからなのか。山頂は風も強い。じっとしていると寒いくらいだ。早々に引き返そう。降りる前に先日見つけた距が二つあるスミレを探す。花は終わりなので萎れていたが、見つかった。
稜線を降りながら、古墳の盛り上がりに登ってみる。第二号古墳と書いてあるところには阿吽の狛犬と獅子がいたが、その足元に丸に金という文字が彫ってある。公園の入り口に金箱食堂があるけれど、金の名がつく人が多い土地なのだろうか。
さて観音橋まで降りて、須田城跡を見上げる。行ってみようか。今日は巻道を行く。下に竜ヶ池を見ながら一回りして、反対側から須田城跡に登る。
こちら側では誰にも会わない。やはり風が冷たいので、木々の芽吹きを見ながら急いで降りる。
観音橋に真っ直ぐ降りて、池の端に戻る。ここは風がなく気持ち良い。まだ咲いている桜を見上げながら、ゆっくりおにぎりと臥竜公園名物の黒おでんを食べよう。