伊那谷は長野県の南部、同じ県内ではあるが、とても遠いところというイメージがある。「クリンソウを見に行きませんか」と友人から誘いを受けたのは連休明け、伊那の南にある九十九谷(くじゅうくたに)森林公園にはクリンソウが群生するらしい。友人と一緒に花巡りに出かけよう。長野駅から「特急しなの」に乗って塩尻駅まで。駅で友人の車に拾ってもらって、伊那への旅に出発。
伊那谷と言っても、天竜川の暴れた後はとても広い。山に挟まれた広い大地に田畑が広がる様は明るく、『谷』というイメージとは程遠い。
あまり来た事がない伊那の真ん中をどんどん南下し、喬木村を目指す。目的の九十九谷森林公園は喬木村の森の中にあり、クリンソウは村花に指定されているのだとか。クリンソウ園には5000株のクリンソウが群生しているという。九十九谷とは珍しい名前だ。谷が99あると言われているが、確かめようとして数えながら、うっかり「百」と言ってしまうと、鬼や蛇が出てくるという言い伝えがあるそうだ。99を大切にするいわれがあるのだろうか。
座光寺スマートインターを降りて、公園を目指す。車はグイグイ登り、せせらぎ沿いの駐車場に到着。目の前の水辺にはクリンソウが広がっていた。クリンソウ祭りを開催中で、設置されたテントで草花の苗や五平餅などを販売している。
花より団子だと冗談を言いながら山道をゆっくり登り始める。クリンソウの向こうの崖にはシャクナゲが大きな花を開いていて目を惹かれる。水気を含んだ山道にはオヘビイチゴやキツネノボタンが黄色い花を咲かせている。
しばらく歩いていくが、クリンソウが咲いているところに辿り着かない。友人のきみちゃんは長い道中や段差のある道は苦手だ。元気な相棒のたのちゃんが一人で探索に出た。残り3人はゆっくり道端の花を見ながら歩いていく。
しばらくしてたのちゃんが戻ってきたが、この先はとても急で階段が多い山道とのこと、きみちゃんは戻って下のクリンソウを見たり、祭りの販売を楽しんだりして待つことになった。
元気組3人はどんどん山道を進むが結局狭い稜線を登って降りて、奥のクリンソウ園に行く道に合流した。駐車場からそのまま行ける道があったのだ。馬の背コースという山道散策コースを一回りしてきちゃったというわけ。
しかし奥のクリンソウはまばらだった。さらに奥にもあったという群生地は土砂災害のため現在は無くなってしまったという。地元の人が苗を植えたり土砂を片付けたりして復旧作業中らしい。
クリンソウは長野でも見るが、黄色いのは初めて見た。東南アジア、チベットなどの高山湿地帯原産で、常緑で越冬するそうだ。10年ほど前には珍しい花というニュースもあったが、今では全国の植物園などで見られるようだ。みんなで記念撮影をしてから車に戻った。
お昼になったので、道の駅で食事をする。気持ち良い風の中、地元産の巻き寿司などをいただく。
さて次は・・・と、きみちゃんが「ツツジ公園」と言う。同じ伊那地方で、それほど遠くないからと、高速に乗らずに走る。しばらく伊那谷の風景を堪能しながら天竜川沿いを遡る。高原野菜の収穫、田植え、農家の人たちが忙しそうに働いている姿を見ながら、車は直走る。中央アルプスがすぐ近くに見える。
旧伊那市の市花はツツジだったそうで、市民の数だけツツジを植えようとしたそうだ。鳩吹公園の整備をしていた男性が教えてくれた。ちなみに合併後の現在の市花は桜。
鳩吹公園の広々とした敷地に3万本のツツジが植えられている。不燃物処理場の跡地利用としてツツジの里づくりが行われ、そのメイン公園として整備されたところ。
緩やかな傾斜地には広々とした芝生が広がり、白い風車が立っている。
芝生の真ん中を歩いて、わんぱく広場に登ってみる。ちょうど開いてきたツツジの花に囲まれて滑り台やブランコがある。今日はここで遊ぶ子は一人もいない。向こうのブランコには高齢の婦人が二人腰掛けている。
遊具を見るとじっとしていられないたのちゃんが、滑り台に駆け寄っていく。とはいえ、子供用の滑り台では一瞬で滑り降りてしまう。苦笑いをしながら戻ってきた。
何色かに咲き出したツツジの森は混み合っていないので、風が通り気持ちが良い。ツツジの森を一回りして帰ることにしよう。伊那のインターから高速道路に乗って、山梨の友人の家に向かう。
猫のなーちゃんが待つ友人の家で、夕食のテーブルを囲む。美味しい食事をご馳走になってのんびりするひととき、今日巡ってきた伊那谷の話に花が咲く。