眠りに入る前の山の輝き、これから雪が降るまでのわずかな間に緑は退場して、赤や黄色が表に出てくる。近年気象変動が激しくてか、紅葉があまり鮮やかにならない傾向がある。今年はどうだろう。
秋晴れの土曜日、須坂市のクラフトフェアに出かけた友人を見送って(※1)、私たちは裏山散歩に出かけた。先日教えてもらったマンネンタケの様子も見てこよう。山の斜面を登り、獣道のような踏み跡を進む。あった。マンネンタケ、ちょっと大きくなったような気がするが、どうかな。表面に光沢があって美しい。夏から秋に発生する硬質菌で一年生のキノコ、抗癌作用があると言われるが・・・。
個体としてはそれほど珍しいキノコではないというけれど、私たちはイケさんに教えてもらって初めて見た(※2)。
さて、山道をゆっくり行こう。他のキノコも見つかるかな。キノコは見るもの、採るものではないと諦めていた私はキノコについては無知だった。秋になって雨が降ればいろいろなキノコが顔を出すものと思い込んでいたが、実際は花と同じように季節によって出てくるものが違うらしい。当たり前のことなのだが、目の前が暗くなっていると気がつかない。
美味しかったヤマドリタケの仲間は影を潜め、そろそろウラベニホテイシメジの季節。もちろんかの有名な松茸もこの頃だろう。もう少し経つとアミタケがたくさん出てくるそうだ。キノコ狩りを楽しみにしている人たちは季節ごとに思いを巡らし、山の中に入っていくのだろう。
ゆっくり歩きながら森の中に目をやるが、キノコは見つからない。そろそろウラベニホテイシメジが出る頃と、キノコ名人のイケさんが言っていたけれどなぁ。私たちのぼんやり目には見えてこないのか・・・。夫は食べられないキノコでもいいから写真を撮りたいと言っていたが、キノコそのものが少ない。歩きはじめに大きなフウセンタケの塊を見つけたけれど、他のキノコはなかなか見つからない。稜線に上がってようやく白いキノコを見つけて喜ぶ。ドクツルタケかな。毒があるから食べられないけれど、真っ白で綺麗だ。
キノコは諦めて、咲き出したセンブリとウメバチソウを見に行こう。今年はたくさん咲いている。奥の方に行くと蕾が紫色を帯びていて、花びらのラインも紫が濃いものがある。同じ種類の個体差なのか、ムラサキセンブリとの合いの子みたいなものか。
公園に降りてくると、管理の西澤さんが「昨日、イケさんがたくさんウラベニホテイシメジを採ってきて、私ももらいました」とニコニコ。それで、山には無かったんだと私たちは苦笑い。
数日後、空模様はあやしいが、この後は雨が続くというから行ってこようか。地附山公園に車を停めて、ミニ山野草園の前で西澤さんに挨拶をして歩き始める。ナナカマドが色づいてきたのを眺めていると後ろから西澤さんの呼ぶ声がする。イケさんがきたと教えてくれた。イケさんはこれから上がるんなら一緒に行こうかとニッコリ。
「そろそろアミタケが出るんじゃないかな」と話しながら登っていくと、あった。斜面に薄茶色のキノコがたくさん落ち葉を持ち上げている。出てきたところだが、すでに虫に食べられているものも多い。虫さんも美味しいのはわかるんだねぇ。アミタケは傘がぬるぬるしているから落ち葉などが張りついている。よく洗って茹でる。茹でると赤紫色に変わるから分かりやすい。
「たくさん出るから、綺麗なのだけ採ればいいよ」とイケさん。
さすがにキノコ名人、森の中を横目で見ながら歩いているのに、「あっ」と指差す先にはウラベニホテイシメジ。立派な一本だ。
雲が厚いせいか、寒くなってきたせいか、だんだん山で行き合う人の姿が減ってきた。花の姿は少なくなったけれど、まだまだ咲いているものもあるし、さまざまな実が色づいていて葉影の実を探すのも面白い。山の楽しみはいつの季節も無くならない。
雨がポツリポツリと当たるなか、イシミカワの小さな実がさまざまな色に染まっているのを眺める。先日話題になったナギナタコウジュの虫こぶの名前を呟くと「よく覚えたなぁ」。「長いけれど分かりやすいよ。ナギナタコウジュ(薙刀香需)ハ(葉)チヂミ(縮み)フシ、ほらね」(※2)。
いつもいろいろなことに好奇心を持っているイケさんと話をしながら歩く山歩きはなんだか本当にいいなぁ。呆れられながら、山頂の定点撮影もして、キノコを持って、さぁ帰ろうか。