以前住んでいた神奈川から後輩がやってきた。就学前の子ども三人が賑やかに動く我が家は、しばらく忘れていた空気のうねりに満ちていた。
子どもたちはキノコや蝶の図鑑に見入り、私たちが拾ってきた木の実の篭から、松ぼっくりとドングリ、ヒマラヤスギのはじけた実を選び、嬉しそうに持って帰った。
山へ行かないのでキノコの収穫はなかったが、庭の野菜やハーブを洗ったり、ちぎったり、背伸びして手伝う微笑ましい姿を見ることができた。
子供たちが帰った後、台風(比喩ではなく、本物の)が通り過ぎて、一気に気温が下がった。久しぶりに雨が降ったから山のキノコは元気になっただろうか。様子を見に行ってこよう。
地附山公園の駐車場に車を停め、管理の西澤さんとやってきたイケさんと話をしているところに男性が登ってきた。男性はイケさんを見つけると嬉しそうに話しかけ、「一緒に歩いていいですか」と聞く。「好きにしなよ。でもゆっくりだよ」と答えたイケさんと私たちはいつもの道を歩き始める。その男性もイケさんからキノコのことを教わったそうで、私たちより詳しいようだ。私たちが草や木の様子を見ながらのんびり歩いている間に、男性は森の中にずんずん入って行ってきのこを探している。
ところが、今日はキノコの姿がない。いつもは山道に入るとすぐ何本ものキノコを見つけるイケさんも「今日はないなぁ」と首を傾げている。
山頂までの道でヤマハッカの白花が咲いているところを教えてもらった。ヤマハッカはまさに純白、素敵だ。「知らなかったの?」と言うイケさんに、「この道、最近通っていなかった」と私。そんなことを話しながら歩いていたら、頭上にヒラヒラと、アサギマダラだ。アサギマダラは高いところをしばらく舞って、葉陰にとまった。他の山では何回か見たけど、地附山では今年初めてだと言うと、またもやイケさんが「え〜、4、5回は見たよ」と言う。
山頂からセンブリやウメバチソウが咲くところまで行ってみる。途中にもキノコの出るところはあるというが、今日は見つからない。一緒に歩いている男性も、時々森の奥に姿を消すが、「ないねぇ」と首をひねりながら出てくる。
見つかったのはアカヤマドリ、ウラベニホテイシメジ、ヤマドリタケのどれももう崩れかけた大きなもの。
今年は遅いのだろうかと話しながら歩いていたら、藪の中から腰に籠をつけた男女が出てきた。この人たちもイケさんの知り合いらしい。カゴの中を見せてもらったけれど、今日の収穫は男女それぞれ一本ずつ。
今日はキノコの収穫は諦めて、森の空気を楽しもう。バードラインの旧道を歩き始めたら、たくさんのナギナタコウジュにぼこぼことコブがついている。イケさんは前から気になっていたと、「これは花かい」と聞く。私は虫こぶだと思っていたが、調べたことはなかった。それにしてもどの株にも見事にコブコブがついている。「ナギナタコウジュに見えるけれど・・・」と、呟きながら降っていくと、花穂がでている株が増えてきた。「やっぱりこれはナギナタコウジュだ」と私。家に帰って調べたら、虫こぶの正体はナギナタコウジュハチヂミフシという虫らしい。それにしても物凄い繁殖だ。本来の花穂が見えないくらい虫こぶに覆われている。
藪の生命力はすごいと思う。ツルからぶら下がっている花や実もよく見るとさまざまな種類がある。ビールのホップの仲間のような実をぶら下げているのはカラハナソウか。試みでビールを作ってみた人がいるそうだが、旨味も苦味も出なくてダメだったという。でも、この花が育つからにはホップも育つだろうと考えてホップの栽培を始めたという記事も見た。
マンネンタケを見せてあげるよと言う、イケさんの後から獣道をいく。2本のマンネンタケがスクッと立っている。かっこいい。
森の中の道無き道を行くのはなんと楽しいことだろう。子どもの頃食べたきりのアケビを見上げて取れないかなぁと呟いていたら、「手が届くところにあるよ」と、イケさん。本当にすぐそこにぶら下がっている。
アケビを手にご機嫌で帰り道を急ぐ。公園の花畑には大きなメスグロヒョウモンが羽を休めていた。
さぁ、私たちも帰ってお昼にしよう。