昨年なんとか花の終わりに間に合ったけれど、ほとんどが実になりつつあったセリバオウレン(※1)。今年は綺麗に咲いている姿を見に行きたいと話していた。
先日孫と一緒に陣場平を訪ねた時(※2)にはまだ雪が残っていたが、その後急に暖かくなったからそろそろ咲き出しているだろう。
(※1 165 春の妖精、斎場山から薬師山 ※2 246 孫と探す長野の春 斎場山)
車で妻女山展望台まで登る。明日からみぞれもようとの天気予報、遠くは霞んでいる。駐車場には我が家の車だけ。駐車場あたりは日当たりが良いのか野の花が咲き始めている。靴を履き替えて歩き始める。さすがに3月も後半になり、林道の雪は溶けた。しかし森はまだ茶枯れた風景。よく見れば枝先に冬芽が膨らんできているが、緑色にはまだ遠い。
林道だけでなく、斜面についている踏み跡を辿って、木の枝を払いながら山道を登る。雪に押されて折れた木が横たわっているのを避けて歩く。足元にはケマンソウが緑色に芽吹き始めているが、まだところどころに葉が出てきた程度で、全体的には茶色一色の落ち葉の堆積だ。
右に斎場山、薬師山への道を分け、左の天城山方面に進む。今日は花に会うのが最大の目的、斎場山には帰りに寄ろう。進むと、分岐近くの木に標識が取り付けられている。「あ、新しい看板だ」と、早速見つけた夫。まだ木の香りがしそうな新しい標識だ。私たちは勝手知ったる道だけれど、初めて来る人には分かりやすいかもしれない。
道の脇の枯れ葉の下から綺麗な黄緑色が顔を出している。「あ、ふきのとう」、これはいただいていかなくては。あちらこちらに顔を出しているフキノトウを摘んで袋に入れる。後から来た人にも見てもらえるように、少し残しておかなくちゃね。我が家の庭にも出て来たし、先日裏山でも摘んだし、合わせて今日の蕗味噌になるくらいを摘んでいこう。
分岐からわずかに登ると陣場平への登り斜面の道がある。バイモの濃い緑色がずいぶん伸びている。残雪を突き破るように芽吹いていたバイモはずいぶん大きくなった。大きな落ち葉の下から芽を出し、落ち葉を突き破って伸びているものがたくさんある。踏まないようにそっと下を見ながら歩いていたら、白い花が。「あ、こんなところに」。セリバオウレンが小さな花火のような白い花を掲げている。危うく踏むところだった。周囲にはいくつかの株が立ち、花盛りだ。それにしても小さいからうっかり足を動かせない。昨年はここにあるのを見つけられなかった。
写真を撮って、奥へ進む。バイモは株になっているものが多いが、小さな芽が一つぽつりと出ているところもたくさんあるから、これも踏まないようにしなくては。ゆっくりそっと歩きながらセリバオウレンの株がたくさんある陣場平の奥に向かう。
咲いていた。いくつもの株にたくさんの白い花火が弾けている。綺麗だね。これから開いてくる蕾もまだたくさん見える。セリバオウレンの花は、たくさんの雄蕊(おしべ)が綺麗に広がっていて小さいながらもとても美しい。そして、目を近づけて覗いてみると成り立ちがずいぶん違う花がある。帰ってから夫が調べたところによると、雌花、雄花の他に両性花と言うのがあるそうだ。雄蕊がたくさんあって、雌蕊がない花はもちろん雄花。雄蕊と雌蕊がある花がきっと両性花になるのだろう。では雌蕊だけの花が雌花だ・・・けれど、たくさん覗いて見たけれど雌蕊だけの花は見つけられなかった。
まだまだ冬の名残を残している陣場平の広がりに目立たず花開いているセリバオウレン、何だかいじらしい花だ。バイモはこれからもっともっと伸びて、釣鐘型の花をたくさんぶら下げるだろう。ずいぶん蕾が膨らんできている。
セリバオウレンにも会えたので、帰ろうか。雲が厚くなり、風も出てきた。斎場山の山頂に立ってから、降ろう。日当たりが良いのか、枝の先に赤い膨らみが見える。ミヤマウグイスカグラがもう咲きそうだ。日一日と春が近づいているようだ。
イキイキとした木があれば、びっしりキノコを貼り付けて倒れた木もある。森も静かに密かに命を繋ぎながら、新しい姿に変わっているのだろう。その変化を見ることができる目を持ちたいものだと思いながら、山を降った。