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この花に会いたい、戸隠高原(長野県)

2020年6月12日(金)、21(日)


梅雨といえば雨、でも長野は雨が少ない。子どもの頃、梅雨と言えば一日中しとしと降っていたイメージだったけれど、所によって違うのだろう。

今日は曇りみたいだよと、天気予報を見ながら言う夫の言葉に誘われて戸隠高原に出かけてみることにした。梅雨の季節は一方で花の季節。勢いをつけた草草の影でポツリポツリとラン科の花が咲く。ラン科の花は奇妙な形のものが多いのに、なぜか人気があって盗掘の被害にもあうらしい。絶滅が心配されている種が多いという悲しいニュースを聞く。

サルメンエビネ

エビネ

私たちは自然の中で会うのが一番と、季節ごとに山に会いにいく。などと言ってはいるが、それはリタイアした今だから言える言葉。仕事をしていた時は自由に山へ行くことも難しかった。ラン科の花ばかりでなく、高山の花は、自然の中で会いたいという憧れの花々だった。

クリンソウ

べニバナイチヤクソウ

さて、戸隠までは我が家から車で30分、疲れすぎない距離だ。ここ数年、森林植物園の木道が老朽化して、立ち入り禁止になっているところが増えた。これから3年計画で改修していくそうだ。森林植物園の入り口に募金箱が据えられているので、入園金の代わりに私たちはちょっぴりコインを入れる。「気持ちよく歩かせてもらってありがとうございます」の気持ち。

地図・戸隠鏡池

梅雨の季節、水辺には鮮やかな紅色のクリンソウが出迎えてくれる。大型の花、葉も大きく明るい色なので、遠くからでも見つけられる。暗い空模様の下でも、会うと心浮き立つ気分になる花だ。

ズダヤクシュの大群落

ウスバサイシン

確かこの辺り・・・まだ草丈がない頃に独特の葉を見つけておいた場所の土の上を探すと、あった。ウスバサイシンの地味な花が雨に濡れてコロリと隠れている。カンアオイの仲間はどれも目立たず地味だが、私の好きな花だ。

森の中に入っていくと、草原がキラキラしている。この季節の森に入るといつも思うけれど、輝く海原のようだ。ズダヤクシュの小さな花と葉が、一面に揺れて、光を反射している。

ひっそりと咲く花々

ポツリと落ちてくる雨粒を木々の葉に受けてもらって、私たちは奥へ進む。しかし、次第に雨の勢いが増してきて、ついに傘をさしながら車に戻ることにする。


サイハイラン

植物園の奥の道にはサイハイランやコケイランが咲く、その花に会いたいと、晴れた日にもう一度出かけた。その日は日曜日、人が多いかもしれない、いや、でもまだコロナ感染の不安は残っているから少ないだろう・・・などと迷いながら、それでも梅雨の晴れ間は貴重なので出かけた。驚いたことに駐車場はいっぱい。県外ナンバーの車がいっぱい。外出自粛の枠が外れたとはいえ、これほど一気に人が集まるとは思っていなかった。私たちは、すぐ森の中に入る。森の中では人に会うことも少なく、花を見ながらゆっくり歩く。コバノフユイチゴやミヤマタムラソウの白い花が目立つ森の中に、クワガタソウやクルマバソウ、タニギキョウなどのとても小さな花がそっと咲いている。

ショウキラン

鏡池に映る戸隠連峰

そしてサイハイラン、降り続いた雨に洗われたようにきれいな赤い色。もともと地味なくすんだ色が多い花なのだけれど、ちょうど最盛期だったのか、その色の変化に会えたことが嬉しい。

鏡池に映る戸隠連峰の美しい姿を眺め、帰り道でショウキランを見つけた。数年前に出会って以来の花だ。残念ながらコケイランやカモメランには会えなかったが、またのお楽しみにしよう。戸隠は花の宝庫だから、他にもたくさんの花々に会えたけれど、みんな名前をあげていたら図鑑になってしまうだろう・・・というのは大袈裟?!

雪がいっぱい 2002.4.28


私たちは、戸隠には何度も出かけている。ざっと思い出しても20回を越し、スキーも数えればもっと増える。冬は雪の世界だけれど、そのほかの季節には花を探して出かけた。ずっとずっと以前、まだ関東に住んでいる頃に、アメリカの友人に日本の自然の美しさを見せてあげたくて案内したことがある。戸隠にはまだ雪がたくさん残っていて、危なっかしく時々滑りながら森林植物園を回って、奥社まで歩いた。友人が「私はあなたのアメリカのお母さんよ」と言って可愛がってくれていた、娘も一緒だった。一面の雪の間から顔を出す水芭蕉の白を愛でながら奥社に上った。奥社は一面の雪だった。

大きな穴 2014.8.4(2002.4.28)

戸隠に遊ぶ(角内:雪の奥社)

当時は人も少なく、杉並木の杉の穴もさりげなく大きくて、夫が忍び込んだのがおかしいと友人が笑って写真を撮っていたっけ。 それから10年以上たって、小学生の孫3人と出かけたときは杉の穴に紙垂(しで)を挟んだ縄が回されていてびっくりした。

深い森の奥にひっそり、宝篋印塔

戸隠高原には何度も行っていると言ったが、一回だけしか訪ねていない場所がある。孫3人と草ぼうぼうの道をどんどん奥まで行って見つけた、大きな祠のある所。細い道の入り口には木の柱にかすれた文字で「宝篋印塔入口」と書いてあったので、ここがその宝篋印塔なのだろうか。誰にも合わず、荒れた道を進んだ奥にひっそりと祀られていた。

奥社にて 2018.8.21


息子一家とも何回か戸隠を訪れている。忍者村が孫たちの人気の的だが、森の中を歩いて、奥社にもお参りしている。外国から訪れる人がとても多くなった頃で、奥社の入り口で若い一人旅らしい女性に「プリーズ、ピクチャー・・・」と言われてシャッターを押してあげた。彼女はすぐ、「撮りましょうか?」と言ってくれたので、私たちも全員の写真を撮ってもらった。

扇美人?森の中で舞う

中学生の孫はどこでも踊っていたが、戸隠の森の中での彼女の舞姿は一段と素敵だった。


戸隠といえば蕎麦の花も美しい。初めて訪れた時の蕎麦の花は忘れられない。蕎麦の花の季節にはつい花につられて戸隠もうでに出かけてしまう。遠くから訪ねて来てくれた友人を引っ張っていくこともある。もちろん蕎麦の花の季節ではなくても友人と一緒に出かけることだってあるけれど(※)。

(※山歩き・花の旅 26戸隠鏡池)

「戸隠、随分人気だね。何が人気のもと?」「色々な鳥がいる」「それに花がたくさん、植物園が充実している」「あとは子供たちの好きな忍者かな」「そして美味しい蕎麦」。

一面の蕎麦畑 2019.8.3

夫と掛け合い漫才をしているようだが、もう一つやっぱり魅力的な戸隠山だよね。有名な蟻の塔渡(ありのとわたり)が怖いので、私たちはなかなか登れない。花を探して鏡池まで歩き、池に映るギザギザの岩を眺めてため息をついていたら、数日後に弟が登って来たと言う、びっくり。「鎖場ばっかりで面白かったよ」と笑いながら写真を見せてくれた。

鎖場の写真、岩場に咲く花の写真を見ながら話が弾んだ(※鎖場写真弟撮影)。弟は、数日前に私たちが見てきたショウキランもちゃんと見つけていた。「これ、これ、同じ花だ」「1週間前に見たんだ」。そして弟は、私たちが見られなかったコケイランの花も見つけていた。でもそれは岩場の方だったらしいから、私たちが行かないところだったね。

戸隠に向かって滑り降りる

瑪瑙山 2016.3.3

戸隠高原の西にそびえる岩の戸隠山、そして東には大きな裾野を広げる飯縄山がそびえる。戸隠スキー場は飯縄山に連なる瑪瑙山と怪無山の斜面に位置する。スキー場の最上部から雪の壁を一息よじ登ると瑪瑙山。瑪瑙山から稜線を滑り降りるコースは、目の前の戸隠山に向かっていくような素晴らしい展望が広がる。

瑪瑙山には夏にも藪漕ぎをしながら登ったことがあるが、その時は雲が多くてゴツゴツ岩の戸隠山展望は得られなかった(※)。

(※山歩き・花の旅 72 瑪瑙山)

花を求めてゆっくり歩き、そろそろ帰ろうかと言いながら、いつもとは違う道に踏み込んで見たら小さなビオトープがあった。深い緑の水が森の木々と青い空を映して鎮まり、枝から垂れているモリアオガエルの卵から産まれたのだろうか、小さなオタマジャクシが無数に岩を突いていた。

 ビオトープ発見

小川にイワナを発見したこともあるし、熊がかじったかもしれないミズバショウの実を拾ったこともある。戸隠の奥深い自然に、たくさんの花々に、私たちはこれからも何度も会いに行くだろう。

かじられた?水芭蕉実 2005.7.17

イワナ 2015.6.29




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