飯縄山、霊仙寺山の麓は裾が広く、歩いてみたいところがたくさんある。昨年も歩いた飯縄山への登山道、原田新道をもう一度歩いてみよう。
いいづなリゾートスキー場の駐車場に車を停める。スキー場の施設の中でオヤマボクチをつなぎに使った伝統的な蕎麦を打つ蕎麦屋さんが一軒営業している。
開店前の蕎麦屋さんを横目に見てゲレンデに向かう。まっすぐ登る中央のゲレンデから左に入り、小ゲレンデを横切って登山道に入っていくが、ゲレンデを横切る道は丈高い草に覆われている。草と混じるようにウツボグサの紫が続いている。草原にはギボウシやチダケサシ、ミズギクにオカトラノオの花が咲き出してきて、賑やかだ。ところどころにカキツバタの濃い紫、アザミの赤紫が点のように見えているのも楽しい。ゲレンデを横ぎって小さな沢を越え、森の中へ入って行くが沢の周辺は水が溜まって湿地が広がっている。
さて、深い森の中の気持ち良い道をしばらく登ろう。登ると言っても傾斜は緩やかだ。稜線に取り付けば一気に標高を上げるのだろうが、麓を巻く道は歩きやすい。大きな苔むした岩がいくつか転がっていて、その一つは真っ二つに割れている。どこからか飛んできて落ちたときに割れたのだろうか。想像すると面白い。
いくつか沢を越えて行く。沢は森の中の八蛇川の支流かと思われるのもあるが、ゲレンデから流れ込んでいるのもある。水辺にはキンコウカの黄色が光っている。時々沢沿いにゲレンデの端を歩き、また森に戻る。明るい森の淵にはハナチダケサシやカラマツソウなど大型の草が白い花を揺らしている。
森の中には太い木も倒れている。緑に苔むしているところを見るとやはり粘菌も活躍していた。ツノホコリの仲間は半透明の純白な光を反射しているので遠くからでも分かることが多いが、小さなマメホコリは直径2〜3㎜のオレンジ色、見つけてみればとても可愛らしいが、なかなか見つけにくい。
誰も歩かないかと思っていたら、一人の男性が登ってきた。挨拶して追い越して行ったと思ったらあっという間に姿が見えなくなった。取り付きのゲレンデはヤブになっていたけれど、森の中の道はかなり歩かれているようなしっかりした道だから、案外ここを登る人もいるのかもしれない。飯縄山の山頂に向かってまっすぐ尾根を登って行く原田新道、どんな道だろう。
さて私たちは森の中の奥座敷みたいなところで木々に囲まれて小休憩。水を飲み、煎餅を食べる。頭上には赤や濃紫の小さな実をいっぱいつけた木が枝を広げている。まだ黄色い色の実も見える。ヤマグワらしいが枝が高くて味わえない。滝ノ沢を渡る橋の上から激しい水流を眺め、引き返すことにした。
帰る前に中央のゲレンデもしばらく散策。一面に明るい黄色に覆われているのはミヤコグサ。広いゲレンデの中心部は草が刈られているせいか日当たりが良いせいか、植相が違っている。丈高く揺れているのはクララ、ミツバチがたくさん集まっている。その下には葉を広げたワラビが一面に続いている。
ミツバチのようにあっちの花を見、こっちの花を見ながらそろそろ降ろうかと歩き始めたら、今日二人目の男性に会った。地元の人だそうで、ゲレンデの最上部まで行くそうだ。
オトギリソウ、オオチドメグサ、ヘラオオバコ。私たちは花を数えながら車に戻った。
蕎麦屋さんは満員のようで、駐車場には車が増えていた。もう一ヶ所行こうと話して出かけてきたが、夫は疲れたというので、ゲレンデ下に広がるむれ水芭蕉園の様子をのぞいて帰ろうということになった。春には何度も訪れているが、夏にはあまり来たことがない。孫と一度歩いたことがある夫は車で休んでいるというので、私だけ一周りしてくることにした。
一歩森の中に入って驚いた。とても暗い。木の葉が茂るとこんなに暗くなるのかと、今更ながら驚く。広く咲いていたミズバショウの葉は巨大になって、倒れているのも多い。そんな緑の中にバイケイソウがすっくと立っている。淡い緑がかった白の花、満開だ。そしてところどころにメタカラコウも黄色い花穂を立ち上げている。木道は濡れて、傾き、滑りそうになるので気をつけて行こう。水芭蕉の葉に覆われて、隠れてしまっているところもある。
出口に近くなって斜面が迫ってきた。木道に被さるように半化粧した葉が伸びている。マタタビだ。花をいっぱいつけて重なり合っている。この季節、遠くに白い葉が広がっている姿は見かけるが、近づいて花を見ることは少ない。触れられるほどに近く咲いているのは嬉しい。
ぐるりと歩いてきたので夫に「そろそろ出口」と連絡して森を出たら、そこに車が来ていた。わぁ〜い、ありがとう。
少し休んだ夫も水芭蕉園の入り口をちょっとだけのぞいて、バイケイソウ、メタカラコウの花を見てから帰った。