地面に埋もれるように、わずかに白い球をのぞかせたスッポンタケ幼菌に会ったのはいつだったろう(※)。卵大の白く柔らかい球形の幼菌が一本の菌糸で大地につながっている。最初は地面の一部が白くなっているように見えた。そっと周りの落ち葉をどかすと球形が現れる。再び落ち葉をかけ「また来るね」などと話しかけて帰る。 見つけた二箇所を合わせると、10個以上の卵が土の中にあった。すぐに卵を割って出てくるかと思い、心は焦るがなかなか会いに行けない。
ところが、時間を見つけて行ってみると、卵は少しずつ少しずつ地面の中で膨らんでいくばかり。用があって数日経って行くときは、もうみんな伸びちゃっているのではないかと焦って現場に行くのだが、卵は呑気に地面の中に収まっている。「え〜、まだなの」と言うことが何度か続いた。
それでも幼菌はじっくり確実に大きくなり、だんだん地面からも迫り出すようになってきた。そろそろだ。なかにはなぜか菌糸が切れてしまって、シワシワになっている卵(正しくはツボ)もある。数日そのままにしておいてみたが、どんどん萎れていくので、持ち帰って観察した。二つに切ってみると、ゼリー状の中にスッポンタケがおさまっている。
待っている卵はなかなか伸びてこないのに、他の道を歩いていたら、7、8本のスッポンタケが伸びてへたっているのを見つけた。近寄ってみると大きな卵を割って伸びている。すでに暗緑色のグレバはほとんどなくなっている。小さな虫が集まっているから、彼らが運んだのだろう。
今年の夏から秋にかけて雨が多かったからか、キノコは豊富だ。何回か登るうちに幾つかのコースで顔を出しているスッポンタケを見つけた。地附山ではあまり見かけないスッポンタケも今年は多いようだ。だが、せっかく卵状の幼菌をたくさん見つけたのに、その子たちはなかなか成長した姿を見せてくれない。彼らが卵を割って出てくる姿を見届けようと、何度も足を運ぶことになる。
さて、今日はどうかな・・・と言いながら何度か登るうちに山の木の葉は赤に黄色に染まり始め、空気がキリッと引き締まってきた。
たくさん光っていたミヤマガマズミの赤い実もいつの間にかぐんと減ってしまった。小鳥の餌になったのか、落ちてしまったのか、気が付けば葉が落ちた枝の先にポツリと光っていたりする。コバノガマズミの実も同様、ずいぶん減ってしまった。新しい芽生えが落ち葉の下に隠れているのか、たくさんの実のうちいくつが次の実をつけられるまで育つのか、自然の厳しさを感じる。木ばかりではない、目立たない草の実も近づいて見れば素晴らしい造形美に唸らされる。そして時には嬉しくないお土産となってこっそりズボンの裾や袖に絡みついている。
スッポンタケの成長を見極めたくて足繁く登っている間に山はどんどん秋深い様相になってきた。腰に竹籠をつけた茸採りの人たちにも会った。地附山にはキノコが豊富らしい。この季節はジゴボウ(ハナイグチ)や、イッポンカンコウ(ウラベニホテイシメジ)など、そして私たちも安心して収穫できるアミタケ、ハツタケもまだある。スッポンタケの卵が割れない姿にがっかりして帰っても、美味しいキノコ汁で元気が出る。
もちろん、粘菌の姿も見られる。寒くなってきたら、マメホコリがあちこちに出てきた。そしてイクラのようなヌカホコリの仲間も増えてきた。明るい色なので、歩いていても横目で見つけることができるから楽しい。だが、きっと、倒木の影にはもっと目立たない粘菌もいるのだろう。
そしてあっという間に11月に入ってしまった。雨が続くという予報、その前に行ってみよう。登り始めると斜面に赤いキノコらしいのが見える。落ち葉の盛り上がりの上に丸い頭、ちょっと大きすぎるみたいと言いながら近づくと、巨大なベニテングタケだった。待ちに待っていたベニテングタケ、それにしても大きい。
そして、ようやく卵が割れて、まだチビちゃんだけれど暗緑色のグレバをたっぷりつけたスッポンタケにも会うことができた。
地附山は自然豊かだが、歴史的にも興味あるものが眠っている。古墳群、城跡という古代遺跡から、スキー場やロープウェイ跡などという近代の歴史跡まで。古墳に詳しい人から『前方後円墳』は豪族が勝手に作って良いものではなく、ヤマト王権に許可された者だけが作ることができたと聞いて、新たに感慨深く歩いてみた。