周囲の山は秋めいた色に変わってきたが、紅葉見物にはもう少しというところ。里山にはキノコがいっぱい顔を出している。今年の夏は雨がたくさん降ったから、キノコは喜んでいるかもしれない。ニュースでは松茸も豊富と言っているが、我が家の食卓にはあまり縁がない。
10月も10日になったから、そろそろベニテングが出てきたのではないかと地附山に行ってみた。ベニテングは見えなかったが、木の幹にピンクの花びらのようなキノコが顔を出している。朽ちかけた倒木には赤い色が散っている。粘菌だ。ヌカホコリの仲間はこれから賑やかになる。
倒木を見ながら歩いていると、地面に何やら白い卵のようなものが隠れている。あっちにもこっちにも。これは・・・もしかしたらスッポンタケの幼菌ではないだろうか。周辺を探して回るが、成長したものは見つからない。卵状の、地面に埋まったものは9個見つけた。これが一斉に伸びて、スッポンタケがポコポコ顔を出していたら壮観だろうなぁ。見つけたうちの一個は菌糸らしいものが切れてしまっていたが、そっと土に隠してきた。
歩いていると、栗のイガがたくさん落ちているが、みんなパカリと口を開け、中身は消えている。だが、ふと見ると、道をはずれた斜面に引っかかるように大きな栗が落ちている。何ヶ所かの栗の木の下で、イガからはみ出して落ちている栗を拾った。ツヤツヤして美味しそうだ。
キノコはたくさん見えるが、食べられるものはアミタケくらいしかわからない。
午後に用を控えていたので、久しぶりに綺麗に見えていた飯縄山、黒姫山、妙高山に別れを告げ、山頂からは一気に降る。秋らしく実ってきた木の実、草の実に目を惹かれながらの帰り道もまた楽しい。
13日、幼菌を発見してから数日経ったので、スッポンタケが伸びたのではないかと出かける用意をした。だが、この日は朝の乾燥がたたったのか、私の鼻血が止まらない。少し横になっていた方が良いだろうと、夫が一人で出かけることにした。だが、目的のスッポンタケはまだ土の中で丸い卵状になっていたそうだ。
17日になってあれこれ重なっていた用もなんとか落ち着き、ようやく気に掛かっていたスッポンタケを見に出かけた。卵状のものは変わらない。先日菌糸が切れていたのは萎んでいたので、中を見せてもらうために家に持って帰ることにした。歩きながら、さらに奥を見ると、あっ、いた。既に頭の部分は濃い緑色にとろけそうになっていて、たくさんの小さな虫が集まっている。独特な臭いを放つこの部分はグレバという胞子を含む部分で、この匂いで虫を呼び、胞子を遠くに運んでもらうそうだ。卵状で土の中で育ち、殻を破るようにして伸びると1日で大きくなり、あっという間にとろけるように無くなってしまう不思議なキノコ、スッポンタケ。やっぱりかなり匂いがきついなぁ。
さらにあっちを見、こっちを見しながら行く。アミタケとハツタケが目に入る。目的はキノコ採りではないが、やはり目に入ると採りたくなるのが人情というもの。ゴソゴソと袋を取り出して、にわか茸採りとなる。
山頂を越えてモウセンゴケ群生地に向かう途中、立派な白っぽいキノコに会う。これは・・・イッポンカンコウとみんなが喜ぶウラベニホテイシメジではないだろうか。よく似た毒キノコがあるから、似ていても採らないことにしていたが、あまりに立派なので、つい手に持ったまま進む。地附山にはキノコ名人がたくさんいるから、そのうちの誰かに会うかもしれない。
キノコを一本手に持ってウメバチソウを見る。白が遠くから見ても美しい。センブリもたくさん咲いている。花を見ていたら、上の道に知人の声がする。彼はキノコに詳しいから見てもらおう。結果は正解。初めて自分たちで採ったウラベニホテイシメジだ。
その後、知人と一緒に彼のレクチャーを受けながら再び山頂まで歩き、そこで別れた。今日は美味しいキノコのご馳走だ。
さて、翌18日、あっという間に大きくなってしまうというスッポンタケの若々しい姿を見たくなった夫は、「今日も行こう」と言う。慌てて支度をして地附山へ向かう。だが、残念ながらスッポンタケの卵はまだ割れていなかった。それでも、粘菌をたくさん見て、のんびりゆったり歩く山道は楽しい。前日のレクチャーの成果か、この日もキノコが採れた。
そして見たことがない粘菌らしいものも発見した。見慣れた赤いヌカホコリのそばにちょっこりと顔を出していた粘菌。夫が調べて、キララホコリではないかと言う。やはり毎日歩いても発見があるのが自然の奥深さなのだろう。