9月になって少し涼しくなったと思うのは気分の問題か。いや神奈川からやってきた孫が「夕方はこんなに涼しくなるんだ」と驚いているから、長野はやはり涼しいのだろう。
アルバイトが忙しいという孫だが、滞在した3日間は晴れていた。小学生低学年の頃「栂池高原」を歩いた(※)のだが、その後白馬方面には行っていないという。久しぶりに一緒にアルプスを間近に見てこようかと、白馬五竜のゴンドラに乗ってアルプス平自然遊歩道を歩いてくることにした。
夏休みが終わり、高原は落ち着いた雰囲気だ。紅葉には少し早く、太陽に照らされる尾根はまだ暑い。だが、風が来れば一気に爽やかな涼しさに包まれる。その変化にも驚きながらのんびり歩いた。あと一月くらいで紅葉の季節になり、その頃は防寒具が必要になるよと話した。
紅葉の綺麗な中を別の孫たちと歩いたのは、もう十年近く前のことになる。10月半ばの連休を利用して神奈川からやってきた。風が冷たい中を小さな孫が飛ぶように歩いていたことを思い出す。
五竜テレキャビン(ゴンドラ)に乗って高山植物園に登る。目の前の八方尾根は上部が雲に隠れている。花の中を少し下ってリフト乗り場に向かう。エンビセンノウが鮮やかに赤く光っている。楽しみだが、植物園の花は下りにゆっくり見よう。アルプス展望ペアリフトに揺られて登っていく。なだらかなリフトに揺られる時間は思ったより長い。だいぶ色が褪せてきたカライトソウが一面に濃く薄く赤い広がりを見せている。
リフト山頂駅からアルプス平自然歩道に入っていく。コウメバチソウやイワショウブが白く綺麗だ。アザミやオヤマボクチの花が大きい。タムラソウも綺麗な紫色に咲いている。
池に降りるとトンボがたくさん飛んでいる。虫が苦手という孫は「ヒャー」と言いながら逃げている。「トンボもダメなの?」と聞くと、「不規則な動き方で飛ぶでしょう」と言う。苦手と言いながらよく見ているじゃないかと思う。耳元でブンブンいう蜂も苦手だそうだ。静かなチョウや、バッタは大丈夫だって。バッタだって、随分不規則に跳ねると思うけれど・・・理屈じゃないんだよね。私が花を見つけてはしゃがみ込んで写真を撮るのを静かに待っている。そして、良い目で新しい花を見つけると「これ、探していた花じゃない?」と指差して教えてくれる。
小さなミヤマママコナも、ミヤマコゴメグサも丈高い草の下に咲いている。タテヤマウツボグサは紫色が綺麗だ。あれやこれやと花を見ながら歩いていると、地蔵の頭のケルンが見えてきた。青空にパラグライダーが何機も舞っている。舞い上がっていくと、雲の中に隠れたり、点のように見えたりする。怖くないのかなと言いながら3人で眺めていた。
地蔵の頭で記念撮影をして、今度は高山植物園の花を見ながらゆっくり下っていく。植物園は遠くから見ると茶色に染まっていて、高山植物はみんな枯れているねと話していたが、歩いてみるとまだ花が残っていた。コマクサは花も咲いていて、その隣には黒く小さな実が見えている。コマクサの実を初めて見た。そして驚いたことにハクサンイチゲがまだ咲いていた。私の好きなこの花を数年見ることができなかったので、「今年こそハクサンイチゲが見たいなぁ」と、初夏の頃には何度か口に出していたが、なかなか時間が作れず今年も今まで見ることができなかった。植物園の中とはいえ、高原の大地に根付き綺麗に咲いているハクサンイチゲを見ることができてとても嬉しい。
ゴンドラに乗る前に、植物園の最高点と書いてある白馬五竜岳1560mの標識目指して孫とひと登り。小さい頂に立ってからゴンドラ乗り場に向かった。
高山植物園にはもちろん人の手が入っている。ロックガーデンがあり、水が流れるエリアがあり、スイスアルプス・ヒマラヤエリアもある。私は外国の花をここで見なくてもいいかなぁ・・・とは思うが、国内の他の場所に咲く花がここで見られるのは嬉しい。環境が合ってこの植物園で元気に花を咲かせることができるなら嬉しいではないか。
今年剣山(四国)に行って見てきたいと、あれこれ日程を調整してみたが実現しなかったキレンゲショウマにここで会えるとはびっくり。とても嬉しかった。なかなか見ることができないアサマフウロやビッチュウフウロも綺麗に咲いていた。
思ったよりたくさんの花々に会い、山麓で手打ちそばに舌鼓を打ってから帰路についた。