運動不足を解消したいという夫。さて、どこへ行こうか・・・。ガッツガッツ登るのは苦しいから優しい山歩きがいい、森の中の空気を吸いに行こう。沼の原湿原のこの季節の様子も見たいけれど、山も歩きたいという欲張りな選択は、毛無山散策に決まった。
信越トレイルの最初に位置する山だが、緩やかな稜線をわずかひと登りで山頂に立てる。しかも山頂近くからは高社山や奥志賀の山々の見晴らしが良い。
信濃町から斑尾山麓に入り、ひたすら登っていく。スキー場まで登り詰めると、今度は新潟側に降っていく。この辺りの県境は入り組んでいて、いつもどっちを走っているかわからなくなる。希望湖の駐車場に車を停めて、まずは希望湖の水辺を散策。家から約1時間だ。
湖の向こうに聳える斑尾山を眺めてから毛無山登山道に入る。積もった落ち葉が足に優しい。針葉樹の下にはコバノフユイチゴが満開だ。白い星を散りばめたよう。タニギキョウの花はすでに終わって、葉が広がっている。トチバニンジンがまだ咲いていた。
ジグザグに登る道は見晴らしがよかったような気がしていたが、茂った木の葉が高く、斑尾山も、袴岳もあまり見えない。稜線が見え隠れしている。
カラマツの森に入ると足元はさらに優しくなる。ふかふかの絨毯を敷いたようだ。彩り豊かに蝶がたくさん舞っている。そして茶色い絨毯の淵には鮮やかな黄色の縁飾りが続く。日を受けて輝くハナニガナの群落が道沿いにずっと続いているのだ。時々シロバナニガナも混じって、楽しませてくれる。
写真を撮ったり、木の梢を眺めたりしながら歩く私たちのペースは標準の3倍くらいかかっている。二人で顔を見合わせて「よくこれだけ時間をかけて歩けるね」と笑う。山頂は森の中で、わずか数メートル歩くと見晴らしの良いところに出る。ここは一面黄色に揺れている、ここもハナニガナ群落だ。そしてクロヅルの花がたくさん咲き出していた。大きな緑の葉と白い花が日を受けて光っている。今日はちょっと霞がかっているのが残念だが、目の前に高社山、下には千曲川の流れが見えている。展望を楽しみながら休めるようにベンチもあったが、あまりに直射日光が暑いので、ちょっと森の中に戻って早めのおにぎりを食べることにした。
さて希望湖まで降りて、今度は沼の原湿原を目指してトレイルに入る。以前まだ雪が積もっている時に歩き始めて、途中で引き返した道だ(※)。雪の中に顔を出す沢には水芭蕉が咲き出していたが、今はもちろん大きな葉になっている。山道からはかなり下に、木の枝越しに見下ろすとようやく見えるような位置にあるが、冬に来た時は水辺がすぐそこに見えた記憶がある。雪の中を、かなり沢に沿ったところを歩いていたのかもしれない。しばらく歩くと車道に出る。この車道は雪が溶け出していて、フキノトウがいっぱい顔を出していたっけ。車道からはすぐまた山道に入る。雪の日は、この道を少し歩いてから引き返した。気温が上がってきて、沢の上の雪が溶けるのが怖かったからだ。帰る道がなくなっては困る。
今日は緑の森の中、気持ち良い風を受けて歩く。しばらく登ると、広い空間に飛び出した。登ってきた毛無山もすぐ近くに見える。山の間に遠く青い空間が広がって、あれは日本海。ここは展望広場、ベンチに座って開けた風景を眺めながら一息つく。
しばらく見晴らしを楽しんでから深い森を一気に降ると沼の原湿原だ。湿原はかなり緑濃く葦に覆われている。しかし木道を歩き始めると生き生きとしたノハラアザミが咲きだし、葦の中にはカキツバタが明るい青紫の花を開いている。そして、湿原の中央には明るい黄色の広がりが見えてきた。ニッコウキスゲだ。明るく華やかなキスゲの広がりは遠くからでも目立ち、足が軽くなる。そして近づくと小さなピンクの花が目に入る。トキソウが今を盛りにたくさん咲いている。小さな薄桃色の花は目立たないが、ひとつずつ見事な造形で立っている。凛とした姿だ。
沼の原湿原を一回りして、今度は森の中を希望湖の東を回る周遊路で駐車場まで戻る。もう遥か昔、小学生の娘と歩いた道。深い森の中をしばらく降ると、木々の間に希望湖の湖面が光っている。水辺に降りたかと思うとまた登り、道は思ったより長かった。
娘と歩いた時は途中までだったかと思っていたが、古い写真を見つけたら、希望湖まで歩き、そこから車道を歩いて高原に戻ったことが分かった。あれから30年の歳月が流れている。若かったんだねぇと言いながら車に戻った。