お隣の須坂市、臥竜公園の桜が咲いたとの新聞記事を見て出かけることにした。臥竜公園にはたくさんの桜が植えられていて、桜の名所として知られている。冬に臥竜山を訪れたとき、桜の名札を見て歩いていて、私が見たいと思っていた品種の名前を発見した。遅咲きの品種だから、花はまだではないかなぁと思いながらも、様子を見に出かけることにした。
善光寺下駅まで歩いて、長野電鉄に乗る。家からは城山公園を越えて行くことになるが、城山公園は長野市の桜の名所。満開には少し早いが見事な桜の下を歩いて駅に向かう。
善光寺下駅から須坂駅まで、車窓からの風景を楽しんで行く。街の中も花盛りだ。春を待って一斉に咲き出した花々が、太陽に向かって手を広げているようだ。この季節になると、桜の木は街の中にたくさんあることを知る。普段はあまり意識していないのだけれど、この季節になるとあっちにもこっちにもと見えてくる。
須坂駅からはてくてく歩いて臥竜公園を目指す。公園の入り口に近づくと「こちらの駐車場はいっぱいです」という案内の人の声が聞こえてくる。今日は平日だけれど、どうやら桜見物の人が多いらしい。公園に入ると、たくさんの屋台が並んでいて、小さい頃の村祭りを思い出す。冬に来た時(※)は入り口の金箱食堂だけが営業していたのだが、今日は賑やかだ。
歩いてきて火照っていたので、桜の花ソフトクリームを一個購入、池を見ながら二人で分けあって食べる。微かに桃色のソフトクリームはほのかな酸味と甘味が美味しい。
公園の中心にある竜ヶ池にはボートが浮かんでいて若者の元気な声が湖面に響いている。池の真ん中の臥竜橋を渡って桜を見ながら歩く。ソメイヨシノは三分、いや五分咲きくらいか、見上げると空を白く染めている。大きな木がたくさんあるので見応えがある。桜の木の下には名札が立ててあるので、その名を見ながら行く。名札も景観の邪魔にならないように工夫されているので、苦にならない。人がさまざまに改良した品種が多い花は、名前を覚えるよりも花を楽しめば良いと思うのだが、やはり名前がついていると、その名で呼びたくなってしまう。
橋から見下ろすと、大きな鯉が集まってきている。そう言えば「鯉の餌」を売っていたね。鯉は人影を見て集まってくるようだ。私たちの下にやってきた鯉は「ここはダメだよ」と言うかのように、ゆっくり別の人影の方へ去っていく。
見たかった桜はやはりまだ硬い蕾だった。また来ようと話しながら、私たちは山道に向かう。昇竜口から臥竜山山頂へ、喧騒から離れてホッとする。山道には誰もいない。足元にスミレが咲いている。斜面に広く群生しているところもあり、見事だ。タチツボスミレのように見えるが、時々葉の形が違うのが混じっているようにも見える。やっぱりスミレはなかなか特定できない。時々葉脈が赤くなっているものが見つかる、これはアカフタチツボスミレだろう、最近覚えた。
「分からない」と言いながらじっくり見ていたら、なんと一個の花に距が二つある花を見つけた。双子かな。二つの花が合体したのかな。こんな花は初めて見た。私が覗き込んでじっくり見ていると、笑うようにキアゲハやヒオドシチョウが周りをひらひら飛んでいる。
山頂からは北アルプスの北部も見えている。目の前には大きな飯縄山、黒姫山、そして妙高山、今日は少し花曇りで霞んでいるが、山はそれぞれ独立峰らしく大きく立派だ。
さて、すぐ下の賑やかな世界とは異なる静かな山頂でおやつを食べながら休憩だ。ここはランニングをする人にも人気なのか、時々走ってきてまた降りていく。ゆっくりと散策を楽しむ人も何人か現れては消えていく。どの人も山頂からの見晴らしを楽しんで行くようだ。
座って景色を楽しんでいると小鳥の鳴き声が響いてくる。小さな鳥たちが挨拶をするかのように行ったり来たりする。赤い腹がきれいなヤマガラらしい。白と黒の頭もくっきりとよく目立つ。しばらく休んで鳥の姿を追いかける。何もないけれど、なんだか優雅な時間だ。
再び池のほとりに降りて、桜を見上げながら駅に向かう。会いたかった桜の蕾に「また来るね」と心の中で呟く。
須坂駅から善光寺下駅まで、来た道を戻り、もう一度近所の城山公園の桜を見てから家に向かう。
「朝より開いたね」と、顔を見合わせながら・・・、我が家はすぐそこ。