香り高い梅は、春まだ寒さの残る季節に華やかに咲く姿が好まれて日本庭園にも植えられている。梅園と名のつくところも多い。関東に住んでいた頃は何ヶ所かの梅園を訪ねるのを楽しみにしていた。長野に引っ越してからは信州新町のろうかく梅園に何回か出かけた。ろうかく湖(犀川ダム湖)沿いに広がる白梅は風格を感じさせられる古木が多く、どっしりと見事な花を咲かせている。そして川岸から立ち上がる斜面には紅梅が華やかに咲き、水辺には鮮やかな黄色のサンシュユが彩りを添えている。
初めて訪れた時は少し花の時期に遅れて、白梅は散り急いでいて、紅梅が鮮やかに残っていた。その後今度は満開のニュースを聞いて訪れ、見事な花の共演を楽しむことができた。
国道19号線から梅園に向かって犀川を渡る橋は真っ青に塗られ、橋の上からアルプスを眺めたり水面に動く水鳥を眺めたりして過ごすのも面白かった。川に沿って梅の花の淡い色が広がる様をしばらく見ていたものだ。 今年は花の季節が遅かったので、花まつりが近づいてもまだ花は一分、二分咲きというニュースが流れた。ちょっと待ってから、そろそろ咲くだろうと出かけることにした。
国道19号線を走り、白馬方面への道を分けて進む。信州新町は山間の川沿いに開けた町。左に「信濃の国」に歌われている久米路橋を見て少し走ると行くてに青い橋が見えてくる。その左には赤い斜面が見えているから、「紅梅が咲いているよ」と運転している夫に伝える。楽しみがふくらむ。
国道19号線から左に折れ、橋を渡ればすぐだ。狭い駐車場はいっぱいかなと心配しながら走ると、出てくる車とすれ違う。「2台出ていったから大丈夫」などと呟きながら進むと、驚いたことに河岸の灌木や草が綺麗に刈られ、駐車場が増えている。なんだか殺風景になったなどと思いながら手前の空いているところに車を停める。さて、梅はいかにと歩き出すが、道の脇にどこまでも続く車の列にびっくり。
楽しみにしていたサンシュユの木はあまり無い。川沿いが切り開かれて奥の方まで駐車場になっているからか。前方の梅畑からは何やら肉の匂いがしている。信州新町といえばジンギスカンなのだそうで、花祭りもジンギスカンを食べながら梅を見るというのが謳い文句らしい。出店もあるようだが、私たちは近づかないようにして奥へ行く。幸い、奥の方には人も少なく、どっしりとした古木が今を盛りと花を咲かせている。その足元には色とりどりに春の草花。ヒメオドリコソウ、オオイヌノフグリ、ホトケノザ、タネツケバナ、一斉に春を謳歌しているかのようだ。
しかしここまで来ても川沿いにはまだ車が並んでいる。ろうかく湖(犀川ダム湖)はその形を鶴が飛び立つ姿に見立てたという。その水面をバックに満開の梅が咲く景色は素晴らしいと思っていたのだが・・・。
2年前(※)のイメージはガラリと変わった。川と梅の間に車の列。最近の雨の多さか昨日の雨の影響か、今日の川は茶色く濁っている。川に映る梅を見るには、雨で濁った今日の水面は残念な色となっているようだ。それにしても揺れる水面に映る梅の色と、広がる梅やサンシュユの枝振りという、水と花の色の共演が遠くまで続いて美しかったのに・・・。
ぐるりと一回りして、私たちは早々に帰ることにした。以前には脚立に乗って撮影に興じている人が何人も見られたが、今日はいない。大きなカメラを持った人もやってきたが、私たちと同じようにすぐ引き返していった。
ここは自然の風景を楽しむ場所ではなくなって、食べたり飲んだり、祭りに興じる場所になったんだと感じる。
風が強くなってきた。濁った川にも水鳥が浮かんでいる。キンクロハジロの冠羽が風に煽られて踊っている。風を背中にして浮いているようだ。海の岩の上には羽が煽られないように風に向かって並んで立っている海鳥の姿を見るが、ここはそれほど強い風では無いということなのか、追い風で浮かんでいる。
水鳥たちと満開の梅に別れを告げ、車に乗る。帰り道の「信州新町道の駅」に寄り、美味しそうなお弁当を買ってから家に向かった。