春といえば花、花といえば桜・・・というのが日本の合言葉みたいなもの。もちろん桜の華やかさも素晴らしいと思うが、梅の香り高く潔い姿も好ましい。梨の爽やかさや、長野なら、林檎や杏の可愛らしい花も忘れてはならない。
香り高い梅の花が満開に近くなったという情報を得て、信州新町まで車で出かけた。国道19号線は久米寺橋手前で工事中、片側交互通行をしていたが、それほど渋滞にもならず通り抜けることができた。
化石博物館の前の大きな黄色い恐竜を車窓から見て進み、ろうかく(琅鶴)梅園の駐車場に車を停める。以前来た時より駐車場がわかりやすくなっている。広くもなった。車を降りて歩き出すと空気の流れに乗って漂う梅の香りに包まれる。以前訪ねた時はもう4月に入っていたので、白梅は終わり、梅園の縁を飾る紅梅だけが咲いていた。
今日は8部咲きといったところか、中心部は満開に近い真っ白な枝が広がっている。周囲にまだ蕾の多い若い木がある。梅園も少し広がったようだ。
自由に花の間に入れるのが嬉しい。祭りの時は木々の間にシートを敷いて食事をしたり、お店が出店されたりするそうだが、そういう日本的な花見はあまり好まない私たちは静かな今日の梅園が嬉しい。ただ、昨年来のコロナ禍のために、地元の人や、花の下での飲み食いを楽しいと考える人が祭りをやめざるを得ないという状況は嬉しくない。それぞれが選べるからいいのだ。
中央部の梅の木はゴツゴツとした古木で貫禄がある。太い幹に苔や粘菌が張り付いているものもあるのが心配だが、その姿はどっしりとしていてそばにいるだけで落ち着くようだ。奥の方に歩いていくと、カメラマンが数人良いアングルを探して脚立の上に立ってレンズをのぞいている。なるほど、そのあたりから見ると満開の白梅の向こうの斜面に広がる紅梅が重なって綺麗なのだ。
綺麗だと頷きながら見ていると、花の咲いていない大きな木がある。なんだか、黒っぽいものがたくさんついているけど、あれはなんだろう。近くに行ってみると、それは柿の実が落っこちた後のヘタだった。実はみんな鳥の餌になったのだろうか。
白梅と紅梅、そして川岸には明るい黄色の広がり、山茱萸の大木がたくさんの花を開いている。そう、ろうかく梅園は、犀川の岸辺に広がっている。犀川は広々として悠々と流れている。下流にある水内ダムのダム湖になっているところだから広い。このダム湖を上から見ると鶴が飛び立つような形に見えるので、ろうかく(琅鶴)湖と呼ばれるようになったそうだ。碧色の川面に弧を描いて進む水鳥の姿が見える。黒い鳥はオオバンだろうか。のんびりと水の上を滑っているように見える。
梅の木の間を行ったり来たりたっぷり歩いたので、犀川の橋の方まで行ってみることにした。橋を渡ってくる時、道の反対側の河岸にも梅の花がたくさん咲いているのが見えたので、そちらにも梅園が広がっているかもしれないと思ったのだ。
橋まで歩いたけれど、梅園の看板には今着た方角への矢印しかない。反対側へ行く道も見つからなかったので、橋の上から眺めることにした。真っ青に塗られた橋はまだペンキの匂いがする。橋の真ん中に立つと、雪をかぶったアルプスの南部が見える。その奥に槍ヶ岳の穂も見えている。
そして向こうの梅の広がりには重機が動き、整備をしている様子だった。この地域は梅の産地だから、農家の梅畑なのかもしれない。
私たちはしばらく、真っ青な橋の真ん中で上流、下流を眺めていた。水面には何羽かのオオバンが遊んでいる。その中に白っぽい色の鳥もいる、なんだろう。遠くに見えるが、望遠で撮ってみる。頭の上にトサカみたいな毛がついている。嘴が赤い。家に帰って調べたら、カンムリカイツブリという鳥。春先の湖などによく見られるのだそうだ。
しばらく眺めを楽しんで、再び梅園に向かう。青空に花の色が映える。少しずつ人が増えてきた。近所に住む人だろうか、ランニングをしながら園内を巡る人、杖をつきながらゆっくり歩く人、おしゃべりをしながら歩く夫婦らしい二人連れ・・・。車も増えてきた。
脚立に乗っていたカメラマンたちは引き上げていくようだ。私たちもそろそろ帰ろうか。
春の恵みをたっぷりと味わえた幸せを抱いて家に向かった。