早朝冷え込んで、朝から爽やかな明るい空。「今日は花を見にどこかへ行こう」夫がいそいそとカメラを準備し出したのは朝7時。まだ洗濯を干し終わっていませんと私は苦笑い。夫は年度末の懸案事項が土曜日でなんとか片がつき、一気に気持ちも足も軽くなったようだ。
ところが山肌を見回すと、どこもかしこも白い色が見える。3月に入って降った雪が南の方にもまだ残っているらしい。先日雪に埋もれていたセツブンソウ群生地(※)も、昨日の情報でまだ雪の中とのこと。梅の花も大好きだけれど、見頃は下旬と言う。
せっかくの雲ひとつないお天気、今日はアルプス遠望を楽しもうかと話がまとまった。車に乗って出発したのは8時少し前。川中島の西に位置する茶臼山を目指す。
茶臼山は標高730mの里山だが、山麓に動物園、自然植物園や恐竜公園も広がる市民の憩いの場ともなっている山だ。登るにはいくつかのコースがあるが、最も散策する人が多い、自然植物園からのコースを行くことにする。
3月中旬に開くと書いてある駐車場はまだ閉まっていた。車を下の駐車場に停めて緩やかな植物園の中を歩く。まだ葉は茶色に縮んでいるが、クリスマスローズが蕾をたくさんつけている。
鹿よけの扉を開けて山道に入る。山の北斜面に見えていた雪が、登るにつれ増えていく。まだ日が当たらないところには霜が光っているが、南側の道はぐちゃぐちゃしている。溶け始めた雪と泥が混じり合ってぬかるんでいるのだ。
葉を落とした木々の隙間から真っ白な北アルプスが見えてくると元気が出る。山頂への道を通り越して、一気に展望台に向かう。すごい。目の前にひらけたアルプスの景色に思わず声が出る。今年は曇った空の日が多かったので、「雲ひとつない」青空と雪の高山を見るチャンスがとても少なかった。
今日はまさに雲ひとつない空だ。真正面に鹿島槍ヶ岳と五竜岳、右に目を移すと、八方尾根を従えた唐松岳、不帰の嶮から続く真っ白な白馬三山。左を追えば、爺ヶ岳からスバリ岳、針ノ木岳、蓮華岳に続く稜線のカール地形が綺麗だ。そしてずっと左の奥には槍ヶ岳の三角が天をついている。
そのキリッとした姿に心と目を奪われてしばらく雪の中に立ち尽くす。しばらく眺めてから動き出す。山頂を踏みに行こうか。雪の中に足跡が続いている。やっぱりみんな山頂には行くとみえる。
茶臼山の山頂は三角点があるけれど、見晴らしは良くない。高い木に囲まれている。しばらく通行止めの看板が立っていた南側からの登山道の通行止め看板がなくなっていた。確か崖崩れと書いてあったような気がしたが、整備されたのかな。行ってみようか。足跡もいくつか見えるので、久しぶりに行ってみることにした。
だが、道は荒れていた。倒木が多く、一面にキノコが張り付いた木が頭上にかぶさっていたり、道を塞ぐ倒木があったり、冒険的で面白いといえば面白いのだが。
目の前に赤茶けた土の壁が現れた。ここだ、崩れたのは、大きく削られたような崖の上に山道の左半分が落ちた道が残っている。どうやらここを行くんだね。これは整備したとは言えないね。これ以上崩れないだろうと、山慣れた人が歩き始めたのか。ここまで来ちゃったから気をつけて行こうかと、私たちも木の根につかまったりしながらそこを通過した。ぐちゃぐちゃした雪解け道は滑るから気を張りながら、でもあっという間に崩れた先の道に辿り着いた。
「ちょっと面白かったね」と夫。公園に戻って広い草原のベンチでのんびりお昼を食べる。遠くの雪の斜面を眺めていてしばらく気づかなかったが、周辺の草原にはクロッカスがたくさん咲き出していた。広々とした空間に小さなクロッカス、どこまでも続く控えめな花の姿が気持ち良い。ここにはさまざまな球根が植えられていてこれから咲き出すそうだ。何度も登っている茶臼山だが、まだまだ知らない姿がたくさんある。花を見に、そして粘菌も探しにまた来ようと、話しながら車に向かった。
目の前に菅平や、志賀の山々が見える展望台から、ミニチュアのように走る電車の姿を眺めてから帰路についた。