暦の上の休日は全国的に変わらないが、地方によって記念日があり、仕事も休みになることがある。その時勤めていたところの創業記念のお休みと、横浜市の開港記念日が重なって2日間の休日が転がってきた。休日といっても出張などが入って休めないこともあるが、その年は二日間の休日が実現した。こんなときは山へ行くしかない。
以前から気になっていた男体山へ行こう。東武鉄道のフリーパスを購入、中禅寺湖の辺りに宿を取り、出発。仕事へ行く時よりちょっと遅く家を出て、浅草から東武鉄道特急「きぬ」に乗る。日光からバスに乗り換えて霧降高原を目指す。1日目は霧降高原で爽やかな空気を楽しもうと考えたのだが、名前の通りの霧が深くて、びっくりした。
高原には大好きなハクサンイチゲの群落があったが、まだ寒さの残る季節、ようやく数輪の花が開き始めていた。ここから丸山まで足を伸ばしてこよう。
登山道も霧が濃かったが、12時前に山頂に到着した。人もいない山頂は霧が漂っていて幻想的ではあった。家を出たのは朝6時半前だったから、ここまで5時間半ということだ。霧の山頂は幻想的ではあるけれど、展望もないのであまり長居をしたくはならない。
丸山を降りて、バスで日光駅に戻る。せっかくきたのだから東照宮見物もしようか。観光客が多いところはあまり好きではないが、眠り猫や三猿の彫刻くらいは拝んでいこう。東照宮、二荒山神社周辺の森の中の道も歩いてみる。華やかな彫刻よりも屋根の上に咲いているセッコクの花や森の中に咲いている白い小さな花に目がいってしまう。午後の時間を歴史散策に当ててから中禅寺湖畔のホテルに向かう。
子供たちが小さい頃に宇都宮に用があり、華厳滝に足を伸ばしたことがある。雨の中、傘をさして滝を見上げたことを思い出す。今回は華厳滝へ寄り道はしない。
温泉でゆっくり足を伸ばし、朝5時半出発。いよいよ男体山に登る。湖畔を歩いて二荒山神社にお参りしてから登りだす。ホテルから15分、近いのがありがたい。森の中をまっすぐ登っていく。結構急な道だ。メモを見ると「4合目目6:40、6合目7:15」とある。6合目で朝ごはんを食べたと記してある。何を食べたんだろう、覚えていないが、おにぎりかな。
登り始めた頃はまだぼんやり薄暗かったが、高度を上げるに従って空も明るくなってきた。芽吹き始めたカラマツの緑がとても綺麗だ。一人旅は立ち止まって話をすることもないので、どんどん登っていく。だんだん岩が多くなり険しい登りになる。ただただ登っていくだけだけれど、結構疲れてくる。登るにつれ遠くの山が見えてくるのが楽しみか。中禅寺湖は下の方にいつも見えている。
山頂近くなるにつれて赤い岩が目立ってきた。火山で流れた溶岩に含まれる成分が酸化したものらしい。特殊な火山性の土壌のせいか、男体山にはコウシンソウが咲くと聞いているが、残念ながらまだ時期が早い。
ひたすら登って9時に山頂に立つ。途中の道からも見下ろせたが、山頂から見下ろす中禅寺湖は一段と美しく見える。水面が光っている。湖の向こうに広がる山がジオラマの模型のように見える。
すぐ隣に日光白根山が雪をまぶしたような姿を見せている。その奥に小さく武尊山、そしてその右の奥には尾瀬の山が見えている。燧ヶ岳の独特な山容がはっきり見える。ずっと左になだらかな至仏山が前の山に隠れるように見えている。
まだ登っていない山ばかりだったが、その後、夫と至仏山に登った(※)。至仏山に登った時は夏の霞の中で、燧ヶ岳も霞んで見え、男体山は見えなかった。微かに武尊山が見えていた。
男体山は二荒山神社の御神体の山だそうで、山頂には巨大な神剣が斜めに岩に刺さっていた。斜めになっていた神剣、その後雷にあって今(2023年)は新しいものが垂直に立っているらしい。
私が登った時は標高2484mとあったが、2003年の調査で2486mと改定されたそうだ。最近の登山情報を見ると、山道は荒れ、道を守るための階段がたくさん設置されているようだ。どこの山も似たような状況があるらしい。山を訪れる人が増え、山の素晴らしさを感じられる人が増えるのは嬉しいことだが、山が荒れるという副産物がついてくるのは如何ともし難いものなのか・・・。一方で人が入らなくなったために荒れ放題になってしまう里山が増えているのも現実だと思うと、なんだか複雑な心境になる。
山を愛する人は、有名な百名山だけではなく、近くの里山も同じように大切に思えるといいのだが・・・。
さて、話を戻そう。山頂からの眺めを堪能して、降りることにする。まだ9時15分、なんだか勿体無いなぁと思うけれど、今日は電車に乗って帰らなければ・・・。
同じ道を歩きたくない私は、帰りは志津方面へ向かう。休みの日を選べないから残念だが、もう少し後に登ればコウシンソウを探せたのになぁなどと思いながら降り始める。志津峠への道はまだ雪がたくさん残っていた。ぐんぐん降って、志津乗越に着いたのは11時15分、ちょうど2時間かかった。たくさんの雪渓を越えるのを楽しんで降りてきた。
まだお昼前だと喜んだのは早計、この後が大変だった。志津乗越からカラマツの森の中を延々と歩く。しかもここは林道、時々車が追い越していく。トボトボと歩きながら、埃を撒いて走っていく車を睨む。
現在はこの林道、一般車通行禁止だそうだが、当時はドライブの人もいたのか車の数は意外と多かった。男体山からの下山道では雪渓も多く、あまり人に会わなかったのだけれど。
延々と歩いてもう嫌になる頃、戦場ヶ原に着いた。戦場ヶ原の端っこ、三本松だ。山から降りるのと林道を歩いていたのと同じ時間だったのが笑える。
ようやく広々としたところに出て、人の動きもあり、ほっとして、遅めのお昼を食べる。ここで食事をしてからバスに乗って竜頭の滝へ寄り道をした。
山の上は雪が残っていたけれど、湯川の岸にはトウゴクミツバツツジが明るいピンクの花を咲かせている。はねる水飛沫と広がるピンクの花の景色が見事で、人が多いのも気にならずしばらく眺めながら水辺を歩いた。
湯川に沿って周辺の水辺歩きを楽しんでから再びバスで駅へ向かう。中禅寺湖をバスの車窓から見て名残を惜しむ。 東武日光駅から電車を乗り継いで家に帰ったのは夜10時を回っていたが、土産話の花をいっぱい抱えての山旅だった。