前日、ちょっとした仕事中に足に軽いケガをした。打撲と擦り傷。湿布をして寝たらかなり良くなったが、少し痛みが残る。痛いからと言ってじっとしていると動かないことに慣れる。「散歩してこようか」、いい具合に夫がつぶやく。
裏山なら勝手がわかる。嫌ならどこからでも引き返せば良い、気軽に出かけることにした。車で駒弓神社の駐車場まで上がる、ありがたい。先日一人で出かけた時は家から歩き始めた。駐車場で靴を履き替える。軽登山靴は足首が高いので、わずかに傷に触れて痛い。靴下を厚く折って履くと、大丈夫だ。
ゆっくり歩く、うん大丈夫だ。思ったより気温は低く、南の空は霞んでいるが山の空気は清々しい。見上げると青空にホザキヤドリギの黄色が光っている。城山公園に大きなホザキヤドリギの群生があって、いつも楽しみにしていたのだが、数本あった太い宿主の木が春に伐採されてしまった。今年は見られないのを残念に思っていたが、駒弓神社の近くに見つけることができて、嬉しい。
歩きながら、真っ赤な葉がくっついているヤマツツジの枝先を見て、夫が「これは何だったかな?」と指差す。すでにほとんどの大きな葉が落ちて、時々赤い葉が残っている。花が満開の時に見るのとは姿が違うから、冬の樹木はわからない。
ヤマツツジの葉は交代する。春に出た葉(春葉)は赤くなって落葉する。そして夏から秋に出てくる小さな葉(夏葉)は冬芽を囲んで越冬する。春の大きな葉は先が尖っているが、秋口の小さな葉の先は丸みを帯びている。寒い地方では夏葉も落ちるそうだが、裏山あたりで見る夏葉は越冬する。
倒木の影の粘菌を探したり、木々に残る実を見上げたり、のんびり歩く。数日前に一人で歩いた時に、久しぶりに物見岩を通って降りた。山の下が霞んで善光寺平が霞の中に広がる様が美しかったので、また行こうと話していた。だが今日は足の様子を見ながらのゆっくり歩き、しかも午後に会議が一つある、またの機会にしよう。
途中から藪の中に入っていく。冬枯れて、雑草の種が衣服に絡みつくのも心配しなくて良い。いや、ヌスビトハギの種など、まだ少しくっついてくるものもあるが、わずかになった。積もった落ち葉を踏みながらキョロキョロと目を泳がせて歩いていく。先日一人で歩いていて粘菌らしいのを見つけたから、今日はその場所でもう一度じっくり見たいとやってきた。
とっても小さい、白い頭をつけたポツポツが見える。柄は赤い。私が指差すのを見て、しゃがみ込んだ夫が「これは粘菌みたいだね」と嬉しそう。早速接眼レンズをつけて撮影に挑む。全体が2㎜あるかどうかというくらいの小さい姿だから、撮影は難しい。何とか写して、家に帰って調べる。この粘菌はバイアカタホコリというカタホコリの仲間らしい。
何とか撮影して、さらに登っていくと、落ち葉の中から小さなキノコが顔を出している。そしてその周りの落ち葉から糸のようなものがたくさん生えているのを見つけた。これは粘菌ではなさそうだ。キノコの芽生えなのだろうか。こんなふうに落ち葉から糸が立っているのは初めて見た。分かったつもりでいるとすぐ足元を掬われる、自然の奥深さだ。
そういえば、先日タヌキノチャブクロを見つけた。すでに胞子を飛ばした穴が大きく、全体にヨレヨレしてしまっていたが、地附山でたくさん見るのはキツネノチャブクロだったので嬉しかった。これまでずっと個体差があるホコリタケと思っていたが、実は違うものだったらしい。キツネさんは地面から出てくるが、タヌキさんは倒木など木から出てくるのだそうだ。そして、外皮にも違いがあるらしい。キツネさんの外皮には円錐形の小さなトゲがあって、タヌキさんは粉状、稀にイボ状だそう。今年は幼菌を初めて食べてみた(※)が、あまり味がしなかった。来年元気なチャブクロさんたちに会ったら、外皮をじっくり観察してみよう。
冬の雑木林の中をゆっくり歩く。もうすぐ一年が終わる。自然の移り変わりに目を凝らしていても、その奥深い世界の入り口でウロウロしてばかりだ。そして、今年会えなかった姿に会うにはまた一年向こうまで待たなければいけない。そんなことを思うと、悠久の時の中の『今』に遭遇していることをありがたいとも言えるのかもしれない。