地附山でユウスゲの蕾を見てから一週間以上過ぎてしまった。夕方花開いて翌朝には萎んでしまうというが、午前中くらいは開いていることが多い。長野に滞在中の娘がまだ起きないうちに見に行ってこようと、山履を履いた。夫は頼まれ仕事があって同じ頃に少し家を空けるが、前日娘には話してあるから、起きたら自分で朝ごはんを食べるだろう。小さな子どもではない。
駒弓神社から登り始める。早く来たと思ったが、夏の早朝は気持ち良いからか、すでに降りてくる人に出会った。藪の中をちょっと寄り道、粘菌も探しながら歩く。朝の涼しい空気が逃げないうちにユウスゲの場所まで行こう。道々シラヤマギクやキキョウの花を愛でる。秋の花と言いたいが、まだ気分は夏真っ盛りだ。
ユウスゲ、残念ながら茶色く枯れていた。これは昨日の花ではないと思える明らかな茶枯れ様に諦めがつく。
ユウスゲの茶枯れた花を見送ってスキー場跡へ向かう。マツムシソウが咲き出した。マツムシソウが咲くと青いハチ、ルリモンハナバチがやってくるだろう。楽しみはいくつもある。雲が山頂部を覆った飯縄山を見ながらしばらく待つが、まだ花が少ないのか、蜂の姿は見当たらない。
山頂のマツムシソウはどんな様子か行ってみよう。静かな山頂にもマツムシソウは花びらを広げ始めていた。まだ早いせいか、登ってくる人はいない。ちょっぴり待ってみようか。
しばらく待つが、私の周りをブンブン飛ぶのはクマンバチ。まるで何か言いたいことがあるかのように飛んできては私の前でホバリングをしている。去ったと思うと一周りしてまたやってくる。「ごめん、君じゃなくて青いハチくんに会いたいんですが・・・」などと声を出してみるが、もちろん聞いてはくれない。 今日はどうやら会えないらしいと諦めて山を降りることにした。10時頃家に着くと、夫と娘はなんだか楽しそうに話の花を咲かせていた。
娘と入れ違えに友人達が長野にやってきた。まだ若い友人たちは仕事もあって長く逗留はできないが、少しは長野の空気を味わって帰ってほしい。今年は異様な暑さ、台風がはっきりしない進路のままだからか、あちこちで豪雨があるようだ。長野には豪雨は来ないが、夕方の雷やいっときの雨が気にかかる。雲を気にしながら志賀高原で遊び(※)、午後には帰るという日に裏山散策に出かけた。夫はイケさんからの情報で気になる粘菌を見に行きたいと言い、最近山歩き好きになった友人も行ってみたいと言い、もちろん私はいつでも山歩き大賛成だから、もう一人の友人もつられるように出かけることになった。
地附山の駐車場に車を置き、まずはクルミが見られる道を登る。6日に一人で出かけた時、クルミの若い実と葉を持って帰ったが、山中の自然の姿に触れるのが一番だろう。枝からぶら下がっているクルミの実を見つけた友人は大喜び、関東の山でも探そうと、熱心に葉や木の肌を見ている。
夫がイケさんの車を見つけた。イケさんも山に入っているらしい。電話をしてみると、粘菌を見つけた所にいるという。私たちもそこへ行こう。どうやら夫が見たいと言っていたアオウツボホコリがいたらしい。すでに胞子を飛ばして青い色は褪色してしまっているが、微かに根本に青の痕跡が残っている。成長し始めた時に見たかったと悔しそうな夫と、数日前に撮った写真を見せてくれるイケさんの得意そうな顔が面白い。
イケさんも合流して、珍しく賑やかな裏山歩きになった。山頂に着くと青いハチを探す。シオカラトンボや、ヒョウモンチョウは飛んでいるが・・・。眺めているとツマグロヒョウモンが交尾している。羽の先が黒く美しいメスがオスをぶら下げるようにして飛んでいる。時々木の葉に止まってはまたひらりと浮く。そんなヒョウモンを眺めていると目の端をヒュッと何かが掠めた。きた。ルリモンハナバチ、幸せを呼ぶという青いハチ。まだ開いた花が少ないマツムシソウを巡ってあっちに飛び、こっちに飛び、忙しそうだ。
しばらく蜂の動きを眺めてから帰ることにした。友人たちは午後の新幹線に乗る予定だ、あまりのんびりしていられない。帰り道も花やキノコや虫を見る。詳しいイケさんが、指差して教えてくれる。足元をサッと素早く動くのはマガタマハンミョウだ。一見茶色だがよく見ると七色に輝いている。
普段見過ごしている自然の姿は、時に足を止め、息を飲み、そしてほ〜っと長い息をつかせてくれる。また行こうねと話しながら友人たちは日常へ帰っていった。