台風2号が南の海上を移動して前線が停滞したために日本列島に激しい雨が続いた。長野北部は一昨日の夜から昨日1日降り続き、ようやく上がった。庭の草木はまだ濡れそぼっている。家にいてもすることがないから山へ行こう。歳を重ねると、日々筋力の衰えを感じる。できるだけ時間を見つけて歩くことが肝要と肝に銘じる。
と、偉そうなことより花を見、粘菌を探し、景色を楽しみたいというのが本音。雨の影響か、土曜日というのに、公園には人影がない。山道に入ると、葉が茂ってきた森の中は暗い。だが、エゴノキが満開に咲かせた花を落とし始めたので、ところどころ道が白く染まっている。ちょっと気にかかっていたナツノハナワラビがたくさん芽を出していたところに寄り道をする。元気に穂を持ち上げている姿を見つけ、嬉しくなる。
パワーポイントに到着。ガサゴソと枯れ木の間を動いている夫を遠目に、ノイバラの花にやってきた花蜂を見ていると時間を忘れる。しばらく蜂と遊んだところで、「あれ?ずいぶん遅いなぁ」と気づく。藪の中にいる夫の姿を見つけ近づくと、なんだか嬉しそうにカメラを構えている。
「いたの?」と聞くと「原生粘菌だ」と嬉しそう。覗き込むと、半透明のゼリー状の膜から浮かび上がるようにやはり半透明のツノが飛び出している。丸く固まって飛び出している様子は白い花のようだ。ツノホコリかな。
透明から半透明になり、子実体の形を作って、胞子を飛ばす、粘菌の動きのその初めの状態らしい。生まれたてということかな。白い花が一面に咲いているような姿は小さいけれど美しい。
久しぶりに活動中の粘菌を発見したので、足が軽くなった。さぁ、山頂へ行こうか。途中にクモキリソウが大きくなっているところがある。足を止めてみると、もう花を開いている。薄緑の花は、葉の色と重なって隠れるようだ。この花は誰に受粉してもらうのか、こんなに目立たなくても大丈夫なのだろうかと心配になる。近くには、ウメガサソウが小さく蕾を開いてきた。ハナヤスリは穂が色づいている。どの花を見てもじっくり見ないと花なのかわからないくらい地味な色合いだ。だが、この小さな植物たちが安心して生きられる里山は豊かなのだと思う。いつまでも元気でいてほしい。
さて、山頂近くになるとハナニガナがめだってくる。こちらは明るい黄色、地面より高いところで揺れているから目立つ。「ニガナが母種みたいだよ。ニガナが変化してシロバナニガナになったんだって。そのシロバナニガナの1品種がハナニガナらしいよ」などと図鑑に書いてあったことを話していたら、ニガナの小さな群落があった。「これがニガナか」と夫。「確かに小さいね」。
自然の仕組みは複雑に入り組んでいて、小さな無数の生き物たちが互いに共生したり、捕食したりして絡み合っている。森を歩けば歩くほどにその奥深さに目が開かれている気がするが、どんなに本を読んでも、森の中で深い深呼吸をしても、自然の奥深さ、そしてその豊かさはまだまだヴェールの向こうだ。自分の小ささを実感するばかり。
まぁ、あまり悲観的になっているわけではない。目を開いて、耳を澄ませて行けるところまで行くしかないだろう。森の中には正体のわからないものがいっぱいある。粘菌やキノコの類はもちろん、昆虫などは限りなくいるように思える。山の中で出会うたびに「初めまして」という感じだ。
いろいろな生き物に挨拶しながら桝形城跡に登っていく。先日見た赤い溶岩のようなもの(※)はその後どうなっただろう。あまり姿は変わっていない、これは粘菌ではなくキノコなのかな。粘菌は変形菌とも言われるように成長の動きが早いのが特徴だから。近くにはいろいろな色や姿のキクラゲのようなキノコもたくさん見られた。
桝形城跡山頂からの下りで、じっと上を見上げながら歩く。あ、咲いてる。アオハダの雄花だ。雄しべをツンツン突き出して可愛い。足元には落花も散らばっている。
タンナサワフタギや、ナツハゼの花があちらこちらに咲いているが、モミジイチゴ、ミヤマウグイスカグラなどの実は食べごろになっている。帰り道の楽しみにちょっぴり味見をさせてもらおう。