今にも降りそうな雲が空を覆っているけれど、久しぶりに二人とも何も予定が入っていない。「粘菌を探しに行こう」と夫。「花を見に行こう」と私。最近久しく登っていない物見岩から上がってみようかと登山靴を履く。玄関を出たのは8時を回ったところ。伊勢社からジグザグ坂道を登り花岡平に出る。霊山寺の墓地を抜けて物見岩への道に入る。
「この辺にギンランがあったのだけれど、ないねぇ」「盗られちゃったのかな」と話しながら行くと、歌ヶ丘への分岐に一人の女性が立っているのが見えた。
この辺りにはよく探鳥の人がいる。今日も綺麗な小鳥の声が響いている。近づいていくとその女性がニコニコしながら私たちの名を呼んだのでびっくり。我が家のHPを見てメールをくれたことがあるミナ(私がつけた愛称)さんだ。まだ若いけれど、街中の探鳥会でガイドをしたこともある女性だ。
偶然山で会うのは嬉しいこと、少し話をしてから小鳥の観察をするミナさんと別れ、私たちは物見岩を目指した。ネジキはまだ蕾、ヤマツツジが咲き出している。物見岩からは曇った空の下、善光寺平が見える。霞んでいるかと思ったが、遠くまで思ったよりくっきりと見えている。
眺めを楽しんだ後は再びのんびり山歩きだ。ハクサンタイゲキが花を開いている。いつも思うのだが、この花はどこを見ても花に見えるが、本物の花はどれだ。オレンジ色の5弁は、そこから茎が伸びているから花ではないか。一番先端に杯状花序があるから、そこが花だろう。その根元に丸いコブ状のものが出ている。雌花には3本の花柱があってその先が二つに割れているというから、じっと見ると確かにそういうものが見える。雌花と雄花は別々につくらしいが、一つの花に雄しべと雌しべが見えているのもある。
なかなか興味深い花だけれど、わからないことだらけだ。花の先端には数匹のアリが動いている。美味しい蜜があるのだろうか。
二人でぶつぶつ言いながら写真を撮っていると、「追いついちゃいました」と笑いながらミナさんが登って行った。のんびりの私たちに呆れたかもしれない。
タンナサワフタギの花が少しずつ咲き始めている。純白で美しい。この木の葉を食草とするシロシタホタルガの幼虫も活動を始めている。自然は日々変化していること、その営みは複雑で奥深いことを感じる。私はそのほんの表面を見ながら歩いているのだろう。
まぁいいか・・・と口癖をつぶやいて進む。ヒメハギがポツリポツリと咲いている。濃い紫と複雑な造形が美しい。
さて、先日見つけた粘菌マメホコリはどうなっただろう。モウセンゴケの芽吹きを見てからモトクロス練習場へ向かう。「今日は誰もいないね」と話しながら歩いているとモーター音が響いてきた。最近ここへ来るたびに会う男女だ。今日も練習らしい。
マメホコリは色が変わっていた。綺麗なオレンジ色だったが、すっかり茶色に褪色している。ここから胞子を飛ばすのだろう。
ここを直登して山頂へ。飯縄山は雲の中に見えている。のんびりとお菓子をつまんでいたら、登ってきた女性が「熊が出たそうです」と教えてくれた。麓に熊が出没したらしい。
熊に気をつけながら、桝形城跡まで行こう。粘菌に会えないかな。見晴らしが良いので、久しぶりに車両センターを見下ろしてからいくことにする。
遠くにいる電車好きの友人にも見せてあげたいと、夫は写真を撮る。夫が車両センターの写真を撮っている間に私は同じ友人に見せてあげたいサルトリイバラの若い実を撮る。
さて次は桝形城跡に向かおう。粘菌を見つけたいものだと思いながら歩いていく。ふと道の脇に転がっている枯木を見ると、折れ目のところが赤い。何だろう。粘菌かもしれないと近寄って見たが、何だかわからない。ブツブツと粒状のところあり、滑らかなコールタール状のところあり、繊維状に広がったところあり。凹んだところ一面が艶やかな濃いオレンジ色で覆われている様は噴火口をのぞき込んだような感じだ。一体なんだろう。家に帰って図鑑を見てみたが、この正体は分からなかった、またもや宿題だ。人生、宿題が増える一方ではないのか、何か一つ知ると、そこから開く未知の世界は広く深くなる。その追いかけっこを楽しいと思えれば良いということなのか・・・。
桝形城跡から帰る道でアオハダの小さな花がたくさん開いているのを見つけた。以前イケさんが教えてくれた小さな枝のゴツゴツした感じがよくわかり、嬉しくなった。次は雄花も見つけられるといいなぁなどと話しながら家に向かった。