下見と称して、水芭蕉に会いに行く。水芭蕉を見たいという友人がくる前に花の様子を見に行こうという第2弾(※)。
車が走り出してから、「どの道を行くの」と聞く呑気な私。「今日は短縮ルートで行こう」と夫。野尻湖の東岸を回っていくコースだ。タングラムスキーサーカスの脇を登って万坂峠に出る。峠を左折すれば赤池はすぐだけれど、沼の原湿原へは一回登って斑尾高原スキー場の前からぐるりと回り込む。
「袴岳へ行くには近いけれど、沼の原湿原には(もう一方の道と)同じくらいかもね」と話しながらビジターセンター山の家の前を左折して進む。赤池に車を止めて歩いて行けばずいぶん短縮できるだろうが、山道にはまだ雪がありそうだ。友人と来る時にはもう一つの豊田から『まだらおの湯』を通ってくるルートがいいだろう。
さて、谷筋にまだたくさんの雪が残っている様子を見ながら沼の原湿原に到着。木道が整備されているが、雪が残っていることも考えられるので、靴を履き替えて歩き出す。
湿原は一面枯れ色だ。取り囲む山の斜面にはまだ雪がたくさん残っている。
「まだまだだね〜」。
入り口の沢を横切る。音を立てて流れている水の量は多い。雪解け水か。小さなスミレと福寿草が迎えてくれる。スミレの種類はわからないことが多いが、花はもちろん、葉の形や色、そして毛があるかないかなどを見ておく。あとで調べるヒントになるだろう。
ゆっくり木道を歩いて、まずは左の山裾を回るコースだ。湿原の中央にはわずかにリュウキンカが開き始めているが、ほとんど茶色一色。だが、山裾に近いところには鮮やかな緑と白の光が見える。水芭蕉が咲き出しているのだ。
木道はぐるりと回って山に近づいていく。水芭蕉も近くなる。まだ小さいものも多い。顔を出したばかりの水芭蕉の苞の中を覗き込む。まだ雄しべが開いてこない雌花の花序も見つかる。半分くらい雄花になってきた両性期の花もある。
「これが見たかったの」と、喜ぶ私を横目で見ながら、夫は美しい風景を楽しんでいる。
さて、たっぷり風景を楽しんだ後は美味しいおにぎりタイムとしよう。一段登って、湿原を見渡せるところにベンチがある。木の板を組み立てたベンチは倒れて崩れかけている。だが、まぁ腰掛けるには十分だろう。おにぎりを頬張りながらふと上を見るとヤドリギが近い。小さな花が咲いているようだ。近づいて仰ぎ見るが、花を見るにはちょっと遠い。足元に目を戻すと雪の上に落ちている。これはヤドリギの花だ。小さいけれど、花が咲いているね。
ヤドリギは高いところに多いので、なかなか花も実も触ることができない。落ちているのを見て気がつくことも多い。鳥が好む実だから他の木に芽を出すことができるというけれど、これは木にとってはどうなのか。ヤドリギも緑の葉を持ち、光合成しているそうだ。木に寄生しているけれど、宿主を枯らすことはないらしい。
キリスト教の国ではクリスマスにヤドリギを飾ると聞く。永遠を象徴する縁起の良い植物とされているのだそうだ。私はそういうしきたりとは無縁だが、ヤドリギの姿に魅力を感じて、近くで見てみたいなぁと思ってきた。落花とはいえ、ヤドリギの花を見ることができたのは嬉しい。
おにぎりを食べ、奥へ進もう。中央の水辺に降りて、そこから奥へ進むことにする。木道には雪が覆い被さっている。雪が溶け出したところをふと見るとネコノメソウが出ている。小さな茶色がかった花が開いている。根元には丸い葉がついていて、これはボタンネコノメソウかな。とても可愛い。この花もまた私の好きな花だ。小さくてあまり目立たない花たちに心惹かれる。
近くには薄紫のキクザキイチゲがうつむき加減に開いている。ごうごうと流れる沢沿いには水芭蕉が流れに揺れながら咲き出している。雪を踏みながら登っていくと再び広い湿原に出る。少しだけ標高も高く、山の奥になるからか、ここの水芭蕉はまだようやく先が見え始めたくらいだ。そしてこの湿原は一面赤茶色に染まっている。残雪も赤茶色だ。これは鉄バクテリアが活動しているということなのだろう。
湿原を一回りし、万坂峠への道を分けて今度は反対の山裾の道を戻る。雪解けの後に顔を出したフキノトウをいただいていく。粘菌を探したり、とても小さなスミレを見つけたりしながら歩いているとだんだん雲が厚くなり、風が強くなってきた。雨になるかもしれないから、そろそろ帰ろうか。中央の木道に戻り、沢の流れに身を任せる水芭蕉を眺めながら車に向かった。