バイモ(貝母)、別名アミガサユリ。斎場山から天城山、鞍骨山へ向かう尾根に開けたところがある。陣場平というその広場は、上杉謙信がこの地に城を作った時に薬草園として開いたところだという。その時の球根が生き残っていたのか、ここにはバイモが群生している。もっとも、ずいぶん少なくなっていたのを有志が保護育成して、現在の大きな群生になったのだそうだが。
里山に見事なバイモの群生が広がっているのはなかなか見られない姿なのだそうだ。昨年は満開の時期を逃して見ることができなかったので、今年は行こうと話していた。空にはいくらか雲が広がり、遠景は望めないだろうが、花を見、花を撮影するには良い日かもしれない。あまり晴れて光が強いと、花の白い色が飛んでしまって陰影が強すぎる絵になってしまう。
まず妻女山の駐車場に車を停める。桜が満開だ。いつ登っても駐車場には我が愛車だけなのに、今日は数台の車が停まっている。まず、斎場山へ向かって歩き始める。足元にはスミレ、頭上にはミャマウグイスカグラ、キブシ、そしてニワトコの花が開き始めている。 スミレはみんなタチツボスミレだろうか、花びらの色は濃淡あるが、同じ種のような気がする。しばらく登るとタンポポの黄色が鮮やかに見える。萼を見るとこれは日本のタンポポ、シナノタンポポだろうか。
もちろん、藪の中の倒木の影をのぞくのも忘れてはいない。ヌカホコリらしい粘菌がたくさん見える。活動を終えて頭から胞子を飛ばした様子がよくわかる。そして移動するのか、したのか、繊維状の広がりも見える。近くの枯れた木にも粘菌のようなポツポツが見えたので近づいてみたが、どうやらこれはキノコらしい。
観察しながら斎場山に登り、引き返して陣場平に向かう。近づいていくと、薄緑のバイモの花が風に揺れている。その広がりは見事だ。私たちはしゃがんで花の内側を見たり、背伸びをして遠くまで広がる群生を眺めたりして楽しんだ。
しばらくバイモの花を眺めていると、さっきまで数人で話していたグループから一人の男性がこちらへ向かって歩いてきた。「あと一週間くらいで満開ですよ」とニコニコしながら声をかけてきた男性は、以前もここでお会いした林さん。『信州の里山トレッキング<川辺書林>』の著者で、ここバイモの群生地を守っている人だ。
バイモは普通6枚の花びらと6本の雄しべなのだが、よくよく見ていくと7枚、8枚などのものがある。この日は一緒にしばらく話をしていた女性が9枚のものを見つけた。林さんもこれまでの最高が9枚とのことだ、珍しい。
林さんは花だけでなく樹木や昆虫などにも詳しく、郷土史家でもあるので、お話が面白く、ついつい長く話してしまった。 そうそう、これは余談だが、陣場平の大きな木についている『神奈川県』の表示(※)は林さんにも分からないとのこと。ある時突然ついていたそうだ。
お昼も過ぎたので林さんと分かれて、私たちはさらに上まで足を伸ばしてみることにした。しばらく進むとカタクリの群生しているところがあるらしい。
だが、腹が減っては・・・の例えもあることだし、先にお昼を食べようか。今日はあまり時間をかけないつもりでパンを少し持ってきただけだったから、軽いお昼だ。木立の隙間から千曲川が見下ろせるところに座って、景色を眺めながらのお昼はなかなか素敵な時間となった。
昼食の後は道を進み、カタクリに会いにいく。急な斜面を横切る道を進んでいくと「あ、カモシカ」と夫が指差す。私たちは帽子をふって「おーい、こんにちは」と声をかける。カモシカはちょっとこちらを見上げたが、「今、食事中なの」というようにゆっくり歩きながら、木の葉を食べている。ちょっと食べては進み、ゆっくりジグザグに下へ降っていくようだ。しばらく眺めてから「バイバイ」と言って、私たちは再び道を進む。カモシカは何を食べていたんだろう。道の脇にはキブシやコクサギがたくさんあるが、他にも色々な葉の芽吹きがありそうだ。
カタクリは3分咲きといったところか。スミレがいっぱい咲いていたが、まだまだ勉強中、名前の特定はむずかしい。ここ斎場山にはタチツボスミレに似たアカフケタチツボスミレがあるそうだが、はっきりこれっという個体には会えなかった。まだまだ楽しみは奥深いということにしておこう。