今日は午前中と夕方に用があったが、体を動かしていたいという気分が盛り上がって、昼食後に一回りしてこようと出かけた。家を出たのは午後1時過ぎ。地附山公園の駐車場に車を停め、のんびり旧バードラインを登っていく。前方後円墳を通って旗立岩から車両センターを眺める。この道沿いには倒木があり、その周りをのぞいて歩く。粘菌の宝庫かもしれない。
夏は午後も歩いている人に会うことがあるが、晩秋の午後に山散歩の人はいない。気がつくと暗く、横からの陽が名残を惜しむように輝く。
山頂からモウセンゴケ群生地まで足を伸ばしたけれど、ウメバチソウも最後の花か、かじかんだように縮こまっている。スキー場跡をこえてロープウェイ跡などを懐かしみながらパワーポイントに行き、横からの陽に最後の輝きを見せる山を眺めてから、公園に降りる。
ミニ山野草園のダイモンジソウが元気に咲いていた。
しばらく大峰山に登らなかったから、妙に気持ちが騒ぐ。歩きやすくなった秋の山道をゆっくり楽しんでこようと、9時に家を出て歌が丘に向かう。
登山道には枯れ葉が積もり、空が透けて見えるようになってきた。ダンコウバイの葉が明るい黄色に光っている。気持ち良い青空なのに、登る人はいない。秋も深まって、風が冷たく感じられるようになると山はしばらくお休みになるのかもしれない。このあとは私たちのような、もの好きだけの世界になるのか。
登山道脇斜面のあちらこちらには、駆除のために伐採したアカマツが積んである。そして朽ち始めた木はキノコや粘菌の住処になる。
「これは美味しそうだ」「隠れていそうだ」などと話しながら影をのぞいてみる。するといる、いる。すぐに目につくのは大きめの粘菌マメホコリ。オレンジ色は、まだ若いものらしい。成長するとベージュ色になる。以前は黒いマメホコリかと思っていたのは、実はキノコだそうだ。クロコブタケという、これも木の枝などにたくさん見られる。
「何年か前にこの辺で見かけたのも、粘菌かなぁ。今日もいないかなぁ」と、探しながら歩く。同じ個体は残っていないだろうけれど、胞子を飛ばしていれば、その周辺に同じ種の粘菌が見られる期待は大きい。
下ばかり見て歩いてはもったいないので、上を見たり、下を見たり忙しい。コバノガマズミがこぼれるように赤い実をぶら下げていた。コバノガマズミの実は枝先に数個しかついていないことも多いので、この見事な赤い広がりを見た時は思わず「わあ〜」と声が出た。
花はあまり見られなくなったが、オヤマボクチの小さな花が茎の真ん中にぽつりと咲いているのを見つけると、そのうつむきの姿がなんだか愛おしい。
山頂の四阿で休憩。トチノキやブナの木の黄葉が輝いている。
山頂でしばらく休んでから地附山へ向かう。地附山から見る飯縄山は、この山の最もかっこいい姿だと、私たちは密かに思っている。 今日は青空の下、裾を赤く染めてキッと立っている。後ろには黒姫山、妙高山を従えて、やっぱり綺麗だ。
公園に向かって降っていくと、斜面にベニテングタケがまだ残っていた。小さいのは白、少し膨らんでくると割れ目から赤がのぞく。カサが大きくなるにつれ赤い地に白いイボがくっきり浮かび上がってくる。今日は開き切ったカサが割れて星になっているのを見つけた。
太い木の幹に大きなスズメバチらしい蜂が群がっていたが、樹液を舐めに来ているのだろうか。見えるところに巣はなかったから、ここは餌場なのか、昆虫の動き方も興味深い。帰り道は倒木の間に隠れるように頭を下げているスッポンタケも見つけて、粘菌もキノコも豊富な裏山をしみじみと味わった。
再び地附山を歩く。朝いつもより少し遅く家を出る。9時半に歩き始める。今日はゆっくり粘菌探しに絞って一回りしてこようという計画。とにかくゆっくりだ。進まない。あまり足を踏み入れない六号古墳に登ってみる。途中の倒木の裏を一つ一つ見ながら歩くから、これはいつ頂上に着くかわからない。
しかし、面白いものだ。落ち葉の間にも、朽ちて剥がれかけた木の皮の隙間にも小さな生き物がたくさんいる。キノコらしいもの、苔だと思われるもの。地衣類か、カビか、それとも粘菌か、特定できない実にさまざまな色や形の生き物が潜んでいる。もちろん昆虫も動いている。その千差万別さに驚くより呆れてしまう。自分の無知さ加減にも。
まぁいいか、今気づくことができたんだから。
山頂に向かって進むと、積み重ねられた木や枝の間にスッポンタケがいくつも生えている。先端は緑色のどろんこ状の粘液で包まれ異様な匂いがしている。夫が調べたところ、この匂いに釣られてやってきた小昆虫たちが、舐め尽くすんだそう。そして胞子を運んでくれるのかな。ちょっと触ってしまったら、なかなか匂いが取れなかった。
そろそろ雪が降るかもしれないが、秋の花が少し残っている。純白のリュウノウギクの残り花は淡い紫色の花びらになっていてなんだか奥ゆかしい感じだ。
マメホコリがあちらこちらに顔を出している。粘菌の中では大きくて見つけやすい。一口にマメホコリと言っても、その変化の途上では面白い形になるのでやっぱり一つ一つじっくり眺めながら歩く。ふと見ると、稜線の伐採木にハート形のチョコレートのようなものがついている。キノコかな。一瞬誰かがお菓子をこぼしてしまったのかと思ったけれど、これはやっぱり自然の造形らしい。これもどうやら粘菌みたいだ。
いろいろな粘菌に出会ってホクホクしながら山頂に到着。誰もいない山頂でのんびりお煎餅を食べてから帰ることにした。
「調べるうちに粘菌の変化は早いらしいということがわかってきた。季節としてはちょっと遅くなったけれど、先日からの変化も探したいから行ってみよう。そして、今日は桝形城跡に登ってみよう。以前登った時に面白い粘菌がいた。
公園に車を置いて、一気に桝形城跡を目指す。とはいうものの、途中の道で粘菌を探しながら歩くから、やっぱりのんびりタイムだ。 以前イケさんが一人で倒木の片付けをしていた(※)ところは粘菌の宝庫になっているかもしれないと思ったが、まだ新しい木なので、ようやくキノコが生え始めている。粘菌は倒木そのものを食べるのではなく。キノコなどを餌とするのだから、もう少し時間が経ってキノコなどの菌類が繁殖したところにやってくるのだろう。
もっと以前に整備されたらしい苔むした倒木にはいた、いた。マメホコリが多いけれど、よく見ると、その近くに小さなポツポツが立っているのが見える。先端の丸いものが1㎜以下だ。白くふわふわしている球状のものが細い柱の上に乗っているように見える。夫に聞くとこれはどうやら先端がカビに襲われて白くなっているらしい。ぐっと気を張り詰めて探すとわずかに1、2個先端が黒いシャープな球状のものが見つかった。これが本来の粘菌の姿だという。
キノコは粘菌に食べられ、粘菌はカビに食べられ、こんなにミクロの世界にも食物連鎖の法則が働いているのかと驚く。
地附山公園入り口のミニ山野草園にムラサキセンブリが咲き出したのを見てから帰った。
前日に少しだけ遠くの、少しだけ高い山を歩いてきて疲れちゃったという夫を残して一人で裏山に出かけてみることした。早朝、我が家から見ると朝焼けが美しい。今日は晴れそうだ。この後しばらく用が立て込んでいるので、今日行かないと次はかなり後になりそうだ。
久しぶりに駒弓神社からの登山道を歩く。木々が生い茂っているので、面白い。途中から中腹を横に這うような、獣道のようなところに入ってみる。初めて歩く道だが、どうやらキノコ採りの人などが歩くらしく、踏まれた跡が続いている。途中の倒木は自然に朽ちているので、キノコや粘菌がたくさんいる。しゃがんでは写真を撮りながら歩く。家で粘菌のことを調べているだろう夫へのお土産だ。
公園からの道の上らしいところに来たので、今度は斜面を登る。かなり急なので、立木に掴まりながら体を持ち上げる。まれに立ち枯れがあるので気をつけて確認しながら行く。カエデなどの木につかまりながらよじ登ってパワーポイントへの道に出る。まだ朝靄が残っている展望を眺めていると、毎日地附山に登っているというヤマさんがやってきた。
「彼は一緒じゃないの」と聞かれ、「家に置いて来ました」と言うと大笑い。あれこれ山の情報などを話しながら一緒に歩き出した。
動物園跡からロープウェイ跡を回っていく。モトクロス練習場に二人の姿が見える。ヤマさんは知り合いらしく、挨拶をする。夫婦だと言う男女の練習風景を20分ほど見学した。ほとんど垂直の曲がりくねった斜面をバイクで登ったり降りたりする姿は、見ているだけで恐ろしい。先週はレースだったとか・・・年配の方だけれど、現役なんだと感心した。
ヤマさんはスキー場跡で「ヤッホー」と叫び、私は山頂で定点観測の撮影をし、再び話しながら駒弓神社へ降りた。
山道を歩いていると、日常の生活では目に入らないものがたくさん見つかる。その姿との一期一会もまた山歩きの醍醐味かもしれない。