センブリと言えば、花を知らない人でもあぁと頷く。そして「苦いんでしょ」と言う。日本名の千振は1000回振り出してもまだ苦いという意味だそうだ。漢方薬として知られている。
このセンブリに紫の花が咲く種がある。どこにでも咲くというわけではなく、絶滅危惧種の仲間入りをしている。ムラサキセンブリ(紫千振)は、センブリほど苦くなく、薬効も弱いそうだ。
菅平に咲くという情報を聞いていたので、今年こそはと思っていた。日曜日ではあったが、朝から雲ひとつない空が輝いている。7時に家を出る。道路は空いていたので、50分で目的地の駐車場に到着。朝露がいっぱいだろうと、スパッツを履いて歩き始める。登り始めからワクワク、高原の空気が清々しい。露に濡れた花を撮影しながらゆっくり登っていると、後ろから子どもたちのグループが追いついてくる。何組かの家族のようだ、大人も混じっている。
緑濃い草むらにはアザミやマツムシソウの桃色、アキノキリンソウの黄色が散らばってにぎやかだ。
さらに登って遠くに湯の丸山、烏帽子山などが見えてくると、あった。紫千振(ムラサキセンブリ)。満開の花を持ち上げてすっくと立っている。緑の草原にその姿は目立っている。
しばらく花を巡ってからダボスの丘の上を目指す。マツムシソウの紫色が濃い。そして真ん中に揺れる葯がとても明るいピンク色なのにはびっくりする。ハッとするような色にたくさんの虫が集まっている。
さて、登っていく先の丘の上には大きなケルンが見えている。ケルンはハンネス・シュナイダー(アルペンスキーの父1890-1955)の記念塔。菅平スキー場のシュナイダーコースはこの人に由来するそうだ。菅平がスイスのダボス地方に似ていると、ダボスと呼んだのもシュナイダーだそうだ。ダボスの丘の緑色モニュメントにはスイス国旗やスイスアルプスに生息するシュタインボックが描かれている。
そこを通り過ぎると広い草原に出る。遠くに歓声が聞こえるのはさっき登って行った子どもたちだ。ラグビーの練習をしている。
草原は一面のお花畑。アザミやマツムシソウ、ワレモコウ、桔梗にリンドウ、ヤマラッキョウも咲き出した。赤系の色が多い中にアキノキリンソウが黄色で奥行きを出している。足元には2mmにも満たないようなオオチドメの花も咲いている。
もう一登りすると、鹿島槍ヶ岳や五竜岳の向こうに立山連峰、剱岳が見えてきた。リフト山頂駅の近くに腰を下ろし、展望を楽しみながら少し早いお昼を食べる。
さてもう少し登ってみようか。表ダボスのリフト山頂駅まで行ってみよう。冬にはよく訪れたところだ。いつも晴れていて、北アルプスが一筋の壁のように見えていた。
ススキの原をゆっくり登っていくと後ろに槍ヶ岳、穂高連峰が見えてきた。すごい、今日は最高の秋晴れだ。目の前には根子岳、四阿山。山頂の祠が見えそうなほどくっきり見えている。
ダボスのてっぺんでしばらく良い空気を吸ってから戻ることにしよう。歩き始めたら、草の中に小さなムラサキセンブリが咲いている。斜面の下の方に多かったが、こんなに高いところにも咲くんだ。近くを探したけれど、この周辺には一株だけだった。増えて欲しいものだ。
蝶や虫たちが花に群がる様子を楽しみながら来た道を戻る。広い草原なので、少し回り道をして、遊びながらゆっくり降りる。大きな黒いキノコや、真っ白いキノコもあってなんだか楽しい。
登ってきた草の中の道と少し離れたところには登山道があった。根子岳まで続いているのか立派な登山道だが、たくさんの人が歩くからか、雪や風雨で削られるのか、かなり崩れている。上の方に咲き出しているセンブリは純白で、紫の筋が見えない。そしてたくさんの蕾をつけてずんぐりしている。そしてさらに降りていくとある、ある。あちらにもこちらにもムラサキセンブリが花盛りだ。登ってきた草の中の細い道よりたくさん咲いている。中には八重咲きに見えるものがあった。
ハナバチらしい虫がたくさん集まっているが、ふと見ると、青い筋の虫もいる。一瞬ルリモンハナバチ(※)かと思ったが、大きさも模様も違う。調べたら、蜂ではなくハナアブの仲間らしい。蜂は四千種というが、アブもたくさんいるのかな。
あっちもこっちもと、花を楽しみながらゆっくり降って駐車場に降りる。