葉月、盆の月、世の中は夏休み。まとめて休みを取って避暑や旅行に出かけるなどということはコロナ禍の中では難しいかもしれないが、学校が休みになって子供たちの賑やかな声が響いていると気持ちは元気になる。
猛暑の中では里山は敬遠されがちだ。かく言う私たちも数年前までは夏の裏山にはあまり登らなかった。ここ2、3年地附山へ出かける回数が増えた。8月から9月にかけて山頂にやってくるルリモンハナバチに会うためだ。
8月中頃は孫とのお楽しみがあって山に行く回数は減ったが、後半は何回か足を運んだ。今日は午後に用があるが、裏山なら昼までに行ってくることができる。そして、今年もルリモンハナバチはやってきた。山頂にベンチが据えられ、マツムシソウが減ったけれど、その数少ない花を目指して真っ直ぐ飛んでくる。
環境の変化が原因か、個体数が減っているという絶滅危惧種の仲間入りをしているようだ。『労働寄生』というあまり聞きなれない生態の蜂。どういうことかというと、他の蜂の巣に卵を産み、子育てをまかせてしまうという呑気なやつらしい。
幸せを呼ぶ蜂とも言われているから、会えるのは嬉しい。愛称はBlue Bee、見た目のまま。
8月の最初から数回登っているが、青い蜂に会えるのはいつも半ばから後半にかけてのようだ。地附山でのルリモンハナバチはいつもマツムシソウの蜜を吸っている。あまり遠出はしないのか、他の山でマツムシソウの群落があっても、そこで会ったことはない。他の地域ではその土地ごとに色々な花にやってくるようだから、花を選ぶわけではないのだろうか。あまり生態もわかっていないらしい。
青い蜂を求めて夏の山に登るようになったら、夏の山の豊かさに気がつく。春の花は終わり、夏から秋へ花の移ろいがある。そして夏の里山にも登る人がたくさんいる。数回の山歩きでイケさんにバッタリ2回も会った。一緒にコースを回ってキノコのことを教えてもらったり(8/20)、山頂で話をしながら待って青い蜂を見たり(8/24)した。ブルーは自然界では少なく、珍重がられる。キノコにもブルーはあって、ソライロタケはきれいなブルーらしい。イケさんが数日前に見つけたと、写真を見せてくれた。
昨年、お隣の大峰山で見つけたのは小さな群青色のキノコ、ソライロタケかなぁと思ったのだが、こちらはヒメコンイロイッポンシメジという長い名前のキノコらしい。キノコや粘菌・・・だけじゃないね、昆虫も蛾も・・・あまりに多くて小さな図鑑を見てもなかなか調べられない。でも、ちょっとずつお知り合いになれると嬉しくなって、そこからまた奥へ入って行ける。自然の面白いところだ。
そうそう、ツノハシバミの実が大きくなってきたと楽しみにしていたが、生食できると教えてもらった。山道で、硬い殻を割って味見。濃い味ではないが、清々しい。
いつも教えてもらうばかりだが、たまにはイケさんがまだ知らないこともある。足元に咲くアリノトウグサを指差したら「小さいなぁ。見えないよ」と笑う。7月後半から雄性期の花が咲いていたが、8月後半になったら雌性期の花が増えた。時期をずらして自家受粉を防ごうとしているのだろうか。自然が持つ知恵には頭が下がることも多い。
夏には夏の花が咲く、当たり前のことだが、何年登っていても初めて見たような気がする花もある。ツルの花などは、目に入っていても見ていないことがあって、しっかり見ると小さな花が絶妙な造形美で驚く。道端にたくさん咲いているから、横目で見て知っている気分になっていることが多く、じっと見るとその見事な形に目を見張るなどということになる。どんなことも楽しみに繋がるから嬉しい。
また今年は雨が多かったせいか、キノコや粘菌が賑やかだ。キノコのことはイケさんに聞くと詳しく教えてもらえる。食べられるキノコや、毒キノコ、しかも同じ種類のキノコでもいつも同じ形とは限らない。同種のキノコでも幼菌から成熟菌までその姿は変化していくから一筋縄ではいかないのだ。
気温や雨量によってもちょっとずつ太ったり痩せたり、キノコだって個性がある・・・ようだ。
今年は華やかなオレンジ色のキノコが登山道脇にたくさん出ている。これはベニウスタケ、よく似ているが黄色いのがアンズタケ。どちらも食べられるそうだが、ベニウスタケはあまり美味しくないとか・・・。キノコに詳しいイケさんに採ってもらったアンズタケで美味しいアヒージョを作るのも、楽しい。
粘菌は倒木の影などにびっしり生えていることがある。本やネットで調べてみるが、この世界もまた奥が深くて難しい。森の中で見つけると「これ、粘菌だね」と、顔を見合わせてニンマリする。白いのやら黒いのやら、真っ赤なもの、黄色いもの、見事にてんでんばらばらで、本当に面白い世界だ。時々粘菌かキノコかわからないのがあって、首を捻る。素人が見ただけで判断しようとするから難題になる。わかりやすい形のツノホコリやマメホコリを見つけるとニンマリが大きくなる。
いつものコースを歩いていつものところで写真を撮って、花々に挨拶して歩く。歩く回数が増えるたびに挨拶するところが増えていく。嬉しいけれど、いくつかのコースをもれなく歩くのはなかなか大変だ。旗立岩のところからはJR車両センターも見下ろしていく。車両センターの脇をしなの鉄道や新幹線の電車が走ることもあるから、油断はできない。
今年は青い蜂に何回出会えるだろう。雨が多いので、キノコは豊富らしいが、蜂にとっては暮らしやすいのか?
自然のさまざまな動きに気持ちを動かされ、目を惹かれ、歩くたびに自然の奥深さに分け入っている気がするが、何かを集中して研究するという姿勢にはならない。興味を持ったところをちょっとずつ齧っているだけだ。一つのことに絞れない、絞る気になれないというのが本音かもしれない。あまりにも広い、今私はどこにいるのだろう。
エノコログサがキラキラ光を反射し、ススキが穂を開き始めている。あちらにもこちらにもガンクビソウが丸く地味な花を持ち上げている。サジガンクビソウは春一番に柔らかそうな葉を開く。雪が溶けた山道を歩いていると、地面から明るい緑の若葉が顔を出して春の気分を盛り上げてくれる立役者だ。春から夏を通り越して、今ようやく花の季節を迎えた。
地附山の秋はこれからか、ツルリンドウやフクシマシャジンが小さな壺型の花を揺らしている。
蝶や虫たちもやってくるだろう。
私たちもまた行こう、我が裏山へ。