南にいる大型台風の影響なのか雨模様の日が続いたが、ようやく見えた青空が嬉しくて大峰山地附山をグルッと歩いてきた。日曜日だけれど、大峰山には人がいない。秋の気配が濃くなって、水の溜まった登山道脇にはキノコや粘菌がたくさん顔を出している。真っ白なシロオニタケらしいのや、名前の通り針金のようなハリガネオチバタケ、キノコもいろいろだ。
地附山では愛護会の作業で草刈りが行われたそうで、日向と枯れ草の綯い交ぜになったような香りが登山道に漂っている。
地附山の山頂ではルリモンハナバチに会え、大峰山の赤松の森ではとても小さなセミに会った。体長2cmちょっとくらいのセミは最初見つけた時はバッタの仲間かと思ったが、その姿は確かにセミだ。この小さなセミはチッチゼミというらしい。
大きなアカヤマドリを見つけたので、留守番の夫に見せてあげようと袋に入れて持って歩いていた。食べられるかどうかの判定は難しいので見るだけかな・・・と思っていたが、帰り道地附山公園近くでイケさんに会い、「これはアカヤマドリだよ。まだ傘裏が黄色いから食べられるよ」と、食べ方も併せて教えてもらった。
帰って料理をしながら、今日で地附山に登ったのは199回になったと話した。ぼちぼちと登っているが、いつの間にかずいぶん歩いている。
そして、アカヤマドリのペペロンチーノは絶品だった。
翌朝、夫が「200回目の山に行こう」と言う。雲がちょっと多いけれど、隙間から見える青空は少しずつ広がっている。よし、行こう。洗濯を干しながらテーブルに向かっている夫の手元を覗くと「登頂200回」という文字が見える。これを持って登ろうというわけだ。
公園が開くのを待って出発。
神戸の六甲山には『毎日登山』という文化があるそうだ。明治時代この地に住んだ外国人が始めた習慣らしいが、現在も色々な形で続いているという。
だが、私たちは『毎日登山』に惹かれたわけではない。
地附山は標高が低い里山ではあるが、季節ごとに咲く花の種類も多く、鳥や動物も豊かだ。季節が変わるたびに目指すものがあって、それを追いかけて登っているうちに、いつの間にか200回になっていた。
9月に入ってヤマウルシやナナカマドなどの気の早い葉は赤くなっているものが見える。だが、まだ残暑が厳しい日もあるから、森の緑は濃い。木の葉だけでなく、ツル植物が木の幹を頼りに空へ向かっている。ツル植物は大きな葉をひらひらと重ねて伸びていくものが多いから、谷は緑で埋まりそうになっている。
何回も同じ山を歩いていると、花や実りの姿に目が向く時もあれば、小鳥の姿が気になる時もある。蝶や蛾の様々な色や形を追ってしまう時もあるし、小さな昆虫たちのあまりにも多彩な様子に目を見張る時もある。いや、そういう生物ではなく、遠い山の姿、高い上空に動く雲の影を見上げてぼんやりする時もある。その時その時の自分達の気持ちの向く方向があるのだろう。自然そのものに特別な色分けがあるわけではないのだから。
秋の花も忍びやかで美しいのだが、このところ小さな昆虫の動きが気にかかる。彼らの多くは冬までの命と思っているからかもしれない。もちろん成虫で冬を越す昆虫もたくさんいることを知らないわけではないのだけれど・・・。
山頂で複数のルリモンハナバチに会い、嬉しくなって歩き始めたら、足元を小さな昆虫が走っていく。その素早い動きに思わず目がいく。以前イケさんが嬉しそうに教えてくれたハンミョウか、すごい速さで走る虫を追いかけ、なんとか撮影に成功した。やはりマガタマハンミョウだ。先日茶臼山では華やかなハンミョウに会えなかったが(※)、マガタマハンミョウもほのかに光沢感のある羽が綺麗だ。
これからの季節は上を見て木の実を発見し、大地を見てキノコの豊かさに驚きながら歩くことになるのかな。そしていつの間にか木々の葉が色づいていく。毎年繰り返しながら同じ時は一度もない。だから豊かと言えるのか、山道を歩ける今に感謝しよう。