青空だ。さぁ出かけようと夫がおにぎりを作り始めた。先日宿題になった(※)花を探しにもう一度行ってみようと言う。行き先は頼朝山。
世の中はゴールデンウィーク、今年は善光寺のご開帳も重なり、善光寺周辺は車も人も渋滞だ。こんな時は車を動かさない方がいい。山靴を履いて玄関を出たのは7時半過ぎ。空気はひんやりして肌寒いくらいだが、空には雲ひとつない。往生寺目指して少し登り、山を巻くように左へ進んでいく。諏訪神社、瓜割清水を過ぎると間もなく頼朝山の登山道だ。ここは新諏訪口というらしい。戸隠古道の入り口に当たるところらしく、分岐点には古道入り口の看板が立っている。
水辺が好きな花を探そうと思っているのだから、沢辺は外せない。境沢と看板に書いてある沢は人が歩かないからか、かなり荒れている。幸い水が少ないので、奥まで遡ってみる。オドリコソウはたくさん咲いているが、倒れかかった竹のトンネルを潜って進んでも他の花は見当たらない。しばらく登ると、白い小さな花が見えた。丸いうちわのような葉と菜の花のような4枚の白い花びらのワサビだ。すでに花は散り始めている。
先を見ると沢は杉林の中に細く続いているようだ。水辺に見える緑はシダばかりなので、引き返した。
山道を頼朝歩道分岐の展望台まで進む。脇に祀られる観音石仏を見つけながら登る道だ。足元を見ながら歩いていたら、チャンチンの実が落ちていた。見上げると、ずっと上に桃色のような葉の広がりが見える、きっとあれだ。まだ芽吹きから間もないから、葉は小さいようだ。
さて、今日は沢筋を歩こうという計画。上にいくと斜面は急になってとても歩けない。裾野の緩やかなところから沢の方へ入っていく。伐採の人たちが通るらしく、踏み跡がついているのでそれを頼りに歩いていく。びっくりすることにだんだん斜面が広くなって、畑の跡らしい場所に出た、今は耕されていないようだが、何段かの平たい土地が広がっている。かつては畦道だったようなところを歩いていくと遠くに白い花のゆらめきが見えた。緑の草原は花が好きそうな土地だ。近づいてみると白い群落はクルマバソウだった。満開のクルマバソウ、陽の光を受けて輝いている。
畑の跡をたどり、杉林の奥に進み、傾斜の急な斜面は木につかまって登ったり降りたり。沢にも降りてみたが、古いホースがシダの間に見えるばかり。かつては人が仕事をしていた跡が枯れ葉や倒木の下に埋もれながら見え隠れする。
フデリンドウやイカリソウは見つけたけれど、探していた花には会えない。ついに頼朝山と葛山の鞍部まで登ってしまった。
頼朝山の山頂で一息つく。夫が早めのおにぎりを食べている間に、私は静松時の方へ降る巻き道らしきところを歩いてみた。かなり降ったところで道が荒れてきたので引き返す。なんだか2回登った気分だよと笑う。
さて、今度は往生時方面へ向かう林道を歩き、もう一つの葛山への登山道を登ることにした。「このまま帰るのは勿体無いからもう少し歩いてこよう」とは夫の弁。
この辺りには郷路(ごうろ)山という山があった。善光寺の石畳は郷路山から切り出したのだそうだ。かつてはハイキングコースになっていたようだが、今では山頂も明記されていない。葛山への途中に盛り上がったところがあるので、この辺りが郷路山だろうと思って藪を漕いで登ってみた。一番高いところでとりあえず記念撮影。それから再び葛山を目指して登る。
この途中で、会いたかったジュウニヒトエに会うことができた。神奈川では何回か見たけれど、長野に引っ越してからは初めて会う花だ。そして、この道にはアケボノスミレがたくさん咲いているのも嬉しい。
葛山でゆっくりおにぎりを食べる。こんなに晴れているのに、今日は遠くの山々が霞んでいる。しばらく山頂でのんびりしてから、ふたたび頼朝山方面へ降る。今度は静松寺へ向かう山道を降りてみる。畑が広がり、農作業をしている人が見えてきたので引き返し、展望台へと道標がある道へ入る。
ところがこの道がすごかった。足元は崩れ、灌木の枝は張り出し、倒木が道を塞ぐという状態。引き返そうか・・・と迷いながらなんとか木々を乗り越えていくと見覚えがある道になる。「あ、頼朝山山頂から降ってきた道だ」と私。それから間も無く見覚えのある山頂下のヤマツツジ群落の中に入った。「今日2度目の山頂だね」と夫。「いや、私は3度目かも」と、私は苦笑い。
あとは素直にメインルートを降ろう。今年はヤマツツジが見事に咲いている。明るいオレンジ色の中を降る。展望台から静松寺への巻き道を十三番観音様まで少し散策してから帰路に着いた。フデリンドウが落ち葉の下から星のような花を散らばせていた。
目指す花に会えなかったから、宿題は来年まで持ち越しだけれど、頼朝山の別の顔に会えた気がする山歩きだった。