明日からは雨だって、今日は地附山(ぢづきやま)へ行ってこよう。夫が言うには訳がある。JR車両センターに新しい車両が来ていないか見に行きたいのだ。
歩くと少し汗ばむ季節になってきたので、家から車道を歩いて登るのを避けたい夫は、車で公園まで行こうと言う。公園が開くのは午前8時半、時間を見計らって出発。
公園の桜が散っている。風に舞う花吹雪が綺麗だ。新緑の勢いでうねっているような山に、思わず息を呑む。
カエデのトンネルを歩き始める。空気が緑色をしている。爽やかな、気持ち良い日だからか、行き交う人が多い。
カエデの坂道を折り返すと、ここはヤマブキが満開だ。風に揺れるとキラキラと光を弾く。近道を行こうかとも考えたが、パワーポイントのヤマブキの様子が気になる。パワーポイントをしばらく歩いていないので行ってみることにした。昨年大量に伐採したあとの斜面は、やっぱりヤマブキの色が薄い。大木を切ったあとに、ヤマブキが育ってくればまた一面黄色になるかもしれないが、今年はまだ無理だろう。ここではこれまで4種類の花びらを見つけていたが、花が遠くて今日は確認できなかった。
来年はもっと広がっているだろうと、思いを残して先へ進む。ギンランがいくつも芽を伸ばしている。ナツグミの花も、ズミの花も蕾が膨らんできた。ホオノキやヤマウルシの木の芽が広がり始め、ウリカエデだと思われる花もキブシの花もコナラの花も揺れている。
弾むような緑の勢いに吸い寄せられるのか、蝶や虫も飛び交っている。2頭の蝶やクマンバチがランデブーするかのようにクルクルと絡み合いながら急上昇していく。遠くに見ているのは良いが、ぶつかりそうな勢いでやってくるとちょっとびっくりする。
善光寺平はぼんやりと霞んでいる。これでは電車は見えそうにない、まずは山頂へ行くことにしよう。
地附山山頂に立つ。目の前に綺麗な飯縄山が聳えている。北の空は澄んでいるのか、黒姫山も妙高山もくっきり見えている。この綺麗な風景を眺めると、やはりもう少し歩きたくなる。大峰山まで行ってこよう。ショウジョウバカマが満開だが、先日友人が葉の先の不定芽を見つけてくれた(※)。あの芽も少し大きくなっているだろうか。ショウジョウバカマは白に近い色から濃い赤紫まで個体差があるが、花が成長して実になる頃にはオレンジから肌色になっていく。ショウジョウバカマの花色の変化を楽しみながら大峰山への分岐に向かって降っていくと、先日はまだ芽吹いたばかりだったチゴユリが一斉に小さな白い花をぶら下げている。まるではにかみながら俯いているようだ。誰が名付けたか、小さくて可愛い稚児の名がついている。
分岐を大峰山に向かって歩き始めたら、夫の足元からガサっと動くものがある。シマヘビだ。1メートル以上はあるが、勢いよく森の中に滑りこんでいくからカメラで追いかけられなかった。山道の端っこで日向ぼっこでもしていたのだろうか、きっとびっくりしたのだろう。木々の奥の倒木の下に潜り込んでいった。
さて、先日も見たショウジョウバカマの芽はと、キョロキョロしていると、すでに根を張っているものを見つけた。落ち葉に半ば埋もれているので、写真を撮ったあと、また被せておく。
大峰山の山頂はトキワイカリソウが満開だ。風に揺れている。ソメイヨシノも今を盛りと花を散らしている。イカリソウはようやく蕾を膨らませ始めている。1本だけ花をつけていたが、とても薄い白に近い淡いピンク色だ。
山頂で、腰を下ろして花を眺めていたら、歌ヶ丘から登ってきたという男性が隣に腰を下ろして話しかけてきた。その男性はコシアブラを採りながら登ってきたそうで、袋の中のコシアブラを見せてくれた。若い頃に『日本百名山』を踏破したそうだ。今は山菜を採りながら近くの山を歩いていると、笑いながら話す姿が楽しそうだ。
男性と別れて、私たちも再び地附山へ向かう。木々の隙間から見える善光寺平は朝よりくっきりしている。夫は嬉しそうに「行ってみよう」と言う。もちろん電車が見下ろせるところへ。
新緑の中を歩く、気持ち良い季節だ。足元にも、木々の枝先にも小さな花が沢山見られる。スミレもあちこちに咲いている。花色が地味でも、姿が小さくても、一つ一つ特徴がある花は覚えられるのだが、スミレはあまりにもたくさんの種類がある上にとても似た形をしているので、なかなか覚えられない。この宿題はまだ数年持ち越しかもしれない。楽しい宿題と思うことにしよう。