コロナ禍で行き来が困難だった関東首都圏だが、経験の蓄積とともにさまざまな対策を取りながらの移動ができるようになってきた。危険はゼロではないだろうが、気をつけながら旅をしようと、久しぶりに友人がやってきた。
この前長野に来たのは2019年の夏だったと思い出しながら、2年7ヶ月ぶりの再会を喜ぶ。友人は我が家のホームページを見ていて、以前からそこに載っている山に登ってみたい、花に会いたいと話していた。ようやくそのチャンスがやってきた。
お天気の様子をみながらどこへ行こうかと、1日目の夜は話の花が咲いた。
私たちが長野に引っ越してから一番身近に親しんで登っている山、『裏山』と呼んでいるところにやはり最初はご挨拶に行こう。
友人は『山歩きするぞスタイル』でやってきたから、靴はしっかり軽登山靴。みんなで足元を整えて、玄関から山歩きスタイルで出発。物見岩のイカリソウが咲いているのではないかと、伊勢社から霊山寺、物見岩のコースを行くことにした。
伊勢社の東斜面を登ると、目の前に桜が満開、足元にはオオアラセイトウの紫が広がっている。春一番に周囲を黄色く染めていたダンコウバイはもう花の季節が終わって、若葉が広がり始めている。
花岡平の霊山寺もソメイヨシノが満開だ。標高が高いから街より開花が遅いのだろう。神奈川から来た友人はもう一度桜が見られたと大喜び。 霊山寺を奥に進んで行くと、男性が「そこに猪がいるよ」と教えてくれる。少し奥に入ったところに駆除した猪がまだ横たわっているらしい。情報はありがたいけれど、死んでしまった猪を見るのはやめておこうと意見が一致。私たちは物見岩の下へ進む。
咲いていた。イカリソウが斜面一面に揺れている。ちょうど差し込んできた太陽の光に、昨日降った雨の余韻の露が光っている。
イカリソウの花をゆっくり見てから物見岩の下の岩井堂観音に登る。声が聞こえていたヘルメットの集団がいる。大きなビデオカメラを据えて、ロープを張ったところで動いている人を撮影しているようだ。私たちが近づくと声を掛け合い、道を開けてくれた。これから夏山に向かい、登る人なのか、救助をする人なのか、いずれにしろ岩場での動きを訓練しているようだ。
そこを通り過ぎて物見岩の上に回る。途中センボンヤリが咲いているかと足元を見ながら歩いたが、まだ蕾ばかりだった。
今日は春霞というのか、遠くが霞んでいる。それでも善光寺はすぐ下に、少し遠くに裾花川の白い断崖が見えている。
しばらく景色を眺めてから、大峰山を目指して登り始める。今日のもう一つの目的はショウジョウバカマ。この季節に見られる花だと友人に話してある。地附山への分岐へ行くまでにもポツリポツリと咲いていたが、大峰沢からの登りになるとあそこにもここにもたくさん咲いている。足元に目をやりながら歩いているから、ツチグリも見つけた。
「どうしてショウジョウバカマって言うのかな」とつぶやく友人に、「ホームページに書いたよ(※)」と笑う。もちろん意地悪したいわけではないから、名の由来について図鑑などに書いてある説を話しながら歩いた。
ショウジョウバカマは実生で増えるだけではなくて、葉の先に不定芽を出して、増えることができるのだそうだ。今まで知らなかったから、今年はその芽を探したいと話しながら登っていたら、友人が「あ、あれは芽じゃない?」と指差す。「そう、あれだ」と、思わす叫んでしまった。とても小さい芽なので、私には見つけられなかったかもしれない。一度見つけると、不思議なことにいくつか見えてくる。大峰山で数株のショウジョウバカマの不定芽を見ることができた。
コシノカンアオイも、トキワイカリソウも、友人は初めて見ると喜んで、私たちは地附山へ向かった。
地附山の山頂で蕗味噌にぎりを食べ、のんびりしてから旗立岩へ向かう。JR車両センターを見下ろすのが今日の次の目的。鉄ちゃんの夫と、鉄子ちゃんの友人は望遠レンズを頼りに話が弾む。今日は少し霞んでいるからあまり見えないかもしれないねと言いながら、遥か遠くの豆粒のような電車を見ている。
電車を見た後は、前方後円墳を通って帰ろうか。今日は駒弓神社への道を降ろう。道の脇に小さなセンボンヤリが一輪咲いている。登りではまだ蕾だったけれど、一輪だけ見ることができたね。
駒弓神社の周辺はまだまだソメイヨシノが満開。ちょうど風が出てきて、桜吹雪がはなやかに舞っていた。
※写真掲載については本人の了解を得ています。