午前中、森の杏(あんずの里)で花見を堪能した(※)。今度は千曲川を渡って、大雲寺を目指す。大雲寺の裏山に何だか不思議な石仏があると聞いていた。今日はその石仏に会いに行こうという計画。
「花見だけじゃつまらないよ。どこか山も登ってこよう」とは夫のセリフ。いつから山男になったのか。まぁそれは良い、せっかくの好機、行ってこよう。
あんずの里物産館でお昼を食べ、粟佐橋で千曲川を渡る。この辺りは稲荷山地区、江戸時代には善光寺街道の宿場町として賑わったところだ。ぶつかった信号を左折、南に向かうと左側におしゃれな建物が見えてくる。ここは稲荷山養護学校、素敵な建物だ。
大雲寺は桜と蓮の花の名所らしい。季節になれば賑わうのだろうが、今日はまだ静かだ。池の向こうには高い石垣が積んである。お城かと思ってしまう立派なお寺だ。
池のほとりの道を寺に向かって歩いていく。片側は一面苔むした斜面になっていて、風情がある。ふと見ると、緑の玉をつけた苔が多い。苔の名前はわからないが、私は緑玉の苔と勝手に呼んでいる。この苔を毎年近くの山麓で見るのを楽しみにしてきたが、今年はまだ見つけられないのでがっかりしていた。ここで会えるとは嬉しいことだ。
大雲寺に突き当たると左に山道がある。登り口には立派な案内板が立っている。それもそのはず、大雲寺の裏山一体(一重山)は、千曲市による『大雲寺郷土環境保全地域』に指定されているそうだ。昭和の終わり頃、郷土色豊かな自然環境を守るために指定されたそうだ。
階段状の山道を登ると左に慈母観世音像への道を分ける。まず慈母観音様にお参りしてから戻って右へ登る。まだ落ち葉の色が勝っている山道だが、スミレの花がポツリポツリと彩りを添えている。淡い紫の花は、タチツボスミレだろうか。
10分ほども登ると、展望台の看板が立っている四阿に着く。木々が茂っているので、あまり展望は開けていない気がするが、ここで一休み。
夫を残して私は周囲を歩く。展望台の奥に荒れた登り道があるので行ってみる。藪を漕いで最高点らしきところに立った。周りを見回せば、もう高いところはないから、ここが520mの寺山なのだろうけれど、藪の中。ミヤマウグイスカグラが咲いているだけだ。枝には昨年の蜂の巣がぶら下がっている。足元にはショウジョウバカマが半分くらい花開いていた。
戻ろうかと思ったら、夫がやってきた。「電車の音がしたから・・・」、さすが鉄ちゃん。確かに、大雲寺の裏側の遥か下に篠ノ井線の線路が見える。私たちは電車が通っていくのを眺めたが、手前の枝が茂っているので撮影ポイントには向かないようだ。
電車を見送って、いよいよ霊諍山(れいじょうざん)に向かう。気持ち良い稜線の道をのんびり歩く。右に四阿を見送るとすぐ登りになる、見上げれば鳥居が立っている。斜面の途中から大小の石仏が現れる。霊諍山には八百万(やおよろず)の神さまが祀られているという。そしてこの山にある石仏などは100を越えるそうだ。
山頂から北西の方向を見下ろすと篠ノ井線と長野自動車道が走っている。ぐるりと石仏を見ながら社を一回りすると、東南方向の視界が開け、千曲川流域の里が広がる。冠着山もぽっこりと独特な山容の頂が見えている。さて、社の東側に回ると猫神さまの石仏が2体並んでいる。一方は立ち上がって片手を上げている。どこかユーモラスな顔だ。もう一方はまさに猫。こっちを見る顔が今にも動き出しそうな表情をしている。農産物が頼りだった里ではネズミが大敵、ネズミを寄せないために猫は大切にされたのではないかと文献にはあるようだ。猫神さまだけではなく奪衣婆(だつえば)などという不気味な顔をした像もあった。三途の川で金の無い亡者の衣を剥ぐという役目の婆だそうで、手に衣を持っている。やさしい顔の大日如来、本を持って知恵を授けてくれる文殊菩薩、摩利支天像、他にも名前のわからない石仏がたくさん並んでいる。そして入り口に紙垂(しで)がつけられている古い小屋に小さな木馬があったが、白く塗られたそれは神馬なのだろうか。
八百万の神さまの世界にお別れをして降ろうか。歩きやすい森の中の道を降りていくと分かれ道。この先に矢崎山があるらしい。こちらから見ると垂直の崖だが、巻くように登山道があるので、登ってみる。山頂にはいくつかの祠が祀られ、足元に広がる里を千曲川が流れている。
山を降りて今度こそ帰ろう。
帰り道、信濃長谷観音を訪ねてみることにした。ちょうど帰り道の道筋にある。これまで近くを通りながらも訪ねるチャンスがなかった。大和、鎌倉と並んで三大長谷寺と呼ばれるところだそう。
階段を上がると立派な鐘楼門があり、その奥は広々とした境内。今日の暖かさで境内の桜がどんどん開いてきたようだ。大きな枝垂れ桜も花開いている。奥に行ってみると、お寺の裏山は塩崎城跡という善光寺平の南の入り口に位置する山城跡。観音像が立つ山道を登ってみたが、最後に崖が立ちはだかっている。今日は使い古したスニーカーで、滑りやすい。おまけにあちらこちらと歩いてきて疲れているので、ここまでと決めて潔く引き返すことにした。
長谷寺からも篠ノ井線がすぐ下に見えて、鉄ちゃんも満足の1日になった。