雪とオミクロン株に閉じ込められて家にこもりがちの日々。今日は曇りというけれど冬型の気候らしいから、少し南下すれば晴れ間も見えるのではないかと俄か天気予報士の夫が言う。どこへ行こうかと色々考えるが、登山口までの道は雪でまだ不便だろうという予想がつく。「やっぱり裏山を歩いてこようか」と私は言うが、「たまには車も動かさないと・・・」と夫。それではと、先日通行止めだった茶臼山植物園への迂回路(※)を行ってみることにした。
玄関を出るとふわりふわりと雪が舞っている。風があるので同じ方向へゆらりと流れていくようだ。南の空はわずかに明るいから行ってみよう。篠ノ井駅の手前から山に登っていく。りんご畑の間の道を右に入ると茶臼山動物園の北口へ行くモノレール乗り場と恐竜園がある駐車場に着く。しかし今日は植物園への迂回路という矢印に沿ってさらに奥へ登っていく。緩やかにカーブした道は数台車が停まっている駐車場まで続いていた。植物園の下の入り口になるところだろう。
家を出たのは9時半、車を停めて街を見下ろしたのは10時15分、家から45分の道のりだ。
足元を整えて歩き出す。雪は降っていないけれど、刺すような冷え込みだ。雲が多くて太陽が顔を出さないからだろうか。私たちは植物園の中に入っていく。自然の起伏を利用して作られている植物園も、今は真っ白。いろいろな木が雪の中に立っている。遊具もあるが、もちろん今は雪の中に埋もれている。冬季は閉園されているが、山へ向かう人は自由に歩いているらしく踏み跡が残っている。私たちはぽつりと続く一人の足跡らしきものを頼りに脇に入ってみた。そして踏み跡のないような緩やかな勾配を歩いた。雪の量はそれほど多くないのでどこを歩いても行けそうだけれど、広い園内を彷徨うのもつまらないので再び踏み跡に戻った。
植物園を取り囲む柵の門を開けて登山道に出る。雪が溶けた斜面の、落ち葉の堆積が広がっているところにカケスが動いている。大きくて綺麗な鳥だが、枝の重なりの向こうにいるのでカメラで追うのが難しい。しばらく眺めて飛び去るのを見送ってから登り始める。登り始めた頃から粉雪が舞い出した。まるで塩か砂糖の粒を落とされるように細かい雪だ。パラパラと音がするように、体を転がっていく。雪の上に落ちても見えないが、落ち葉が見えている上に降ると、まるで白い粉を撒いたように見える。雨具も持ってきているが、このくらいの雪では着なくて大丈夫。ゆっくり登っていると一旦止んだ粉雪がまた舞い始める。今度は少し大きな粒が降ってくる。大きいと言っても直径1、2ミリ程度の真っ白な粉雪だ。思わず綺麗だねと言いたくなる。
私たちは雪の上に落ちている木の葉や実を数えながら登っていく。鳥の羽がたくさん落ちているところもあった。ここで自然の生き物たちのドラマがあったのだろう。
ヒノキの葉先がたくさん落ちている。茶色く枯れている。カラマツの落ち葉は秋になると一面の絨毯のように落ちるが、マツやスギ、そしてヒノキなどの針葉樹も少しずつ葉の世代交代をしているのだろうか。
針葉樹の森の中を登ると茶臼山の山頂だ。今日は途中で何人かの人にすれ違った。寒くて雪がチラつく今日のような日でも、登る人が多いことに驚く。最近何回か歩いた有旅茶臼山の方へ行く道には足跡がなかったから、茶臼山の人気登山道は植物園からの道なのだろう。
一旦山頂から降りて先へ進む。今日は見えないだろうと思いながらアルプス展望台に向かう。やっぱり、アルプスは深い雲の中だった。目の下には信里の田園風景がかすみながら広がっている。アルプスは見えないけれど、田んぼに雪が積もった山里の風景は心が和む。ここで風景を眺めながらおやつを食べよう。
今日はミックスナッツを持ってきた。これがなかなかいい。塩味のお煎餅は定番なのだが、ナッツは今まであまり持ってこなかった。夏は汗っかきの夫にとって塩分と水分が欠かせないから、おやつもつい塩味煎餅が定番になってしまう。今日はアーモンド、カシューナッツなどを適当に詰めてきた。カリッとした歯ごたえが心地よく、何だか元気が出る気がする。
おやつを食べて、さぁ帰ろうか。帰りは誰にも会わない。のんびり降る。一面茶色にくすんだ山の中でカンボクの実が鮮やかだ。見上げていたら、ジョウビタキが一羽目の前にやってきた。私たちがいても気にするそぶりもなく、しばらく一緒にカンボクの実を愛でていた。
また来るよと茶臼山を振り返りながら駐車場に向かった。