玄関から登山靴を履いて、そのまま歩いて登ることができる裏山。少しくらい雲が多くても、「降られたら帰って来ればいいよ」と言いながら登ることができる山。いくつかあるが、中でも地附山と大峰山は気軽に登れる山として数多く訪ねている。
だが、振り返ってみると7月の大峰山には実は1回しか登っていないことに気がついた。長引く梅雨に閉じ込められたり、遠方への旅行を計画したり、年によって理由はさまざまだ。今年は長引く梅雨の中で閉じこもる日が多かった。
「7月中に大峰山に行ってこようよ」「ハナイカダの実もできているだろうし、この季節の花も見てみたいから」。何度か話していたからか、少し青空が見えた日に夫が「今日は大峰山に行こう」と言う。
大峰沢から登り始める。畑の中を通って、小丸山を越え、歌が丘から山道に入っていく。途中の大峰沢はクズやヤブガラシなどの蔓植物に覆われ、マント状になっている。この下に深い沢が隠れているとは思えない。
歌ヶ丘から歩き始めるとすぐ、夫が指さした。「アレッ」、指の先には大きなキノコが。明るい茶色の傘が少しひび割れている、ずっと前に一度だけ見たことがある、アカヤマドリだ。帰って図鑑で調べたら、「食べられる、美味」とあったから、また見たいと思っていたが、その後探しても見つけられなかった。美味との情報にちょっと気持ちが揺れたが、山のキノコは採らないことにしている。菌を放出して増やしてもらおう。周囲一面に顔を出すようになったら、一個くらいもらってみようかな。
さらに登ると、まだ傘が開かない幼菌も顔を出している。赤い色が強く、まさにアカヤマドリだ。斜面を見ると、お饅頭のようなキノコも、たくさん出ている。中には手のひらより大きいものがある。虫に食われた穴が空いているものもあるが、虫が食ったから人間にも毒がないかというと、そうでもないらしい。
今日は暑くなりそうだという天気予報、空は真っ青だ。南からのルートは暑いかねぇなどと言いながら登り始めたのだが、森の中は爽やかな風が吹いていて涼しい。長引いた雨の影響で、登山道は湿っぽくぬかるんでいるところもある。そのせいか、キノコがたくさん顔を出している。お隣の地附山もキノコ街道になっていたが(※)、キノコの種類が違うようだ。こちらは一面に広がってはいないけれど、ポコンポコンと巨大なキノコが顔を出している。地質の違いか、私たちの目から見ても森の樹木などに大きな違いはなさそうだけれど。 (※山歩き・花の旅191 キノコ街道?地附山)
大きなキノコにはつい目を引かれるが、花はあまり多くない季節なのだろうか。咲き遅れたヤマツツジが2輪ほど咲いていたが、オカトラノオは茶色に枯れ始めている。花が少ないねぇと言いながら、急な坂をひと頑張りして頂上の広場に登り着く。そこには白い小さな花が一面に咲いていた。ヤブジラミとヒメジョオン。三角点に足を伸ばすと、ヒヨドリバナが蕾を大きくしている。昨年何度か通って成長を楽しみ見たシュロソウは、刈り払われてしまってちぎれた葉だけが残っている。残念だ。
山頂の大きなトチノキを見上げて、葉を拾う。5枚の手のひらのような葉は、柄のところから全体が1枚の葉だ。似ているけれど、ホオノキの葉は、巨大な手の指に当たる1本1本が1枚の葉。先日、友人がお土産に朴葉餅を持ってきてくれたが、大きな1枚の葉に1個の餅が包んであるのだ。
山頂の木のベンチでおやつを食べる。今日は登る間誰にも会わなかった。山頂でゆっくり過ごす間も私たちだけだ。青空は綺麗だが、木の間隠れに見えるアルプスの稜線は雲の向こうだ。木の実や花を楽しみに、今度は物見岩のコースを降ろう。山頂でいつもの記念撮影をして降り始める。降り始めると何人かの登山者とすれ違った。やはりこちらがメインルートになるのだろうか。
木の実が少しずつ膨らんでいる。白い花穂を掲げた大きな花がたくさん咲いている。さてこれはショウマだが・・・、これはトリアシショウマだね。ヤマブキショウマとは、葉の葉脈の違いで見分ける。
小さな、小さなアクシバの花も発見し、足取り軽く物見岩につく。南の空に雲が湧き上がってきた。
帰り道では、数年前に発見した場所で、双子のように寄り添っている巨大なアカヤマドリにも出会うことができた。今日はキノコの大将にたくさん会ったねと話しながら、家に向かう。満足感たっぷりの裏山登山だった。