まだ5月と言うのに梅雨のような雨模様、「五月晴れという言葉はどこへ行った」と夫。冗談ではなく本当に梅雨入りしそうだ。南では既に梅雨に入ったという。
そんなシトシト雨の天気でも、散歩道なら行けるかも・・・と、傘を持ってバスに乗った。飯綱高原にあるという森林博物館フォレスト・ミュージアム。長野市の実験林らしいが、その考え方が嬉しいので、一度行ってみたいと思っていた。とはいうものの、知ったのが最近だから、あまり偉そうなことは言えない。
戸隠では7年に一度の式年大祭を行なっているが、平日なので、バスはそれほど混まない。飯綱湖入り口でバスを降りて、山の方に歩いていく。道端のスミレやタネツケバナ、ムラサキケマンを見ながら5分ほど歩くと右に大きな看板が見えた。すぐ奥のシラカバ林を眺めて、左の小湿原に入って行こうとすると、黄色いテープが張ってある。『危険』との文字。奥を見ると、倒木が多い。しかし一面のニリンソウ群落が昨日までの雨を乗せて光っている。濃い緑の中に苔むした木道が続きどこか深山の雰囲気だ。入り口の大きな木の根本に濃い青のルリソウが凛と立っている。
森のはずれをウロウロしながら先へ進むと柳沢池。モリアオガエルだろうか、カエルの鳴き声が賑やかだ。水面に浮いている水鳥の姿を眺めていると、車を停めて女性二人が奥へ入っていく。道があるのか・・・と、後ろから入っていく。たくさんの木が倒れて広場のようになっている所を奥へ行くと、柳沢池の裏側に出た。いくつもの細い沢に丸太の橋が丁寧にかけられている気持ち良い道だ。サクラスミレやクリンソウが緑の中に浮かぶように咲き、ルイヨウショウマの白い穂が輝いている。
そのまま道標に従って戻ると、途中から道がなくなった。クリンソウが一面に花を開きかけていて踏まずに歩くのに苦労した。微かに残る踏み跡を辿って戸隠古道に戻る。この豊かな森の中を再び歩けるように整備してほしいと思いながら、古道を戸隠に向かった。
戸隠森林植物園の新しい木道を歩いてみたいと、みどりが池から植物園に入っていく。トガクシショウマの花はほとんど散ってしまったが、最後の数輪が残っていた。サンカヨウ、シラネアオイ、そしてアズマシャクナゲが誰もいない丘の上に咲き誇っている。
次第に雲が低くなってきたから、ここまで入ってくる人はいないのだろう。ツルシキミが咲く斜面を降りて、新しい木道に行く。暗い森の中に浮かぶように続く木道は戸隠連峰を越えて雲の向こうまで続いていくようだ。葉が大きく育った水芭蕉の中を一人優雅に歩いていると、ポツリ、ついに落ちてきた。
傘をさして、クマさん来ないでね〜と歌いながら随神門までの森の道を歩く。奥社への参道には、この雨の中でもチラホラ人影が見えた。一面のニリンソウと遊びながらバスの時間を待った。
二日後「戸隠へ行こう」と夫。朝散歩だと言う。戸隠植物園の石楠花を見たいのかと思ったら、「でも瑪瑙(めのう)山へ登るのもいいかな」。
祭り(戸隠式年大祭)の終盤、混むのは嫌だから朝7時になる前に家を出る。天気予報はあまり良くない。雲が多いので雨具持参。冬にはよく訪れた戸隠スキー場の広い駐車場に車を停める。
森の中の道を登ろうと言いながらゲレンデを歩き始める。「登山道の入り口はどこだったかな」「看板が立っていたよね」と、キョロキョロしながら歩いていくが、ゲレンデと森の境にそれらしき看板が見つからないうちに高度は上がっていく。若い男女が山菜を摘みながら前後して歩いている。彼らはゲレンデを登るようだ。いや、既にゲレンデというより林道のようになってきた。登山マップに載っているこの道は資材をあげたりする車が走る道のようだ。
斜面の裾を流れる細い水路の近くにはオオタチツボスミレやツボスミレが広がっている。少し離れたところにはタケシマランが小さな花をぶら下げている。まだ雪が溶けたばかりのようなスキー場の春はようやく始まったところか。
カンバの林が綺麗だ。白や薄い肌色の幹に青々とした新しい葉が揺れている。しかし標高が上がるにつれ、林は黒い色になる。まだ新芽が開かないのだ。
振り返ると、戸隠連峰が立ち塞がるようにそびえている。山頂の稜線を隠すように雲に覆われているのが残念だ。はるか下の若緑の森の広がりと稜線の茶色の森、その背後には群青色の戸隠、素晴らしい眺めだ。時折広がる青空が光に変化を見せてくれる。 さて、最後のゲレンデだ。一面赤茶色のゴロゴロ岩の中をゆっくり登る。最後のひと登りの山道で、まだミツバオウレンが咲いていた。アカモノの葉も多いが、蕾らしい膨らみが見えるばかり。
山頂からは飯縄山が目の前だけれど、やはり山頂には雲がかぶさっている。大きな岩に腰掛けておやつタイムにする。青空は気まぐれに広がっているが、近くの山の山頂にはしっかり雲がまとわりついている。戸隠山も黒姫山も、飯縄山も・・・。山頂は遮るものがないせいか、風が強い。あまりゆっくりしていると寒くなりそうだ。リュックから取り出したのは、カラフルな赤と青の手ぬぐい。先日息子の家族から届いたものだが、首に巻くと思ったより暖かい。手ぬぐいをマフラーがわりにしておやつを食べ、寒くならないうちに降ることにしよう。
帰りはゲレンデではなく、以前通った森の中の道(※)を行こうと、記憶の中を探る。「小さな池の近くだったね」「看板が立っていてわかりやすかったよ」と話しながら歩いていくと、下の方に池が見えてきた。あの池だ。でも、池の手前を見てもそれらしい看板はない。この辺だったよねとゆっくり歩いていくと、森の中へ降りていく登山道が見えた。
池の周りは小さな湿原、水芭蕉はもう大きな葉になっているが、ショウジョウバカマが咲いている。モリアオガエルの鳴き声が響いている。これからあの白い泡のような卵を産みつけるのだろう。
しばらく池の周りを歩いてから、森の中へ入った。足元に小さな、小さな花が咲いている。10センチに満たない草丈の先に一輪の白い花。ヒメイチゲだ。今日の登りはゲレンデばかり歩いてきたので、この花に出会えて大喜び。ブナの大木を見上げ、沢沿いに咲くサンカヨウを愛で、どんどん降っていく。ところが、このところの雨模様で道はかなりぬかるんでいた。しかも、何本かの沢を渡るための丸太の橋が落ちそうになっているところもある。沢の岸が崩れて、1メートルも落ちている。慎重にストックを使いながら崩れ落ちた橋の上に着地、そっと渡る。
「看板がないのは、冬の間取り外したんだね」「山開きで、道を整備したら看板を立てるんだよ、きっと」。頷き合いながら、森の中を抜け、下のゲレンデに飛び出す。広いゲレンデには数人の山菜採りの人が散らばっている。私たちも蕨を摘みながら車に戻った。