時々足を運ぶ、上杉謙信の城があったという髻山に、オウレンが見られるという情報を得て気になっていた。しかし、場所がはっきりしないということもあって迷っているうちに花の時期が終わりそうだ。終わったかもしれない。少しは咲いているかもしれない。探しに行ってみようか。
髻山にはカタクリが咲くので知られている。私たちもカタクリの季節に何回か登っている。温暖化の影響か、開花時期が早まっている。カタクリが咲き始めているかもしれないと話しながら、吉の駐車場に向かう。9時半になろうかという時間、まだ1台も停まっていない。
駐車場に入ろうとしたら目の前を何かが横切っていく。リスだ。あ、と思った時は反対側の森の中に消えていった。リスの姿はなかなか見られないけれど、いるんだね。食痕はあるから、いるとは思っていたけれど。
さて、登ろうか。まだ固い蕾のリンゴ畑の脇から山に入る。たくさんの松が切られて、害虫燻蒸のための白いビニールカバーの山になっている。斜面に白い山が点々としている姿は異様だ。でも、こうやって手入れされている山なのだと感じる。
それでも倒木の手入れは追いつかないようだ。しばらく登ると登山道にすっぽりはまるように太い木が倒れている。木の両脇に新しい踏み跡ができている。
春の気配が嬉しいのか、蝶がたくさん舞っている。テングチョウ、ヒオドシチョウはおなじみだ。2頭で絡み合うように高く低く飛んでいる。飛んでいると黄色いのに、止まると白に見える蝶もいる。
観音清水を越えると、少し急になる。でも一息で山頂下に登り着く。カタクリ群生地だ。残念ながらまだ小さい葉が多い。私たちはじーっと落ち葉の積もった斜面を睨みながらゆっくり登る。時々小さな蕾をつけた個体もある。ようやく、ピンク色の大きな蕾に出会った。でも、まだ開くには硬いかな。
カタクリを探しながらゆっくり登って山頂に飛び出した。夕方には雨になるという予報、山頂からの展望は霞んでいる。三角点や天則点がある広い山頂で記念撮影。
さて、どうしようか。裏側の平出コースの山中にオウレンが咲くらしい、行ってみようか。「詳しい場所がわからないから、見つからないと思うけど・・・」「時期も遅いしね」と言いながら、森の様子を見てみたい意欲満々。山頂の石垣の脇を降り始める。 「あ、あった」と夫。後ろから覗くとアズマイチゲ。数輪のアズマイチゲが純白の花びらを少し閉じ加減に俯いている。春のわずかな間だけ地上に姿を見せるスプリングエフェメラル(春の妖精)と呼ばれる花。
「こっちに降りてきてよかったね」と言いながら先へ行く。堀のような大きな凹みが斜面を横切っているところには『馬かくし』と説明板が立っている。よく見かける堀より深いと思ったら、掘った土を山麓側に土塁にして積んであるからだという。上杉謙信はこの堀へ軍馬を隠しておいたと言われているのだそう、だから『馬かくし』。
時々杉林を奥まで歩いて、周囲を見ながら進む。それにしても累々たる杉落ち葉。またまた子供の私が顔をもたげる(※)。こんなに杉っぱがあれば焚き付けに困らないなぁ・・・。お風呂やかまどの焚き付け係だった私の育った田圃地帯では、杉っぱをたくさん拾うのは難しかったのだ。
(※山歩き・花の旅99 森のシンフォニー 三登山、髻山)
それはさておき、探しものは簡単には見つからない。登山道は倒木に遮られているところも多く、吉コースより荒れている気がする。
時々咲いているアズマイチゲを励みに進み、林道に飛び出した。今日は諦めて帰ろうか。後ろ髪を引かれるようにため池の周囲を巡ったり、杉林の中に目をこらしたりしながら林道を登り、吉コースへの合流点から来た道に戻る。観音清水を過ぎたあたりで、突然夫がつぶやく。「サングラス・・・落としたみたい」。
カバンの中、ポケットの中、全部探したけれど、無い。「おかしいなぁ、私が後ろを歩いていたけれど・・・」と首を傾げるが、無いものは無い。「戻ってみようか」。
今歩いてきた道を、下を見ながら再び歩く。林道から山道に入り、大きな木を飛び越えたあたりは慎重に探す。無いねぇ。サングラスはないけれど、巨大なカイメンタケが落ち葉の下に隠れているのを見つけた。「こんなに大きいのに、さっきは見つけられなかったね」「森の中ばかり見ていたからだよ」などと言いながらさらに登る。
オウレンを探して脇道に入ったところを数メートル進むと「あった」。杉の穂の上にちょこんと乗っていた。「やったー」。この道を戻る時は私が前になっていたから、気がつかなかったんだ。嬉しさは饒舌に繋がる。今度はしっかり仕舞っていきましょう。
ここまできたら、もう一度山頂まで行ったほうがいいねと、再び髻山山頂へ。嬉しいことに降り始めた時には閉じ加減に俯いていたアズマイチゲが開いている。
空気が湿ってきたようだ。雨になる前に帰ろうか。期待していたカタクリは、まだ蕾のままだったが、これからたくさん芽吹くだろう。小さなスミレ、頭上のダンコウバイ、花は咲く季節を知っている。ミヤマウグイスカグラが麓の方では開き始めた。オクチョウジザクラの蕾が一輪そっと花びらをのぞかせ始めている。
春はそこまできている。来年はオウレンに会えるといいな。