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風の通るところ、アファンの森(長野県)

2020年11月7日(土)


photo アファンの森の入口
森の入口

秋の気配を感じながら、コスモスを訪ねて友人と黒姫山の懐を歩いたのは9月。黒姫童話館で行われていたC.W.ニコルさん(1940−2020)の追悼展を見た。日本の自然を愛し、黒姫山の麓で暮らしていたニコルさんは今年の4月に亡くなった。信濃町で何回かお見かけした時はお元気そうだったのに・・・、残念だ。(※)

ニコルさんが私財を投じて始めた、生きている森を取り返す試み『アファンの森』を応援しようと、友人たちは財団の会員になり、その見学会に同行させてもらった。

map アファンの森

森へ入るとすぐ小さな小屋がある。木の皮で葺いた屋根、煙突からゆっくり登っていく白い煙。作業をする人が一休みする小屋だそうだ。目の前にあるのは3代目の小屋だそうで、3代目にして初めてサッシの窓が付いたという。

なんだか懐かしさを感じる風景だ。


photo 懐かしさを感じるアファンの森の入口の小屋
懐かしさを感じる

見学する人は四つのグループに分かれ、案内してもらう。入り口で森の説明を聞いた後、ゆっくり歩き始める。少し登ったところに大きな石があり、その中央にニコルさんの銘が彫ってある。『ここに腰をおろして、森と風に耳をかたむけて』と書いてあるが、誰も座らない。ニコルさんのサインが彫ってあるところに座るのは気が引けてしまうというのもあるが、もっと暖かい季節に座ってみたいと思う。その奥には『母なる木』と呼ばれる木がすっくと立っている。


photo 母なる木と銘のある石 アファンの森
母なる木と銘のある石

しばらく森を感じながらたたずみ、紅葉が始まった森の奥へ進む。『おとうちゃん』という名札をつけた案内のお兄さん(?)のユーモアのある語りにも耳を傾けながら、少しずつ森の奥へ入っていく。11月の黒姫山麓はすでに冬の気配をまとい始めている。落ち葉に埋もれそうな道を歩いているとキノコや粘菌が働いていることを感じる。菌類が活発なことも樹木の成長に欠かせない。


photo アファンの森の秋の見学会
アファンの森の秋

森が荒れるとはどういうことだろう。森は、そこに木が生え、草が茂り、動物たちがねぐらとする。しかし、山登りをしようと道を辿るときに気がつくのは、マント植物(蔓性)に覆われて日が差さない暗い森、そこは一見緑に覆われているけれど、再生機能が弱い。あるいは鹿の食害で幼樹や下草が育たないために活力を失った森、などなど。杉を植林した後、手入れがされていない森も見かける。

photo アファンの森 季節の彩り
季節の彩り

ニコルさんは生き物の多様性があり、人と自然が共生している森を作ろうとされていたそうだ。そこには子供たちの声が響き、若者が語り合い、老人が憩うだろう。だから、おそらくもっと開かれている方がいいと考えておられたと思う。会員だけに開かれているのでは、やはり閉ざされた森という感じも残ってしまう。

説明を聞くと、子供たちが元気に森を駆け回るような企画もあるそうで、うなずける。元気になった森に、ほかでは絶えてしまったような植物が生えたためにその盗掘も起こったそうで、止むなくの閉ざしでもあるらしい。残念なことだ。人の心の再生も同時進行しなければいけないのだと思ってしまう。

photo キノコ
キノコ

photo 竃のある小屋
竃のある小屋

森の中には、テント、竃(かまど)、木のベンチなどが点在し、ホッと息をつける感じだ。子供たちがブランコに興じるという、太いフジのツルに友人が挑戦、胸くらいの高さのツルに飛び乗った。勢い余ってバランスを崩して落下したのはご愛嬌。おじさんのやんちゃぶりに思わず拍手が起こったのは、みんなの心にもヤンチャが住み続けている証かもしれない。


photo テントの前で説明を聞く
テントの前で説明を聞く

photo 飛び乗る!アファンの森
飛び乗る!

ニコルさんが目指した森の再生、『生き物の多様性と、人と自然の共生』って、私が尊敬する柴さんこと柴田敏隆氏(コンサベーショニスト1929-2014)がいつも話されていたことと同じだと気がついた。柴さんは、三浦半島で自分の身近な自然を知ってもらおうと毎月見学会を実施された。自然の中で自由に遊ぶ子供の姿が少なくなったことを『幼衰』と表現して憂いておられた。アファンの森で子供たちが遊ぶ様子を聞いて、三浦半島で柴さんと過ごした日々を思い出した。子供たちと木登りをしたり、藪の中や古い洞窟を探検したり、川を遡ったり、縄文ピザ(マテバシイの実を粉にして作る)を焼いたり、できることは限りなくあったっけ。

photo 近くにアザミ1輪咲き残っていた弥生池 アファンの森
近くにアザミ1輪咲き残っていた池

自然をよく知る指導者がいて、泥んこになっても着替えられる設備がある自然を、子供たちの生活圏の近くに用意したいといつも話しておられたけれど、アファンの森をご存知だっただろうか。もしかしたら、天国とやらでニコルさんと柴さんが「後の者たち、うまくやってくれるかね」などと語り合っているかもしれない。ふっと微笑ましく思ったり、現在を生きる者の責任の大きさを思ったりした。

photo 苔か粘菌か
苔か粘菌か

photo アファンの森『風のとおるところ』で友人と
『風のとおるところ』で友人と


秋色の中で森の空気に包まれて過ごす時間、日本中にここの風が渡っていくといいなぁと願っていた。森の玄関口に戻り、案内してくれたお兄さんから友人と一緒の写真を撮っていただいた。お礼の言葉は「また来ます」。




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