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54 高標山 1747m(長野県)

2018年10月3日(水)


家を出る時間を少し遅らせると、出勤ラッシュを避けることができ、道路は比較的空いている。長野から北へ走り、中野市を通り過ぎて国道403に入り、高社山をぐるっと巻いて木島平村の方へ向かう。ほとんど走る車もない道を快適に飛ばしていると、いきなり目の前に!

本当に心臓が縮むとはこういうことを言うのだろう。道路の右の叢から大きな鳥が車に向かってヒョコヒョコッと走って出てきたのだ。赤と緑がきれいな大型の鳥、キジだ。幸い車が他にいないのでブレーキが間に合い、キジは左の草の上をきれいに飛んでいった。

「残念、キジ鍋を逃したか」、「キジにも自殺願望ってあるのかしらねぇ・・・」 などと言えるのは、本当にホッとしたあとのこと。


キジを見送って少し走り、樽川の上流を渡るとすぐ右に折れる。くねくねと曲がる林道をカヤの平に向かってひたすら登る。しばらく登ると、周りの森の色が少しずつ明るくなってくる。濃い緑の中に、明るい茶色、黄色が混じってくるからだ。

秋色の世界

どんどん高度を上げていくと真っ赤に紅葉している木が増えてくる。あれはウルシかな。

さらに登り、何度も訪ねたカヤノ平に近づくとカンバやブナの大木が奥行きを感じさせる大きな姿を見せてくる。目を楽しませながら走って、牧場の広がりに到着。いつもはここに車を停めて、カヤの平を歩くのだが、今日の目的地はもう少し先。キャンプ場の先の林道入り口に車を停める。林道は一般車通行止めとなっているので、ここから林道を少し歩いて登山口へ行く。


さて、いよいよ山歩きの始まり。今日の目的は高標山、私たちは「たかっぴょうさん」と呼んでいた。ところが登り途中の看板に「こひょうさんKohyosan」とある。あれ、どっち?

「間違えていたのかしら」と言うと、「いや、そんな筈はない」と夫。

Takappyou or Kohyo?

別の看板にはちゃんと「たかっぴょうTakappyou」とあるのを発見した。最近のネットの記事には「たかっぴょう」との表記が多いが、「こひょうさん」とは古名だろうか。

これまでなんどもカヤの平の美しいブナ林を歩いた。北ドブ湿原や南ドブ湿原を歩くのも面白いし、奥まで行って八剣山には登ったが・・・高標山のことはあまり意識になかった。最近になってその名を知った私が「いつか行ってみよう」と言い出し、見晴らしが良いらしいとの情報を手に入れた夫も、乗り気になった。


ツル植物の紅葉

10分ほど林道を歩いて、登り始めるとカラマツのまっすぐな幹が目立つ。最近台風が多かったので、風で折れてしまったのか、まだ緑の葉をつけた枝が沢山落ちている。カラマツの幹を這い登っているツルが真っ赤に紅葉している。緑濃いササと対照的で美しい。そしてキノコもたくさん。時期が少し遅いのか、傘が開ききって崩れたようになっている大きなキノコがたくさんある。


ナナカマド

道は緩やかな傾斜で、ほぼ平らな森歩きと言ってもいいくらいだ。倒木や、落ち葉の影に顔を見せるキノコの種類はたくさんあるが、帰って図鑑を調べても名前が分かるものは少ない。私たちは見つけるたびに「ワァー」と言いながらキノコの撮影をして、ゆっくり登っていった。ほとんど登りではないと思いながら歩いた道だが、帰りには「あれ、こんなに登っていたんだね」と言うくらい、実は傾斜もあるのだった。けれど、私たちは木の葉の色比べをしたり、トチの実やブナの実を見つけたりしながら楽しく歩いているので、登りを感じない。

木の葉が黄色に輝くようになると周囲はカンバの森になっていた。明るい。ちょうど青空が広がり、秋の日差しを受けて森が黄金色に輝いている。ナナカマドの実が真っ赤に染まっているのも美しい。

そして、いよいよブナ!その姿はなんとも神々しい。大木がド〜ンという感じにそびえている。幹の中はほとんどえぐられて空洞になっているのに、見上げれば大きく枝を広げて豊かに葉を茂らせている大木もある。

ササの背が高くなってくると、緩やかな広がりの稜線に着いたらしい。登りの道はよく踏まれているのか見通しもあったが、稜線は背を越えるササが道の上にかぶさっていて歩きにくい。踏みあとはしっかりしているものの両手で払いながら進むからなかなか大変だ。所々湿地らしい広がりがあるが、倒木も多く、残念ながら見晴らしもない。

深いササを分けながら約30分再び登り始めるとじきに一つのピークに着く。山頂かと思ったそこは一つ手前の狭いピークで、山頂はそこからわずかに登ったところだった。

イワナシの葉が緑に茂り、ツバメオモトやゴゼンタチバナ、マイヅルソウなどの葉が黄色く茶色く重なっている道を一息登ると、山頂だった。

大きな石の祠が真ん中にドンと立っている。石垣が組まれていて、その石の一つ一つが大きい。昔の人が持ち上げたのだろうか・・・苔むしている石を見て、人のパワーのすごさを感じる。あまり名前も聞かない地味な山だけれど、昔は要所だったのだろうか。もしかしたら、この道をたくさんの人たちが往来したのかもしれない。大きな街道を行けない、いわくのある人たちが、胸に思いを秘めて緩やかな山道を一歩一歩歩いて登ったのかも知れないと思うと感慨深い。

山頂は狭いけれど、風が強いのか、植物に風のあとが残る風衝裸地の様子が見える。三角点にタッチしようとすると赤とんぼがやってきてとまった。一緒に登頂?トンボさんはどこから来たのかなぁ。

高標山頂でおにぎり       ↑トンボと

見晴らしがよいはずなのだけれど、雲と霧が上から下から白く空気を染めてきて、何も見えない。さっきまで青空だったからと、晴れるのを待ちながら持参のおにぎりを食べることにした。

残念ながら霧は濃くなるばかりだったので、諦めておりることにする。カヤの平は前が見えないほど霧に覆われていて幻想的だ。

山頂付近からカヤの平(左)など

カヤの平を下り始めると霧は晴れたが、今度は雌のキジが車の前を横切って行った。「キジに遭遇するのは歩いている時がいいね」などと話しながら山を下りると、町も雲が低くなっていた。




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