⬆︎Top 

12
入笠山(にゅうかさやま) 1955m(長野県)

2015年6月15日(月)

地図・入笠山


とてもポピュラーな山という印象の入笠(にゅうかさ)山に行こうと言ったのは私。湿原にアヤメが咲き乱れるところを見てみたいというのがその理由。長野から高速に乗り、諏訪南ICで下りるとじきに入笠山の登山口『富士見パノラマスキー場』への標識が見つかる。冬にはスキーに来たことがあるが、その時は神奈川からやってきた。


写真・入笠湿原 ウマノアシガタ スズラン
入笠湿原 ウマノアシガタ右上 スズラン

入笠山にはゴンドラが上っているので、らくちんだ。ゴンドラの山頂駅から森の中を少し歩くと一気に視界が開け、緩やかな起伏の大湿原が広がっている。アヤメではなく、一面のスズラン。アマドコロも混じっている。どうやら私の思い違いだったらしく。アヤメは森を縁取るように咲いているばかり。スズランはもちろん大好きな花だから、どこまでもスズランが続く湿原を歩くのは素晴らしいが、目指して集まった人間の多さにまたびっくり。学校の集団登山も3組出会った。月曜なのにこれほど人が多いとは・・・。

写真・アヤメ
アヤメ

気を取り直して見渡せば、湿原の緑と、森を彩るレンゲツツジの燃えるようなオレンジ。ウマノアシガタの明るい黄色も彩りを添えている。入笠湿原は広々しているので、整備された木道をゆっくり歩いていると、さしもの人間たちも様々な道に飲み込まれて行ったようで密度が薄くなり、ありがたい。


私たちは湿生植物の満開を楽しみながらゆっくり湿原を横切り、ひと登りして林道に出た。しかし林道は歩かず、一旦左に下りて森の中の道をゆっくり登り返して御所平峠登山口に向かう。沢沿いの道にはニリンソウが散らばり、サクラソウやクリンソウが緑に映えて春爛漫。眺めながら歩くうちに再び林道に出た。

写真・クリンソウ
クリンソウの群落
円内上 シロバナ、サクラソウ

いよいよ入笠山の登りになる。緩やかな斜面はお花畑になっている。緑一色にレンゲツツジが点々とオレンジを置いている。広い草原を登りきると、道は二つに分かれている。私たちは岩場コースと標識の示すコースを進んだ。頭上にはズミの純白、目の高さにはレンゲツツジのオレンジ、そして足元にはミヤマニガイチゴやツマトリソウの白。濃く、淡くレンゲツツジの縁取りの中を進んでいたら、クリーム色の大輪のツツジが咲いていた。町ではよく見かけるのに、オレンジの中に一点混ざるととても新鮮に見えるから面白い。

写真・レンゲツツジと黄色いツツジ
レンゲツツジと黄色いツツジ

岩場コースと言うほどには急な登りも無く、広い山頂に着いた。360度の大展望だ。カラフルな彩色写真入りの方向指示盤が置いてある。素晴らしい広がりなのだが、あいにく霞んでいる。さらに進むと大阿原(おおあはら)湿原があるので、そこまで行ってみようと、私たちは山頂をあとにした。


反対側の下山は少し急で滑りやすかった。下りきると、『法華道 佛平峠 1850m』という標識があった。法華道というのは修行の道だったのだろうか。さらに少し下ると沢があり『首切り清水』という。ここには『高遠藩から江戸に金を届けようと旅をしていた金奉行が、この清水で喉を潤そうとしたところを盗賊に首切られたという伝説がある』とのこと。昔は大変だったね、旅も命がけだった。

写真・ズミのトンネル
ズミのトンネル

今の幸せを感じながら、大切にしなくてはいけない何かを忘れているような気もする。首切り清水に少し首を傾げて、先へ進む。林道は思ったより長かったが、大阿原湿原に到着。途中までは車椅子も行ける立派な木道があり湿原を一回りできる。大阿原湿原はミズゴケの泥炭が堆積した高層湿原としては国内の最南端に位置するそうだ。湿原は淡い緑の芽吹き一色だったが、侵入してきたズミが満開。ズミは白い花と葉が一緒に出てくるから柔らかい印象だ。いくつもズミの花のトンネルを通り抜けた。後半の木道は森の中を通っている。木道の下にはかなり豊富な水の流れもあった。けれど、ズミやシラカバなどの木が少しずつ侵入してきている様子もよくわかり、こうやって湿原が乾いて行くのだと感じた。看板にも『湿原としては老年時代に入っている』と書いてあった。

写真・レンゲツツジの群落
レンゲツツジ


湿原を一回りしてどこかでお昼にしようかと言いながら、しばらく入笠方面に歩いた。来る時に見た『レンゲツツジ群落』という看板が気になる。もしかしたら人が沢山いるかも知れないけれど、行ってみようかと少し上りの脇道を入った。あまり人が歩いた様子も無い荒れた林道をしばらく歩くと、シラカバの裾にオレンジ色が広がっている。広場のようになっていて満開にはちょっと早いレンゲツツジがいっぱい。人っ子一人いない。私たちはオレンジ色の真ん中に座ってゆっくりお昼を食べた。森に囲まれた秘密のポケットみたいだね。誰もいないのがいいね。熊さんも出てこないでね。おしゃべりをしながらのんびりお昼を食べて、帰りは林道コースの『八ヶ岳ビューポイント』からの眺めを見ようと、出発。ササバギンランがポツポツと咲いている。

写真・サルオガセ
サルオガセ

林道歩きはどこもちょっぴりつまらない。足はでこぼこしたり柔らかかったりする土の感触が好きなようだ。でも、森の中を歩くのは気持ちがいい。道にせまった木の幹や枝にたくさんのレースのような糸くずがぶら下がっている。サルオガセだ。幕のように長いのもある。レースがほつれたようなこの景観を幽霊の背景と見るか、妖精の背景と見るかはその人の感性。

八ヶ岳のビューポイントはやはり少し霞んでいた。ここまでの林道歩きでは誰にも会わなかった。賑やかなところは一部でちょっと外れれば人に会わない、山の奥深さを感じた


再び賑やかな登山道に合流する頃にベニバナイチヤクソウの群落があった。ちょうど満開。そのほのかな紅を愛でて、入笠湿原にもどる。クリンソウの咲く沢筋の道では学校登山の一段とすれ違い、「こんちは、こんちは、こんにちは〜」と、かけ声の連続。さっきまでの静寂とは大きな違い。

写真・ベニバナイチヤクソウの群落
ベニバナイチヤクソウ

湿原の途中から左折、今度は森の道を通ってゴンドラ山頂駅に向かう。駅の周辺は『入笠スズラン公園』として整備されていて、人々が散策している。この公園にはクマガイソウとホテイアツモリソウが保護されている。クマガイソウはもう花の時期が過ぎていたが、アツモリソウはちょうど満開。その生育環境を人間が脅かしたためか、ちっぽけな欲望のために盗掘をはびこらせたためか、この花々はもう自然の中ではほとんど見ることが出来ない。柵に囲まれて守られて細々と生きている。それでも絶やしたくない。できれば増えて、自然の中に帰って欲しいと思ってしまう。そのためには私たち人間がもっともっと豊かな気持ちにならなければ・・・。それと、知識を持たなければ・・・。大きな課題をもらった。

写真・釜無ホテイアツモリソウ
釜無ホテイアツモリソウ




  • Gold-ArtBox Home