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118 猫の耳に登る 根子岳 2207m(長野県)

2020年8月27日(木) 


photo・菅平から初日の出  2020.1.1
菅平から初日の出 2020.1.1

新型コロナウィルスによる感染症が第2波とかで、ますます勢いを増している。感染に遠そうな外気を吸いながらの裏山歩きもいいが、猛暑。8月も終わりに近づいてのこの熱気はなんだろう。暑さに閉口して、標高の高い山に行きたいと口ずさむ。

我が家から南東の空の下に、菅平が見える。山頂からそのままなだらかに傾斜している、気持ち良さそうな稜線。根子岳と四阿山が重なって見えるのだが、この二つの山頂が重なって猫の耳に見えるから根子岳って言うけれど、本当かな。猫の耳に見える場所って限られていると思うけれど。

map四阿山・根子岳

山へ行こうと決めると、気分が一気に高揚する。おにぎりは夫、キューリやトマト、行動食は私、手早く準備して7時に家を出る。長野から隣の須坂市に入り、国道406号を登っていく。途中の道路が思ったより混んでいたので、菅平牧場に車を停めたのは8時10分だった。清々しい風が気持ちよい。

牧場は私有地なので、入山料として一人200円払って駐車場まで入っていく。気持ちよく山を歩かせてもらう、トイレもある、ありがたい。

photo・山頂方面に雲が湧く
山頂方面に雲が湧く

photo・牧場とスキー場を見下ろす
牧場とスキー場を見下ろす

駐車場で靴を履き替え、歩き始めたのは8時25分、しばらくは牧場の柵の脇を登っていく。白黒模様の牛がたくさん草を喰んでいる。真っ青な空に雲が飛ぶように流れていく。登るにつれ、後方に菅平高原の起伏が豊かにつながっていく様子が見下ろせる。奥ダボスから、遠く大松・つばくろのゲレンデまで見渡せる。雪がちらつくとワクワクして、冬の菅平に一体何回通ったことだろう。峰の原のゲレンデを滑った時は霧が濃くて周囲は見えなかったが、奥ダボスの上から見える北アルプスは白い壁になって連なり、見事だった。

photo・菅平スキー場にて(20年ほど昔)
菅平スキー場にて(20年ほど昔)

当時、ヘリコプターで根子岳山頂に行き、そこから滑り降りるツアーがあって、いつかやってみたいねと話した。20年も昔の話。

photo・登山道脇のヤマハハコ
登山道脇のヤマハハコ

休日のみの実施で予約が必要なことと、参加費用が高額だったことで見送っているうちになくなった。私のスキー技術が少し向上して、ロングコースのあるスキー場を目指すようになったことも理由の一つ。最近はヘリコプターではなく、雪上車で山頂へ行くツアーになったらしい。娘が着ていたスキーウェアのお古を着て滑っていたことも、今では懐かしい。


photo・アサマフウロ,ワレモコウ,シシウド,マツムシソウ
花がいっぱい

photo・白樺の森を行く
白樺の森を行く

ゆっくり登っていくと、登山道脇にはアサマフウロのピンク、アキノキリンソウの黄色、アザミの濃い紫に、ワレモコウの暗紅色、秋の花が途切れることなく続いている。ヤナギランの目立つ赤紫は終わりに近づいているが、マツムシソウの青紫は今盛りだ。根子岳は花の百名山に数えられているが、秋風が吹くようになってこの豊かさは、その名に恥じないと思う。

photo・ダケカンバの森
ダケカンバの森


白樺の森をしばらく登る。幹が太く、丈が低い。一面の笹が背丈を超えるほどだ。笹の根本にはハナイカリや、シナノオトギリが咲く。ツリガネニンジンの紫が風に揺れる。ツリガネニンジンは紫が基本だが、時々白い花を咲かせているのも楽しい。ヤマハハコは登山口からずっとお供をしている。

道は白樺の森の中を真っ直ぐ登っていくが、やがてダケカンバの林になる。太い幹は曲がりくねっているものが多くなり、さほど豪雪地帯でもないと思われるが、山上の冬は厳しい雪と強風の世界になるのだろう。

photo・ヤナギラン,ツリガネニンジン,アザミ,オヤマリンドウ,タカネシュロソウ,イブキジャコウソウ
秋を告げる花々


森を抜け、森林限界を越えるとお花畑が広がる。マルバダケブキの大きな黄色が遠くからでも目立っている。タカネシュロソウの暗い赤紫、オヤマリンドウの明るい紫、アザミにツリガネニンジン、夏の終わりは紫の花が多くなるようだ。そして鮮やかな黄色にも目を引かれる。

photo・アキノキリンソウ,マルバダケブキ,シラネニンジン,ミネウスユキソウ
高原の花々


雲の流れが速く、見ている間に目まぐるしく変わっていく。真っ青な空をキャンバスに自由自在に壮大な白の世界を描いていく。私たちは時々立ち止まって雲の流れを見ていた。

「前に登った時も雲が多くてアルプスが見えなかったね」。冬のあの大展望に期待して来るけれど、夏はなかなか展望が得られないのだろうか。「そういえば、家から見ていても夏は山頂が雲に隠れていることが多いよ」、たった2回の登山で何を決めつけようと言うのか、話しながら苦笑する。

photo・2020.1.26 地附山より
2020.1.26 地附山より

深く澄んだ空の美しさと、次から次へ湧き出す雲の勢いがそんな会話を誘い出すのかもしれない。根子岳と四阿山は、私たちが最近登ることが多い長野周辺の山からよく見える。独特の緩やかな稜線と、山の大きさが比類なく、どこから見てもすぐわかる。そして、この山を見つけると、その位置関係を探りながら他の山々を見つけていく、山座同定ができる。山頂に立って周囲の山々と地図上の山名をつなげていくのは展望の良い山歩きの楽しさだ。


ゆっくりゆっくり登るうちに山頂広場に到着。10時35分。何人かに追い越されたけれど、まぁまぁのコースタイムでしょう。残念ながらちょうど雲が厚い。雲の流れは速いのに、相当厚いようで、流れ去っても、流れ去っても私たちはまだ雲の中。諦めてのんびり早お昼を楽しもう。

四阿山から縦走してきたと言う男性と、山頂での写真を撮りあってからおにぎりタイムとする。男性はすぐ下っていったので、山頂は二人だけ。山頂の祠には「根子岳」と書いた板が置いてある。

photo・根子岳山頂(左下:20年近く前)
根子岳山頂(左下:20年近く前)

前に登った時には、山名の看板が無くて、道標の文字をバックに写真を撮ったことを思い出す。あの日、山頂に着いたのは午後2時をたっぷり回っていた。朝6時前に神奈川の家を出たのに、東京を抜けるまで時間がかかり、登山口へ着いたのは確か正午を回っていた。やはり雲に隠れていたので、早々に山頂を後にして下ったっけ。駐車場の牧場売店でクマザサソフトクリームを食べたことはよく覚えている。様々なテイストのソフトクリームが並んでいて、迷ったんだ。


photo・山頂でおにぎり
山頂でおにぎり

前に登った時のことを話しながら、のんびりおにぎりを食べる。風がある山上は涼しいけれど、下界は今日も猛暑。20年前には考えられなかった気温が続く。人は賢くなったつもり、幸せを作っているつもりで、地球の自然に刃を突き続けてきたのではないだろうか。目先の便利さに踊っているうちに、じわじわと足元が崩れてしまうような不安がある。波打ち際の砂の上に立っているような・・・。


photo・山頂近く、今昔(上:今、下:昔)
山頂近く、今昔(上:今、下:昔)

しばらく山頂の花を撮ったり、座って休んだりして待っていたが、雲は切れない。諦めて下ることにした。わずかに下って山頂を振り返ると、青空。「あら〜、もう一度行こうか」と言っているうちにまた白い世界になる。時々振り返りながら、青と白の変化も楽しんで、歩く。

コケモモの実が赤く染まってきた、山は秋だ。ガンコウランの黒い実も、シラタマノキの白い実も道の脇に続く。クロマメノキは、あまり実を発見できなかった、ブルーベリーに似た美味しい実なのだが。登山口あたりには木苺も赤く光っていて、これまた美味、味見だけさせてもらった。

photo・ミヤマニガイチゴ,シラタマノキ,ガンコウラン,クロマメノキ
秋の実り

昔は山の恵みをいただくことが楽しみでもあったけれど、登山者による自然破壊の問題も大きく、国立公園はもちろんだが他の山でも採取を禁じているところが多い。その土地で生活する人が、長い間の知恵をもとに自然と会話するように恵みをいただき、そのお裾分けを買うことで私たちも少しは地元にお礼ができるのかもしれない。手前勝手な浅知恵かもしれないが、今はそう思うことにしている。


森を抜けると青空が広がり、牧場から菅平高原の豊かな緑の広がりが見渡せる。雲は相変わらず流れているので、遠くの山は見えないけれど、涼しい風の中に立って晩夏の高原を満喫する。

photo・入場チケット(根子岳今昔、四阿山)
入場チケット(根子岳今昔、四阿山)

11時過ぎに山頂を後にしたので、午後1時には駐車場に着いた。牧場の売店は今日も営業している。コロナ感染対策のため、ビニール越しの注文でソフトクリームを買う。

車の中にこもった熱気を追い出しながら、私は長野の定番ブルーベリー、夫はバニラを味わった。

余談だけれど、家に帰って古い写真を見たら、牧場の入場料、20年前も全く同じ200円だった!




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