寒い。明け方の気温はマイナス4度くらいまで下がる。山道には霜が降りている。3月になったのに・・・と思うが、まだまだ春が遠いということか。 だが、暦の上ではもう春。セツブンソウが咲く頃だ。楽しみにして毎年のように出かけているのだが、なぜか雪が積もっていたり、まだ蕾ばかりだったり、タイミングが合わなかった。今年こそはとじっと晴れの日を待っていた。
そして、楽しみにしていたセツブンソウ、今年は満開だ。
白い花が森の中どこまでも輝いている。近くで見ていた女性が「この花は一つの花をじっくり見て楽しむ花ね」と仲間に話していたが、なるほどと思う。これだけの群生を見てもなお、花一輪が際立って美しく見えるのは素敵だ。白、黄色、青、ピンク、花の造形が形といい、色といい、見事という他ない。
だが、その造りは時々復習しないと忘れてしまいそうだ。白いふわふわの花びらに見えるのは実は萼。花びらは退化して、萼の内側にあるが、Y形に分かれてその先に黄色い蜜腺がついている。この花びらが二つに分かれるところにも黄色い縁のようなものがついているのもあるし、ほとんど黄色が見えないくらいのものもある。
中心には暗紅色というのか、暗いピンク色をした雌蕊が立ち、その周りを濃い青の葯をつけた雄蕊が取り巻いている。一本の茎が立って、葉は3全裂し、さらに羽状に細裂して、その葉の付け根から一個の花が立っている。
見飽きることがない美しい花だが、見れば見るほど個性豊かな咲き方をしている。白くヒラヒラした萼片は5枚ということになっているが、自由自在に変化している。形も細長いのやら、丸っこいのやら様々だ。
「八重の花はシナノセツブンソウと言う」と、以前来た時に教えてもらったが、八重なのか、ただ萼片数が多いだけなのか分からないほど変化に富んでいる。ちょっと数えただけで6枚から10枚まで簡単に見つかるのだから、「一体どれが本当の姿?」と、花に聞いても答えてはくれない。
それにしてもこれだけ広く満開だと、ぼーっと見ているだけで幸せになってくる。私たちはしばらく花の中でぼんやりしていた。
ここ戸倉セツブンソウ群生地は1万8千平方メートル程の広さがあり、地元の方々が保全活動を続けているそうだ。
セツブンソウは日本の固有種だが、里山が荒れていくにつれて生息地が狭まり、今では環境省の準絶滅危惧種に指定されている。石灰岩地に咲くと言われているけれど、被石灰岩地にもあり、落葉広葉樹林帯の林床や林縁に生える。多年草なのだが、花が終わると地上の姿は消えてしまうので、いわゆるスプリングエフェメラル(春の妖精)だ。群生の白い海の中には新しい小さな葉がたくさん開いていて、この群生地が豊かなことを感じる。発芽から3〜4年で花が咲くそうだ。
さて、たっぷりゆっくりセツブンソウに浸ったので、そろそろ山を降りようか。群生地の入り口には桜で有名な公園があるから、そこまで戻ってお昼を食べよう。以前は「戸倉宿キティパーク」と呼ばれていたが、昨年春から「戸倉宿サクラケアパーク」と名前が変わったそうだ。まだ桜の蕾は色も見えないが、見事な枝ぶりの下で弁当を広げる。今日は寒いせいか、オオイヌノフグリやホトケノザが蕾のままだ。朝から日が当たっていたあたりにはホトケノザが開いてきているが、この寒さではオオイヌノフグリもなかなか開かない。公園の端の大きな木の周辺にはスミレが咲いている。早春に咲くアオイスミレか、マルバスミレか、名前が分からない。薄紫の花も白い花もあるようだ。
お弁当を食べて、戸倉駅に向かう。駅裏にある車庫には懐かしいラッピングの旧車両が停まっているので、夫はここを通るのを楽しみにしている。今日は何かあるのか、大きなカメラを持った撮り鉄らしい人たちが数人集まっていた。朝はたくさんいた人たちが帰りには数人になっていた。後で夫が調べたところ、ここにある旧車両の一つが走る最後の日だったらしい。
私たちは切符を買ってホームに入る。今月中旬、数日後にはスイカが使えるようになるそうで、「しなの鉄道の切符を買うのもこれが最後になるかもしれないね」と話しながらホームで切符の写真を撮る。
長野駅から家まで歩いて帰る途中で、美味しそうなタルトタタンを購入、素敵な1日の仕上げは長野のりんごでできたタルトタタンに舌鼓!