先日久しぶりに茶臼山に登ったが、あいにく北アルプスの展望は得られなかった。今日はどうやら晴れらしい。もう一度行ってこようと夫は張り切っている。朝の雑用を済ませて出発。空は青いが、山道はまだ凍っているところも多い。今日は短絡コースで行って北アルプスの展望を楽しんでこようという楽々コース。帰りには私の買い物にも付き合ってもらおうという計画だ。茶臼山方面近くに事務用品専門の店がある。
家から50分ほど。暮れも押し迫って車が多いせいか、いつもより少し時間がかかった。旗塚の駐車場に車を停める。ここからは登りはほとんどない、並行移動コースだ。今日のように他の予定と合わせて展望だけ楽しもうという時には嬉しいコース。雪がない季節だとつい色々なものに目が移るのでこのコースでも時間がかかるのだが、今日はタッタッと進む。
木々の間から西の空を見るとアルプスが白く光っているが、雲も湧いて来たようだ、急ごう。まず、アルプス展望所に向かう。
黒い雲が中腹まで上がって来ているが、まだ美しい北アルプス北部の山々が見える。南部の穂高連峰は残念ながら雲に隠れてしまった。だが目の前に聳える爺ヶ岳、鹿島槍ヶ岳、五竜岳、そして唐松岳に続く不帰ノ嶮、白馬三山、いつ見ても見事な白い壁だ。中腹にかかる雲は少しずつ上に上がっているようだから、この素晴らしい眺めもあと少しで隠れてしまうだろう。白いスカイラインには微かに霞のようなものが見えるが、あれは風に煽られる雪煙だろうか。稜線上に朧に続いている。
しばらくアルプスの美しい姿に見惚れていた。見ている間にも雲が上がって来ている。もう少し遅くなると、この姿が見られなかったかもしれない。山頂へ行く前に来てよかった。さて、次は茶臼山山頂に向かおう。
針葉樹の森をゆっくり登っていく。葉が残る森は日の光を遮るからか雪が多く残っている。山頂が近くなると落葉樹も増え、太陽の光がさしている。山頂には新しい熊注意の看板がある。今年は熊出没のニュースが本当に多かった。私たちも菅平で一度出会っているが、熊は一目散に森の中に走って行った。いつから熊は人里を恐れなくなったのだろう。
さて、山頂でいつもの記念撮影をしてから帰ろう。ヒノキやスギの森を抜けると落葉樹の森だ。木々の間からアルプス方面が見えるが、雲が山頂部分まで上がってしまったようだ。早めに行って来て正解だった。
うっすらと雪に覆われた世界はモノトーンに近いが、時々きれいな若竹色が目に入る。ウスタビガの繭だ。今年はきれいな緑色のものが多いようだ。すでに羽化してしまっているらしいが、その見事な形と色に感心してしまう。
どうしてこの形になったのだろうと思うが、幾つ見つけてもきれいに同じ形を作っている。木の枝にくっついているところはとても細い線で何重にも巻かれているように見える。どんなふうにこの繊細な仕事をするのか、本当に不思議だ。
有旅(うたび)のあたりにはまるで白い花が咲いているかのように華やかな実をつけるニワウルシの木が多いが、この木はヤママユガを育てるためにその餌として植えられた歴史があるという。そうなんだ、と目から鱗がひとつ落ちた。この森ではヤママユガの繭をたくさん見るなぁと思っていたが、彼らの餌が豊富だということだ。その土地に生まれ育つ花も木も、そして虫も鳥も、もちろん動物たちも、それぞれに理由があってそこに生きているのだと、今更ながらじっくりと染み込んでくる。生半可な知識や思い込みで自然を蔑ろにはできないなぁと、また心に刻む。
登山口まで降りてくると、木の実の色も目に入るようになる。ヒヨドリジョウゴがオレンジ色に輝いているが、スイカズラの黒い実はほとんど見つからない。丸まって冬を越そうとしている葉はたくさんあるが、実はみんなどこへ消えたのだろう。木々の隙間から見えるのはオオウバユリの実だ。すっくと立っている先にたくさんの実を包んでいた殻がある。中にはまだ少し種が残っているようだ。
あっちを見、こっちを見ながら誰もいない森を楽しむ。そろそろ帰ろうか、お腹も空いたことだし。車を停めたところまでは緩やかな登りだ。山登りの最後に登るというのはなんか変だねぇと話しながらゆっくり歩く。だが、頭上にヤマコウバシの実を見つけたとたん「わぁ〜、かわいい」と、一気に足取りも軽くなるのだった。
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