朝7時20分、娘の家を出る。大船から横須賀線に乗って衣笠駅に向かう。途中の駅で友人と合流、一緒に衣笠駅から歩き出す。今日は青空が広がり空気が緩んでいる。ほんわかと暖かい。民家の間の狭い道を歩いて衣笠山公園の入り口に到着。衣笠山公園は昔何度も歩いたところだが、この入り口から入るのは初めてだ。民家のすぐ裏なのにかなり急な登りで、脇には沢が落ちている。茂っている木々は照葉樹が多い。アオキやヤツデの艶やかな緑が眩しい。サザンカも咲き出している。笹の茂りを見ながら歩いていくとノササゲの実が弾けて薄紫色に光っている。
先日ここを訪ねたのは10日ほど前、探していた実を見つけられずしょんぼりと帰った。その後、友人が一人で山を歩き、ついに見つけたと知らせてくれた。
来年の楽しみにしようと心に記していたが、たまたま娘のところに来る予定だったので、ちょっぴり時間を捻出してやってきた。
先日カワセミを見た池に、今日はカワセミが見えない。食事時間じゃなかったのかな。道の脇にはノキシノブが芽生え、葉裏の胞子嚢が膨らんでいる。オカダイコンは黒く稔った実を弾き始めている。先端の粘液が付くとペトペトとくっついてくる。花はほとんど終わっているようだ、白い花びらのあとがわずかに残っている。ガンクビソウの花はまだ黄色い。小さな株を見つけたが、今日は一株しか見つけられなかった。
園内至る所に大きく茂っているノシランの実はまだ薄緑色のものが多い。だが、じっくりと見ながら歩いていると、房の中に一つだけ小さな濃い色の実が混じっているのが多い。何か法則性があるのだろうか。だが、ほとんど実がないものも多く、実の大きさもまちまちで、なぜかは分からないままだ。ノシランの実は青くなるが、その中は白い種子。種子は硬くて鳥も食べないそうだ。実が残っていない穂もたくさんあるので、鳥が食べたのかと思ったが違うそうだ。実が落ちてしまうのはなぜなんだろう。この実は弾む性質があって、投げるとよく弾むそうだ。知っていれば試してみたのに残念だ。だが、青くなる前は弾まないのかな。これもまた来年の宿題か。ノシランの近くに住む友人に試してもらおうか。
公園の中にはいくつもの散策路がある。先日歩かなかった道を辿ってみたり、同じところにまた同じ花の変化を見たり、何度歩いても興味は尽きない。暗く茂った森の中の階段を降りていくと沢に突き当たり、橋がかかっている。ここは思案橋、おしゃれな名前だが、どんな意味があるのかな。友と話しながらあっちこっちと歩いてみる、なかなか得難い豊かな時間だ。
ゆっくり歩いていくとキチジョウソウが咲いていた。ヤブランとそっくりの葉が茂っている。根元を見ると太い根が這い出してその先端に新しい株が育っている。こうやって増えるから群落になっているようだ。キチジョウソウに喜びながら上を見ると、小さな紫の球が葉の影にこっそり隠れている。これがツルギキョウの実。前回来た時も探していて見つけられなかった実だ。実の付け根には萼らしいものが同じく紫色に染まっている。花の頃には筒形の花に添うようにある緑色の萼だが、今はそっくりかえっている姿で、タコの足のように見えて面白い。来年は花の時期に見に来ることができるだろうか。
今日の一番の目的、ツルギキョウの実に会うことができたので、足が軽い。青空の下、山頂からの展望を楽しんでから降りようと、山頂の展望塔へ向かう。今日は富士も大きい。三浦半島の真ん中なので、東京湾も相模湾も見える。伊豆大島が大きいのは先日も見たが、今日は東京湾の向こうに筑波山も見ることができた。冬の澄んだ空ならではだろうか。
さて、二人とも午後の予定が待っている。そろそろ帰ろうか。衣笠の商店街に寄り道してみようと話しながらギンモクセイの下を通る。たくさんの花が散って木の周りが白くなっているが、まだうっすらと香りがする。日本に生育しているキンモクセイ、ギンモクセイは雄株ばかりなので、実をつける木はなかなか無いという。いくつかの公園や植物園でまれに見られるらしい。 そして最後に、友人が得ていた情報を頼りにキッコウハグマの閉鎖花を見つけることができた。10年も前の情報と言うが、数株だったけれどキッコウハグマは確かに生き続けていた。なんと嬉しいことだろう。
私たちは足取りも軽く衣笠駅に向かった。長野で待っている夫には懐かしい「よこすか焼き」を買って帰ろうと、衣笠商店街に向かう。人々の生活を支える商店街は活気にあふれ、すれ違うのもぶつかりそうな楽しい通りだった。