長野から長岡までの直線距離はそれほど遠くないが、公共交通機関で行こうと思うととても遠い。昼までに到着すれば良いからと在来線に乗ったら、日本海沿岸をぐるりと回って各駅停車の旅になった。
懐かしい来迎寺駅まで迎えにきてくれた弟と合流。小千谷に向かう。
午後3時、用を済ませ建物を出たらポツリ、天気予報通り雨になった。帰りの電車まで近くの山を歩こうかと話していたが、これでは難しい。私は傘を持ってきたし、山男の弟も少しの雨くらいなら平気な様子。
けれど、今日長野へ帰る予定だから、あまりびしょびしょになってまで山歩きをするのもどうだろう。空を見上げながらしばし思案。「時間がなさそうだったら、昔遠足で登った桝形山くらいは歩けるかと思っていたけれど」と私がつぶやくと、「桝形山なら行けるよ」と弟。長岡駅まで行く途中だし、車で上まで上がれるから雨でも大丈夫。
弟の言葉に甘えて、桝形山へ行ってみることにした。もちろん、途中で雨が激しくなってきたら引き返そうと話しながら。
桝形山は小学生の遠足で登ったことがあるはず。だがかすかに記憶に残っている程度。弟は何回か登っているらしいので、おまかせ。
小千谷から長岡(昔は越路町だった)の桝形山へ向かうには途中片貝町を通る。花火で有名な町だ。道路沿いに大きな花火の打ち上げ筒が立っている。孫たちとここで遊んだことも懐かしい思い出だ。
片貝を通り過ぎ、登山道に入っていく。雨は止むことなく降っているが、激しくはならず、時折ワイパーを動かすほど。森の木々が迫る雨の道は仄暗いが、整備されている道で傾斜もそれほど急ではないので安心感がある。ところどころイチョウの落ち葉で道が真っ黄色になっている。「ここは実がたくさんあってぶちぶちいう」とか、「ここは雄木だから葉っぱだけ」などと弟が解説しながら進む。
しばらく走り、「めし塚」の看板があるところで車を停める。登り始めるとイワカガミの葉が一面に斜面を覆い、トキワイカリソウの葉もその上に揺れている。「すごいね。満開の時に来たい」と私が言うと、弟は「このあたりの山は、みんな一面に咲くよ」。
先に歩いていた弟が、「咲いてるよ」と呼ぶ。彼の足元には小さな白い花が見える、キッコウハグマだ。「わぁ〜、まだ咲いていたね」と、思わず大きな声が出てしまう。
「結構大きな群落だったから、まだ咲いているんじゃないかな〜と思ったんだ」と、弟も嬉しそうに言う。彼がキッコウハグマに会ったという話を聞いた時、私も見たいと言ったのを覚えていたようだ。
風車のように白い花びらの先端がくるりくるりと丸まっている。どの花を見てもみんな右回りの同じ方向に丸まっている。まるで何か法則があるみたいだ。花びらは十数枚あるように見えるが、じつは3個の5弁花がセットになっている。
私たちは傘をさしてしゃがみ込み、しばらく小さな花を眺めていたが、暗くなる前に降りなければ・・・と、再び車に乗る。またしばらく走って桝形山自然公園の駐車場に車を停める。こんな雨の夕方はもちろん他に車は見えない。立派な管理棟や、炊事棟もあるキャンプ場になっているが、今は建物が閉鎖されていて寂しい感じだ。
管理棟の脇を通り、キャンプ場を越えて山頂に向かう。気持ち良い広がりの山頂には方向指示盤もあり、晴れていれば見晴らしが良さそうだ。「いろいろな山が見渡せるんだけどなぁ・・・」と弟が呟く。
ボソボソと降り続く雨の中、三角点にタッチして山頂を一回りする。またチャンスがあったら、今度は下から歩いてこようと話しながら車に向かう。山頂の四阿も今は雨の下で寂しそうだが、もう一つ奥にも四阿があるという。 花の季節にはそちらも気持ち良い空間になると弟が教えてくれる。設備も整っているのに閉鎖したままなのは寂しいね、うまく活用できないものかと話しながら車に戻る。
長岡駅に送ってもらって帰路に着く。上越新幹線、北陸新幹線と乗り継いで帰る。長岡駅には今も大きな三尺玉花火の模型が展示してある。久しぶりに見ながら孫たちと一緒に見た日を懐かしく思い出していた。