何回も何回も歩いた道を登って駒弓神社に出る。今日は一人で家から歩いてきた。雲は多めで遠くの山は霞んでいるが、時々青空が見えるとパァーッと明るくなる。
駒弓神社に頭を下げて、山道に入っていくと、すぐエリマキツチグリがたくさん見える。誰かが並べたのか、一ヶ所に集まっているところもある。前に登った時もこのあたりにたくさんあったから、ここは彼らにとって良い環境なのだろう。
ここを登っていくと確かウメモドキがあったはず。あ、赤い実がいっぱい、あれは?藪を数歩かき分けて近づくと、やっぱりこれはウメモドキのようだ。だが、実に長めの柄があるから、これはミヤマウメモドキだろうか。
昨年秋に実を見つけたところに花を見たいと春に探したけれど、今年は花を見つけられなかった。小さな木だったから枯れてしまったのかと思ったが、どうやら私の目が節穴だっただけの話だ。良かった、無事に今年も実っていて。
まださほど色づいてはいないけれど、黄色や明るい茶色に変わりつつある葉の中をゆっくり登っていく。熊のニュースが賑やかなので、いつもよりちょっと遅めの出発にした。朝と夕方は避けたいから。
だが、怖いのは熊ではないことに気づく。自分の心、いや脳と言うべきか、記憶が呼び起こす様々な恐怖心が一番怖い。目の前に実態がない恐怖心は背中あたりに張り付いたようにゾワゾワと襲いかかってくる。「大丈夫、大丈夫」と自分に言い聞かせながら競り上がってくる胃袋を抑える。
誰にも会わずにパワーポイントまで到着。自分の腰の熊鈴がリーンリーンと響く。春にはヤマブキが満開になる斜面にはノブドウが実っている。ノブドウの実は何色にも変化していくので面白い。一体本物はどれ?と聞きたくなる。
パワーポイントで一休みして歩き始めると、時々地附山で会う男性が降りてきた。「熊のニュースのせいか、あまり人に会いませんね」と言う。彼はほぼ毎日登っているようで、しかも登る時間が日々変わっているそうだ。毎日決まったように同じ時間に登るという人もいるし、この男性のように日々変わるという人もいる。地附山は色々な人に愛されている山だと思う。
男性と別れて、山頂までは一息。今日の雲は北の方にも多いようで、飯縄山は半分雲に覆われている。ベンチに座って煎餅を齧りながら、時々立って山頂にある木の実、草の実を見て回る。サルマメの実かと思っていたところをよく見ると、サルトリイバラが混じっているようだ。イヌツゲの木に絡まって、低いところにいるのでサルマメかと思っていた。
分かっているつもりでさらっと見ていると騙されてしまう。しっかり見ると、違いが見えてくることも多い。
さて雲も多いし、帰ろうか。パワーポイントまで降りてくると熊鈴の音と話し声がする。腰にカゴをぶら下げた男女が3人登ってきた。「今はどんなキノコが採れるんですか」と聞くと、カゴの中を見せてくれた。キンタケという黄色いキノコが入っている。先日戸隠で教わったばかりのキノコだ。と言っても自分ではまだしっかり同定できない。
キノコといえば、今年はホコリタケがたくさん目に入る。ホコリタケにはキツネノチャブクロと言う別名があるそうだが、他にタヌキノチャブクロというそっくりさんもいる。主に朽木の上に生えていて、表面が粉っぽいのだが、よほどじっくり見ないと同じものに見えてしまう。
ホコリタケも幼菌は食べられると聞き、一度食べてみたがあまり美味しいとは思わなかったので、最近は見つけても採らない。キノコはいっぱい見えるが、採るのは怖い。撮るだけにしておこう。
森の中をゆっくり、しかも足元の草むらを見ながら歩いていると、小さな発見もある。草の陰に隠れて咲くカナビキソウの実を見つけた。花も白くて小さいが、実は一段と地味で草むらに埋もれてしまっている。そして落ち葉の上にも小さな不思議があった。糸でくっついたような丸い点、カゲロウの卵のような形だ。これも小さな虫の卵なのだろうか。
正午のチャイムが聞こえる。急いで帰ろう。
今日のお土産は、やっぱりこれ。家で書類と格闘していた夫は、美しい艶やかな赤に大喜び。食べるところはあまりないけれど、昔から絵のモデルになることも多い、魅力的な色と形のお土産とは、見事に実ったザクロ。