寒くなった。さすがに里山にも花はほとんど見られなくなった。秋の名残の花がちらほら見られるが、茶色く、黒く枯れた中にわずかに名残の花を残しているものがある。山道のお供のように咲いていたシラヤマギク、アキノキリンソウ、ゴマナにミズヒキなどがわずかに花の姿を見せている。
まだこれから咲いてくるのはリュウノウギクとナギナタコウジュか。山頂の稜線を越えたところにはウメバチソウとセンブリが咲くが、そろそろ終盤ではないだろうか。
最近新聞誌面では熊出没のニュースが賑やかだが、地附山はいつも人が歩いているという安心感があるからか、昼は大丈夫かなという見込みからか、何人もの人に会う。以前より熊鈴を鳴らしたり、ラジオをつけたりして歩いている人が増えたのは当然か。そういう私も以前は持たなかった熊鈴を鳴らしている。
今日は私が「地附山に行ってこよう」と言った。夫は当然のように支度を始めていた。体調は万全とは言えないかもしれないが、ゆっくり歩いてくることが体に良い気もするようだ。
公園が開くのを待つように駐車場に車を停め、山靴に履き替える。今日の目的は山へ行くことそのもの、笑われそうだが、何度も何度も山道を歩きたい。誰かと一緒ならなお良い。
公園を出て、いつもの道を登り始める。さて、そろそろ出ているかなと言いながら斜面を見上げるのと「あ、いるよ」と言う夫の声が同時だった。斜面にポコポコと顔を出しているのはベニテングタケ。いつ見ても可愛いと言ってしまう。絵本のキノコはまさしくこれだ。真っ赤に輝く傘に白いポツポツが飾ってある。そして太い柄は真っ白。
見渡すがまだ数個しか見えない。多い時は一面に顔を出す斜面に、今は並べたように寄り合っているだけだ。近づいて写真を撮りながら、これからたくさん出てくるのかな・・とつぶやく。
最初にベニテングタケを見てうれしくなった私たちは足取りも軽く先へ進む。「粘菌はいないかな」「雨が降らないからね」と話しながら森の中へ入っていくと、なんだか変な匂いがする。あ、スッポンタケだ。まだすっくと伸びたばかりのスッポンタケだが、暗緑色のグレバには小さな虫がいっぱい集まってきている。そしてもう一本、近くに伸びたスッポンタケがあった。
今年は白い卵状の幼菌を発見できなかったが、いきなりヒョロリと伸びた成体に出会うことができた。これもまた嬉しいことだ。
ところどころに赤いイクラのような粘菌ヌカホコリを見ながら歩いていく。赤い粘菌は目立つので、あちこちの倒木を見ながら進む。リュウノウギクが数輪咲いている。例年たくさん咲くところより手前の道沿いに咲き出している。
山頂に着くといつものおやつタイム。新潟の美味しい煎餅が我が家の人気だ。山頂にはナツハゼの実がたくさん実っている。デザートに少しだけいただく、甘酸っぱい山の味だ。
近くにはイヌツゲの実もたくさんあるが、色は似ていてもこちらには毒があるそうだから、食べない。いっぱいツルを伸ばしているアオツヅラフジの実も、毒を含むらしいから食べない。
木のベンチに座って飯縄山を眺めながらしばし休憩した後は、センブリとウメバチソウの咲くところまで往復してこよう。道沿いにたくさん顔を出していたキノコはすっかり消えてしまった。トキイロラッパタケやベニウスタケなど赤い帯のようになっていたものだが。
センブリはほとんど終わってしまっていたが、ウメバチソウはまだ純白の花びらを残していた。
ここでもしばらく花見をしてから再び山頂へ戻り、今日は旧道をゆっくり降ろう。先日は雨の後で滑りやすく疲れたが、今日は乾いているので大丈夫だ。
さて、ゆっくりゆっくり道の端に盛り上がった枯葉や枯れ枝の中を見ながら歩く。そして見つけた。チャダイゴケ、小さなこのキノコはコチャダイゴケと言うらしい。今年はとても少ないけれど、まだ茶碗の中におはじきを持ったままの姿を見ることができた。おはじきのような茶色いものは胞子嚢で、雨などで茶碗の中から弾き飛ばされて増えていくそうだ。全体がとってもとっても小さいので、この不思議な姿のキノコを見つけるのは難しい。そして今年は特に少ないようだ。出会えて嬉しい。
ゆっくり下を見ながら歩いていると、落ち葉を持ち上げるように小さなキノコたちが顔を出している。名前の分からない小さなキノコがたくさん見えて、いつか分かるようになるかなぁと呟きながら歩いていた。