9月末に地附山に登った時はウメバチソウが一輪、センブリもわずかに開いてきたところだった。そろそろ咲いているのではないかと思ったが、空はどんより、昼頃からは雨予報だ。なんとなく空を眺めていたら、夫が「地附山に行ってこようか」と言う。しばらく用が重なったり体調が思わしくなかったりして山歩きをしていなかったが、「ゆっくりでも歩いた方がいいかな」と、前向きだ。
それでは雨が来る前に行ってこようと、急いで支度をして出発。地附山公園まで上がったら車が多い。しかも公園の入り口には登り旗がヒラヒラしている。「県野鳥の会」の探鳥会と重なってしまったようだ。やってくる車に指示をしている人に「今日はどの辺を歩くのですか」と聞くと、「この近くだけですよ。クマも出るようだし、遠くには行きません」と苦笑い。
私たちは探鳥会の人が出発する前に上に行こうと歩き出した。
前に来た時から一週間も経っている。アキノキリンソウが満開だ。オケラは萎んで、ヤマハッカの薄紫は元気だ。まだ緑の勢いはいいが、少しずつ黄色や茶色が忍び込んでいる。ミヤマガマズミの赤い実は輝くばかりに膨らんでいる。ガマズミ酒を作る人も多いと聞くが、どんな味なのかな。作ってみたい気もするが、作ってもきっと飲まないだろうと思うと手が出ない。
いつもの道をゆっくり歩いて六号古墳の方へ入る。切り株がたくさん積み重ねられているところを一つ一つ覗いていく。雨も降ったはずなのに、その量が少ないのか、山は乾いている。新しい粘菌の姿はあまり見られない。それでも小さなモジホコリの仲間を発見して喜ぶ。
森の中にはキノコもたくさん顔を出しているが、みんな大きくなって干からびそうだ。雨が降らないからかな・・・などと話しながら歩いていたら、ポツポツと薄茶色の傘が広がっている。「あ、アミタケ」「これは採っていきましょう」。やっと出てきたねと言いながら、カバンから袋を出してニコニコ、キノコ収穫だ。
キノコの周りには小さな虫が集まってくる。虫にとってもキノコは美味しいのか。森には虫がたくさんいるが、それぞれ食べるものが違っているようだ。何年も前にキノコかと思って写真を撮ったまま何だか分からなかったものが、貝殻虫を調べていて分かった。ヒモワタカイガラムシ、木を枯らすので、害虫らしい。白い輪のようなものがぶら下がっていて面白い形だが、木の枝を白く取り囲む貝殻虫の仲間と聞いてなんとなく頷ける。以前見たきりで、その後出会わないのでたくさん発生してはいないようだ。最近マツやナラが害虫につかれて枯れてしまうことが課題になっているから、虫のことも少し気にかかる。
粘菌を見たり、稜線から街を見下ろして電車を見たりしながら山頂へ向かう。森の中には巨大に傘を広げて枯れかかったキノコがたくさん見える。大きなどら焼を転がしたようで面白い。ハツタケも何個か見つけたので、袋に入れる。
途中でクリも拾ったし、ご機嫌で山頂に立つ。飯縄山は霞んでいるが、奥の妙高山も雲と遊んでいる様子に見える。雲が増えてきたようなので、急いでセンブリを見に行こう。あちらにもこちらにも、今年はたくさん咲いている。ウメバチソウも大きく開いている。純白だ。
花を見ていると、時々霧のような粒が流れてくる。青空も太陽も見えるが、大きな粒も当たるので、今日は急いで帰ろう。道端のノコンギクやゴマナを見ながら歩く。途中、気にかかっていたアケビも収穫。山の幸はたっぷりというほどにはなくても気持ちがホクホクしてくる。
一気に公園まで降りると、草刈りをした斜面にポコポコと焦茶のキノコが並んでいる。ガンタケのようだ。だが、そっくりなテングタケかもしれない、なかなか見分けがつかない2種のキノコだが、どちらも毒キノコなので間違えて採ってしまうことはない。あまりにたくさん生えているので楽しくなってしまう。
公園入り口まで降りていくと探鳥会の人たちが帰っていくところだった。ミニ山野草園のところに西澤さんの姿が見える。西澤さんも探鳥会に参加していたそうだ。今日は20種の鳥を観察したというのでびっくり。私たちはカラスとカケスとヒヨドリくらいしか分からないのに・・・。
たくさん育ったアサマフウロの種をもらい、美しいジョウロウホトトギスの姿に感動して眺めてから車に向かった。家に着く頃フロントガラスに雨粒が落ちてきた。
帰ってからの仕事は山の恵みのこしらえだ。しばらく水につけた後、栗は皮を剥いて栗ご飯用に、アミタケとハツタケは茹でて下拵え。アケビはしばらくそっと置いて、甘みがつくのを待とう。
秋の味覚に感謝しながら、次はいつ行こうかなと、楽しみが膨らむ。